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石炭紀紀行――自然誌・気候・地誌、および民俗  作者: 夢幻考路 Powered by IV-7
おそれ、ウチ、ソト -ここは因習村なのか?-
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Redundancy

「……あなたたちはいいわよね」

アリアの言葉だけが、ぽつりと響いた。表情はまだ険しく、眼に力は、みあたらない。


ふと、風に乗って、どこか遠くから笑い声が聞こえてきた。

内容はわからなかったが、村人たちの、屈託のないおしゃべりの声だということは疑いようもなかった。

耳を澄ませば、この広大な作業艀のあちこちから、喋り合い、笑い合う声がこだましているではないか。

――なぜ今まで気づかなかったのだろう、と私は、へたり込みながら、己を嘆いた。


「ケイははじめから、そっち側でしょ。

籠だって最初からできて、褒められて。

……あたしだけよ、のけ者にされてるのは。」

アリアはうつむき、口元を歪めた。

「……役に立ちたかっただけなのに。

二人で続けて。あとで私も追いつくから。」


アリアがそう呟くと、ようやく、蔓から手を離した。

白い束が、ぱさり、と床に広がって、綺麗に揃えられていた蔓が、ぐしゃぐしゃに絡まりあった。


しばらく、何も言えなかった。

ただ、向こうから聞こえてくる、何か楽し気な話し声だけがバックグラウンドに響いていた。

「――ああ、なりたかったわ。でも――あたしには無理そうね」

虚空を見つめながら、アリアは小さく息を吐いた。

私には、何も答える言葉が見つからなかった。


「ねぇ、私のこと、働き者だと思ってるでしょ」

沈黙を破ったのは、リリィだった。

彼女はゆっくりと私から身を離し、アリアの目をまっすぐに見つめた。


「そりゃそうでしょ、ここでもずっと引っ張りだこだし」

そう、私は思った通り、そのままを言った。

アリアも無言で頷いている。


「たしかに、ずっと戻ってこれなくてごめんなさい。でも、あなたたちが思ってるようなのとは、ちょっと違うのよ」


「違う?」


「ほら、修理に行くでしょ?そうすると、まずどこどこの誰々さんがこれに気づいて、それから誰々さんが見に行って…って感じで、1時間くらい話が続くのよ。」

「それは……大変そう」

「で、修理を終えるでしょ? そうすると今度は、『せっかく来たからお茶でも飲んでってくれ』って、また二時間くらい話し込んで……」

リリィは肩をすくめておどけてみせた。


「はいはい。サボってても受け入れられてるって、いいご身分ね」

アリアはそっぽを向き、不機嫌そうに皮肉を言った。


「いや、そういうことじゃないと思う。むしろ……逆なんだ」

私が思わず口を挟むと、アリアが鋭い視線を向けてきた。

「じゃ、サボってるほうがいい、ってわけ?」


「いや…そうじゃなくてさ、ボクたちも、カフェの隣席で猛勉強してるやつがいたら、どう思う?」

「負けずにやるか、邪魔しないように立ち去るわ」

「でしょ。」

「らしくもない。だってケイ、あんた、気にせずに隣で戦利品の整理とかし出す人でしょ、平気で」

「ま、するけど。だって気にしてもしょうがないし、カフェでやってる以上、そのくらいの覚悟があるとみなすべきだと思うよ。邪魔された!って言える筋合いじゃないはず」

アリアが呆れたように鼻を鳴らす。

「でも、言いたいことはわかったでしょ?」

「なんとなく。……で、あってるの? それ」


アリアが疑わしげにリリィを見ると、彼女は苦笑しつつも、「ま、少なくともそういうところも、あるわね」と頷いた。

アリアは道具を、ようやくしまう。


その様子を見届けてから、リリィは再び話し出した。

「さっきの話に戻してもいい?実は私も、ちょっと「やりすぎ」の部類なのよ。」

「やりすぎ?」

「そ。村の人たちは、むしろ「必要に駆られない限り、1日にやる仕事は1つまで」って決めてるみたいなのよ。籠編みだったら、その日は籠編みだけ。って。残りは休むか、話すか。それでね、旅人さんたちは無口だねぇって」

「・・・」

――そういうことか。

「みんな、困ってたんだ。私たちが何したいのかわからなくて」


「そうなのよ」

リリィはポンと手を叩いた。

「ここの人たち、思ってることを何でも口に出して、それからその上で物事を決めてくの。だから、何時間も話が延びるし、しょっちゅう喧嘩にもなるわ。でも――」


「ブラックボックスは、嫌だ、で、合ってる?」

「そういうこと。よそ者なのに無言で猛烈に仕事して、何を聞いても愛想笑いで、何かに怯えてるみたいで……挙動不審で不気味だって、そういう噂が私のところまで流れてきたの」

「なるほど……」

「それで私が適当に相槌を打って誤魔化してたら、『女のほうの旅人さんがあっちこっちの仕事に手を出し始めて、しかもものすごい形相で怖い』って情報が入ってきて。ごめん、流石に止めてくる! って飛んできたの。遅くなってごめんなさいね」

「…」

アリアはぽかんと口を開けたまま、瞬きを繰り返した。

そして、はぁっ、とため息をつく。

眼に輝きが戻っていた。

「じゃ、解決は簡単ね。チャチャッと済ませて、たくさんインタビューする。それでいい?」


「――それでいいの?」

私は半信半疑で、リリィを仰ぎ見る。


「いいと思うわ。それに――いろいろ、面白い話が転がってるもの。」

「たとえば?」

「なんか、よくわからない謎の巨大生物とか、夜に火をもって飛ぶ蟲とか、そんな話なら、挙げるに困らないくらいよ。それって…旅の目的にも、合致するんじゃない?」


「Exciting!」

そう言って立ち上がると、アリアはどしどしと村人に向けて突進し始めた。


「いや、いくらなんでももうちょっとやり方があるとは思うんだけど……」

あの変わり身の早さというか、スイッチのオンオフというか…あれは、私には理解できない。

私は呆れ果ててため息をつきながらも、隣に立つリリィの横顔を見た。

さっきまで引きつっていた表情が、ふっと緩んでいた。

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