第15話 辺境伯領の日々
自室へ戻ってベッドに横になっていると、扉をノックする音が響く。
「誰ですか?」
「僕だ。エドワードだ」
「エドワード様でしたか、どうぞ」
「失礼する」
難しい顔をしながら部屋に入ってくるエドワード様。
「そんなに思い悩んで……どうされたのですか?」
「あー、いや……フィセル、君に改めてお礼を言いたくてね」
「そんな、お礼を言われるような事は何もしていませんけど……」
「そんな事はない。君は僕の大切な領地を守ってくれたし、アドニスも守ってくれた。だから……ありがとう」
いつもとは違う真剣な眼差しにわたくしは胸が高鳴る。このままいっそ……思いを伝えるべきか。それとも――。
「あの……」
「どうしたんだい、フィセル」
「わたくし……エドワード様の事が……」
「うん」
「そ、その……なので……えっと、恋人とか」
「つまり、フィセルは僕とそういう関係になりたいのかい?」
こくこくと頷く事しかできないわたくし。もうここまで言ってしまった。後戻りはできないし……ちょっと後悔もした。嫌われたらどうしようという不安が襲う。
「……ごめんなさい。無理でしたよね」
「いや、ちょっと驚いた。君の方からそう言ってくれるとは本当に嬉しいよ」
ベッドに腰掛けるエドワード様は、わたくしの手を握って下さった。温かくて……優しい。
「……良かった。嬉しいです」
「でも、ひとつだけ言っておかなければならない事がある」
「……?」
「この眼帯だ」
赤い眼帯で閉ざされている左目。
そういえば、なぜ隻眼なのか理由を知らなかった。でも、触れてもいいのかも分からなかったから避けていた。
けれど、エドワード様は眼帯をそっと外す。
そこには『赤』ではなく『黄』の瞳があった。黄金にも近い輝き。黄色の瞳なんて……珍しい。
「綺麗です」
「ありがとう。この黄色の瞳は視えてはいない……前にも言ったけど戦争『ソールズベリー』でウィリアム将軍との戦いによって傷つけられてね」
「そうだったのですね……でも、妹さんはなぜ……」
「あぁ、妹は……エフィは選ばれし賢者だった。大賢者に匹敵する魔力を持っていたけどね。だから前線に送り込まれ、僕と共に戦地を駆け巡った。そして『ソールズベリー』で……片目を失った僕を庇って……」
「将軍にやられてしまったのですね……?」
「いや……将軍はその前に矛を交えている。その後だ」
「その後?」
「そうだ。共和国の影の総帥とも呼ばれた男『ウォレス』が僕を追ってきた。ヤツは、不思議な力を持っていてね……かなり追い詰められたよ。あの時、片目さえ失っていなければ……妹だって……」
悔しそうに唇を噛むエドワード様。
とても辛そう。
「その男の名は、わたくしも知っています。少しですが顔を合わせた事もあります」
「僕は今、ウォレスを追っている。そう……まだ復讐心が消えていないんだ。共和国が滅びても、ヤツは生き残っているはず」
「分かりました。わたくしも力をお貸します。そのウォレスを探したいのですね」
「ああ……こんな僕でよければ付き合って欲しい」
「お気持ちは察しております。共和国はたくさんの悲しみを生みましたし、わたくしの心もまだ整理がついていません。でも、今はエドワード様がいるから……生きていける」
「……そうだった。大切な事を忘れるところだった。僕もフィセルがいるから頑張れる。……おいで」
エドワード様に優しく抱かれ、しばらくベッドの上で過ごした。
◆◆◆ ◆◆◆
辺境伯領での農業は続く。
ほのぼのとした毎日。
平和な毎日。
素晴らしい農作物をゼロから作り、それをコーンフォース帝国で売ってお金にする。果物や野菜は飛ぶように売れ、美味いと絶賛されどんどん噂が広まった。
ヒューズ辺境伯の作るものにハズレはないと人々は口を揃えて言う。
「今日も完売ですねっ」
「全部売れてしまうとはね。記念にパーティでもしようか」
「それはとても名案です。そう思うでしょう、アドニスくん」
魔導書を顔に覆いかぶせるアドニスくんは眠っていたようで、ぼけぼけとした顔で起き上がった。
「ふはぁ~……。いいと思います」
また寝ちゃった。
最近は農作物の出荷とかで忙しかったし、疲れているのだろう。アドニスくんには魔法をたくさん使ってもらったし。
「エドワード様、今日はわたくしがお料理します」
「僕も手伝うよ、フィセル」
「はい、ありがとうございます」
――手を取り合い、忙しい日々が続く。
――いつまでも。
第一章に相当するストーリーが『完結』しましたので、一度締めさせて頂きます。また気が向いたら再開したいと思いますので続きが気になる・面白かったと思った方はブクマ・評価をしていただけたら幸いです。




