第14話 すべてを失った将軍
辺境伯領に『守護』を張った。
これでもうモンスターに襲われる事も、誰かに侵入される事もない。邪悪な意思を持つ者は、弾かれて相応の罰が下される。
「これで安心です、エドワード様」
「大聖女の『守護』か……優しい魔力を感じる。これがフィセルの力なんだね」
「ええ、今までは魔力が底を尽いていたので発揮できなかったのですが、今は十分な力があります。しばらくは持つかと」
「ありがとう。本当に感謝しかない」
あれからお屋敷に戻り、アンリエッタを埋葬。弔った。死んでしまえば、誰でも一緒。丁重に扱い――祈りを捧げた。
「エドワード様、フィセル様……いったい何があったのです!?」
ドタバタと慌しく駆けつけてくるアドニスくん。お屋敷の留守番をしていてくれたのだけど、事情は知らなかった。わたくしは、さっきあった事を説明した。
「――というわけです」
「将軍が現れて……アンリエッタが庇って? そんな……。また襲われるのでは」
「大丈夫。今はわたくしの『守護』で領地全体を守っていますからね」
「なるほど……って、大聖女の力ですか! そうか、だからさっき膨大な魔力を感じたんだ。驚きましたよ、急に白い光が領地全体を駆け巡ったんですから!」
「うん、だから安心してください」
「わ、分かりました」
納得するアドニスくん。
少し落ち着きがない。
察したエドワード様は、指示を出す。
「アドニス、お前には頼みがある」
「頼み、ですか」
「うむ。水晶で将軍の行方を追ってくれ。領地の外にはいるはずなんだ」
「やってみます」
ぽいっと『水晶』を投げ、魔力を込めるアドニスくん。ぴかっと水晶が光ると映像が現れる。
「どうだ?」
「……こ、これは……どなっているんです!?」
「何が見えたというのだ」
「辺境伯領外で将軍らしき人物が倒れています。そこに若い男性と……こ、これは『大魔女アレクサ』らしき人物も!!」
「馬鹿な! 将軍はともかく、大魔女だって?」
うそ……大魔女アレクサがいるの?
気になって水晶を見つめると、そこには確かに『将軍』と『カーマイン』……それに黒いローブの人物がいた。あれが『大魔女アレクサ』なのね。顔は見えない。
「これって……」
「ああ、フィセル。どうやら、カーマインは将軍を裏切ったようだな。大魔女アレクサと何かしらの契約を結んだのだろう。共和国の禁忌を破ってまでな」
じゃあ……カーマインが共和国を滅ぼしたようなものなの? もしかして、これまでの事は全てカーマインの仕業…………?
いえ、将軍にも野心はあった。
そうでなければ共和国の復活を望んだりしない。わたくしを執拗以上に求めたりしない。だから……。
「大魔女の動きありです」
アドニスくんの言う通り、アレクサがゆらり不気味に動き――瀕死の将軍を見下ろしていた。
『…………』
『だ、大魔女……カーマインではなく、この俺を助けろ!!』
必死に説得する将軍だったけれど、カーマインは愉快に笑う。
『ははははっ! ウィリアム将軍。アレクサを説得しようなど無駄だ。彼女には『共和国』を差し出した。そうだ、ずっとこの機会を待っていたんだよ、この私は!』
『カーマイン…………カーマイン、お前というヤツは!!』
『あぁ、最高の気分だよ、将軍。いや、元将軍。お前はとにかく欲望に忠実すぎた。やりたい放題やって国を滅亡させ……自業自得だよ。さすがの私も同情できない』
『こ、殺してやる……カーマイン』
『全身の骨が粉々なクセに何を言う。ウィリアム、お前はおしまいなんだよ。だがね、殺しもしない。生き地獄を味わえ。それがお前のやり方だったろう?』
『お前、お前ええええええッ!!』
叫ぶ事しかできない将軍。
今の彼は逃げる事すらできない。
ゆらゆら動く大魔女は、将軍に対し右手を向ける。
『…………ウィリアム、お前には死すら生温い』
『……アレクサ、俺をどうする気だ!!』
『お前の視力を奪う。再び暗闇に囚われ、永遠を彷徨うがいい』
『……なッ! やめ、やめろぉぉおぉぉぉぉおぉぉぉぉ…………あぁぁぁああぁあああああああ!!!』
両目を破壊されていくウィリアム。
血の涙を噴きだして、彼はそのまま倒れた。
さようなら、将軍様。
大魔女アレクサは、そのままこちらを向く。
『見ているのよね、フィセル。貴女の代わりにわたくしがウィリアムに罰を下したわ。死んではいないけれど――でも、これでもう彼には何も出来ない。幸せに暮らして』
「えっ……どういう事なの?」
聞く前にも大魔女とカーマインの姿は消えた。それから、水晶の映像も途切れてしまった。
「映像、消えました」
「……うむ。アドニス、よくやった。だが、大魔女アレクサのあの発言……フィセル、君は大魔女と関係が?」
少し警戒するエドワード様。
もちろん、覚えなんてない。
「知りません。話したのも初めてですし……わたくしも意味が分からないです」
「そうか……まあいい、大魔女アレクサの物言いからして、どうやら敵ではなさそうだし、辺境伯領にも影響はなさそうだ。それに、フィセルの『守護』が守ってくれている」
「はい……もし、わたくしに何かあったら切り捨てて貰っても構いません」
「いや、最後まで君を信じるよ。僕にはもうフィセルしかいないからね」
自然と見つめ合って距離を縮めていくと、アドニスくんが咳払いする。
「げふんげふん……」
「「あ……」」
辺境伯領に平和が戻った。
今はそれだけで十分だ。




