8歳 錬金術による調薬の勉強
異世界といえばポーション!という事でやらかしてみました。
ちなみに今回出てくる弟切草と女郎花は、流石に切れた指はくっつきませんが、実際に生薬として使われています。弟切草には血止めの薬効があり、女郎花には解毒・排膿の薬効があります。
8つになり、医学の勉強も基礎から応用、本格的な治療指導へと変わっていった。
日本と似たような作りになっている倭の国で日本と同じような治療はもちろん出来ない。流石にあれだけの高度医療を行う施設も無ければ機械も無い。だから医師資格をとれる医学部に入学出来るのは、「光か闇の異能」保持者である事が条件なんだけど。
簡単に言えば光は外科医で闇は内科医。外科医だって風邪の診察は出来るし内科医だって簡単な縫合は出来るけど、やっぱりそれぞれの得意分野を伸ばすやり方で指導される。ちなみに先生……神崎洸介医師は前世でとある総合病院の院長で、自身も第一線でメスを振るい更に救急診療にも携わっていた、名実共に総合診療医だった方だ。一度テレビで「日本の名医特集」に出演していたのを見た事がある。本人曰く知人に頼まれて仕方なく出演したそうだ。
撮影をしていたテレビクルーの数名が、よりにもよって救急車が病院に乗り入れる道に機材搬出用の車を路上停車していて、救急車が通れなくてブチ切れた先生が「邪魔だ!すぐさま出て行け!!!」って車蹴り飛ばして怒鳴りつけて、更に「何が撮影だ、何が番組作成だ!ここは命を救う為の戦場だ、戦の邪魔をして救える命が失われたら責任がとれるのか?とれると言うならとってみろ!!」って還暦超えた男性とは思えない覇気でクルー全員黙らせて車ごと追い返したんだよな。
その映像がまるまるテレビで使われちゃって、挙げ句そのテレビ局が番組内コメントで「院長の逆鱗にふれ怒鳴りつけられた」とかやったもんだから、放送後テレビ局が滅茶苦茶ネットで叩かれて大騒ぎになってた。
結局先生の奥さん(若い頃は看護師として先生の手術の機械出しを専属でやり、開業した後は経営手腕を振るい、事務長として大病院と呼ばれるまでに育て上げた超キャリアウーマン)が先生をなだめて、テレビ局と先生の間に立ち和解させたんだけど、この話題はしばらく「番組制作における倫理とは」って感じで他局のワイドショーでよくネタにされて、先生も名物先生として随分有名になった。おかげで名前覚えていて、あった時にあの神崎先生ですかと言って渋い顔をされ更に誰にも言うなと口止めされたのは記憶に新しい。
「集中出来ていないな、金城」
「え、あ、すみません」
先生は背中に目がついているんじゃないかと思う程鋭い。
ちょっと意識がぼけていると、すぐ指摘が来て、更に。
「皆はそのまま調薬を続けるように。田神、後を頼む」
「はい、先生」
年上の同級生達に見送られつつ(ちなみに俺の次に若い人で23歳、最年長の人は先生の助手も務めている32歳の田神さん。いつも俺が運ばれるのを苦笑しつつ見送ってくれる)担がれ運ばれる。
自分で歩けるといつも思うんだけど、逆らう方が怖い。今日もいつものように、担がれて保健室に運ばれた。
「あらあら勇希君、今日はちょっと早いわね?」
「どうせ昨日、本を読み過ぎて寝るのが遅かったんだろう」
「い、いえ、昨日はそこまで」
「何時に寝た」
「……午前2時に」
「肉体年齢に添う睡眠時間を心がけろといつも言っているだろう、この馬鹿者が!」
「す、すみません」
「今日の授業は9時からだから、どんなに長くても6時間かしら。ちょっと8歳の身体には少なすぎるわね。無理は駄目よ?」
養護の冴先生(神崎先生の奥さん。同じ苗字なのでみんな冴先生と呼んでいる)がいつものように、苦笑しつつ仮眠用のベッドを整えてくれる。
若いを通り越して幼い俺が医学部に合格した時、先生が追加の入学条件として出したのがこれだった。
「先生、俺、そろそろ昼寝は要らない年齢だと思うんですけど」
「常日頃より10時間の睡眠をとってから口答えはしろ」
「はいすみません」
「ふふふ、相変わらず素直ね」
集中が途切れた時の仮眠、つまりお昼寝をする事。
どんな特別扱いだと思うけど、俺は同い年の子供より小さく下手すると5~6歳に見えるので(前世でも中3までは150cm前後で、高校に入って一気に185cmまで伸びた)他のクラスメイトとしても、同じように授業を受け、錬金術を用いた調剤作業と医学実習を行い、休憩時間に文献を読み、同じ量のレポートを提出する俺に対し「子供が滅茶苦茶無理をしているようにしか見えない」という意見がほとんどらしく、むしろ連れて行ってくださいと運び出される俺を見送ってくれる。
「起きたら今日の調剤を見てやる」
「はい、いつもすみません、先生」
「馬鹿者が」
先生の「馬鹿者」は、いつも優しい。俗に言うツンデレだと思う。前世こみで精神年齢110歳(前世で亡くなった年齢が86歳、今は24歳だそうだ)の男のツンデレなんて何処に需要があるんだろうとは思うけど、いい先生だと心から思う。
乱暴に頭を撫でられつつ、そのまま目を閉じた。
だいたい30分位仮眠をとり、保健室の洗面所で顔を洗う。
「おはよう、勇希君」
「おはようございます、冴先生。いつもすみません」
「いいのよ、これは洸介の我が儘なんだもの」
起きる時間を見計らって冴先生が入れてくれたココアを飲んで、おやつを食べる。
今行われている授業が終わるまで、冴先生と一緒に過ごす。ここまでがお昼寝の一連の流れだ。
「前にも言ったけど、医学部は他の学部に比べて体力的にも精神的にも随分と厳しいの。だから転生者でも流石に早すぎるし若すぎるって周囲がとめたのに、ごり押しして入れちゃったのは洸介なんだから、勇希君はもうちょっと堂々と休んでいいのよ?」
「いえ、それでも入学を希望したのは俺ですから」
「ああもう……洸介に貴方の謙虚さのひと欠片でもあれば、あの時もあんなにもめなかったのに」
ちなみに冴先生も転生者で、前世でも先生とご夫婦だった。あの騒動の示談をまとめあげた超キャリアウーマン看護師だ。
もちろん精神年齢で何歳だなんて言っちゃいけないし思っちゃいけない。女性に年齢のアレコレを言う愚は絶対に侵さない。(前にやらかしたクラスメイトが宙を舞った事がある)
「勇希君」
「はい?」
「もうちょっと、ゆっくり大きくなってもいいのよ?」
「……はい」
本当に、俺の周りは俺に甘すぎる。
「今日の調剤は軽度創傷用ポーションだ。まぁ、基礎だな」
授業が終わった後、先生はいつも俺の為に俺が休んだ時間帯の授業をしてくれる。周囲には復習の為に他のクラスメイトも予定がない限り残っている。
「まず、弟切草を刈り取って、天日で乾燥させたものを細かく均等に刻む。この時手元にあれば乾燥した女郎花の根茎も刻んでいれてやると効能が上がる。
刻んだそれらを煮詰めながら、ゆっくり自身の異能を流し込む。注ぎ込んだ異能の量により効能が変わるから、しっかり注げ」
「はい」
今回は初めての作成なので、弟切草だけを刻み小鍋で煮詰め、異能をそそぎこんでいく。
いつも思うけど、調薬ってまるで料理だよな。
「出来上がったものは基本黄土色だが、色彩が黄色に近付けば近付く程効能が高くなる。理想は元の花の色のような薄い黄色……」
「出来ました、先生」
「一発で薄黄色か……相変わらず面白みのない」
いや成功したんだからそんな苦々しげな顔しないでください、先生。
「仕方ない、粗熱をとった後に薬用小瓶に詰めろ」
「はい」
粗熱がとれるまで待って、まるでゲームのポーションの瓶みたいな薬用小瓶に漏斗を差し、お玉ですくって小瓶にいれる。
ちょうど5本出来た治療薬の蓋を閉め、使った機材を洗い終わり、再度の指示を待つ。
「他の奴らはまず1回目にこげ茶色の使い物にならない代物を作り、だいたい2~30階失敗してようやく黄土色になるというのに……本当に面白みのない」
「その、何だかすみません、先生」
「いい。今日はこれで終わりだ、作ったものは持っていけ」
「はい、ありがとうございました」
今日作った薬の効能は、黄土色でだいたい20cm位の切り傷を癒す事が出来るそうだ。
ちなみに俺が作り上げた代物だと、切れた指位ならくっつくらしい。ナニソレコワイ。
冴先生に出来上がった薬を見せたら、調薬で食べていけると褒めて貰えた。副業で考えようかな。
持って帰った軽度創傷用ポーションは、せっかくなので綺麗にラッピングして、1本を父さん、1本を母さん、残り3本は一也に家族皆さんで使ってください、とプレゼントした。
俺が作った物だと言ったら何だかすごく驚かれ、有り難がられた。仕事柄、ポーションはいくつあっても足りないらしい。
道具を揃えたら家でも作れるだろうか?今度先生に聞いてみよう。




