9歳 ランクアップ試験と新しい友人
「ランクアップ試験、ですか?」
「おう、今のお前ならイケると思うんだよ」
9歳になり、積極的に町の中で受けられる依頼(病院のポーション作成依頼とか農家の手伝いとか色々。たまにご年配の方の話し相手なんて依頼もある)を受け続けていたおかげで、俺のギルドランクはEにあがっていた。
「9歳でEなら十分Dランクの実技試験を受ける資格がある。どうだ?」
「そう、ですね……」
ギルド加入した時からよくしてくれるギルド長の期待には応えたいが……。
「そんな弱者がDにあがれる訳ないわ!」
周囲にいた皆が、口々にDならいけるだろ、頑張れよ、と声をかけてくれた中。
まだ幼い声が、ギルド全体に響き渡った。
「あんた、確か、クラン・戦乙女の」
「9歳になってまだEにしかなれない才能の欠片も無い弱者が、今更Dですって?は、馬鹿馬鹿しい。あのお二方の血をひいていると思えない程の見苦しさね」
周囲がいっきにざわついた。
「流石に聞き捨てならねぇな」
「おい、嬢ちゃん。表出ろ」
「何?随分とお怒りね、貴方達。本当の事を言って何が悪いの」
「あんたの強さは判るさ、これでも冒険者やって長いんでね。だが勇希は俺達の仲間だ。仲間を侮辱されてキレねぇ輩は漢じゃねぇ」
何か凄く怒り狂った冒険者の皆様。いやみんな顔は正直ちょっと怖いけど、凄く良い人達で、俺にも凄くよくしてくれる人達で。
うん、ちょっと、仲間だって言われて、怒って貰えて、凄いじんときてる。嬉しい。
「クラン・戦乙女所属Aランク、クリスティア・ラーナ・グラード。
倭の国ギルド長、祠堂凱の権限により、『金城勇希』を公共の面前で侮辱し貶めた事に対する罰則を与える。罰則内容は貴様のクラン長に直接通知しておいてやる、ランクダウン位は覚悟しておけ」
「なっ……!?何の権限があって貴方がそこまで」
「俺の名前を聞いても誰か判らんか、戦乙女に所属している癖に。この倭の国でクラン・ゴールドキャッスルの人間を貶める意味も判らん馬鹿ガキなら、あれこれ教えられていなくても仕方ないが。
まぁいい、罰則が嫌なら俺と1対1で戦って一撃いれてみろ。そうすりゃ考え直してやってもいい」
「私も舐められたものね……!一撃と言わず、叩きのめして差し上げるわ!」
ギルド長の身体から、一気に湯気のように赤色の気が立ち上った。
ギルド長の異能は父さんと同じ炎。普段異能は制御されている状態なら可視化しない。
つまり。
「ギルド長、異能制御が振り切れる程怒ってんぞ」
「実の子と同じ位、可愛がってる勇希を侮辱されたんだから無理ないけど……あの嬢ちゃん、一撃入れられると思うか?」
「冗談やめろよ。怪我で現役引退したとはいえギルド長は元SSランク、炎龍の二つ名で呼ばれていた程の凄腕だぞ?瞬殺だろ」
異能制御が振り切れ、暴走寸前になる位、激怒しているという事で。
「駄目だよ、ギルド長!」
「安心しろ、勇希。殺しは」
「違う!いや流石に子供殺そうとしたら止めるけど、そうじゃない!」
物理的に熱くなってるギルド長にしがみ付く。
「やめろ馬鹿こら、火の異能持ちじゃないお前がさわったら火傷を」
「万が一異能を暴走させたら、内側から焼けちゃうのはギルド長だろ!?
お願いだから落ち着いて、内側からこんがり焼けて火傷なんて事になったら俺じゃまだ治療出来ないんだから!」
「……一応、この異能とはそれなりの付き合いで、簡単には暴走しないが」
「それでも!低温火傷しないとも限らないんだから、こんな物騒な使い方は駄目だって!」
人が怖くて、ほとんど目をあわせる事も出来なかった俺に対し、辛抱強く丁寧に優しく接し続けてくれた優しい人。ギルド長のおかげで他のみんなとも話せるようになって、今じゃだいぶ人に対しての恐怖感も和らいだ。
「お願いだから、自分を傷付ける怒り方はやめてよ、……凱さん!」
今まで呼ばなかった名前を、思い切って呼んだ。
所属している場の長ではなく、同い年の「友人」として、馬鹿な真似はやめて欲しくて。
「勇希……」
一気にギルド長……凱さんの炎がおさまった。
「俺の事で怒ってくれたのは嬉しい。ありがとう、凱さん。皆も。
でも、俺は凱さんに、友人に自分を傷付けて欲しくない。それに子供をボコボコにするのも流石にどうかと思う。彼女が謝ってくれるならそれでいいよ」
「子供子供と言うが、勇希、その小娘は肉体年齢はお前より年上で……ああ、もう」
凱さんがまだほんのりあったかい腕で、俺をぎゅうっと抱きしめる。
「そんな風に、しかも初めて友人だって言って貰って、更に名前呼ばれた後で言われたんじゃ、何にも言えないじゃないか」
「ごめん、凱さん」
今まで呼ばなくてごめん。
こんな時じゃないと勇気が出なくてごめん。
「しょうがない、お前に免じて」
「その必要はございません、倭の国ギルド長」
涼やかな声が聞こえ、振り向くと男装の麗人がたっていた。その腕には、気絶しているらしい先ほどの少女を抱えている。
「うちのギルド員が馬鹿をしでかし、真に申し訳ありません。少々しつけが行き届いていなかったようです。きっちり身体と精神と魂に刷り込みますのでご容赦ください。
ああ、ランクは最低ランクまで落としてくださってかまいませんので」
怒ってる。異能は制御してるけどものすっごく怒ってる。
綺麗な人が怒ると普通の数十倍怖いと聞くが、本当だなとしみじみ思った。
「しつけがなってねぇぞ、結奈」
「判ってるわよ。流石に今回はかばえないしかばう気も無いわ、金城の小父様と小母様が溺愛している勇希君にあんな馬鹿言ったんだもの」
「え、と?」
知り合いなのかな?
「申し遅れました、私はクラン・戦乙女のクラン長、祠堂結奈と申します。いくらキレたからと言って子供相手に本気出してぼころうとした馬鹿ギルド長の妻です。」
「ええええええええええ!?!?こんな若くて綺麗な人が!?」
「あら何て素直な子、でもそんなに若くないのよ?」
「勇希、騙されんな。単に若作りしてるだけでそいつはもう29」
ぼぐぅぅっ、と鈍い音がして、凱さんが床でのたうつ。
一応異能治療はするけど、凱さん、今のは流石にかばえないよ。
「今のは凱さんが悪いよ、女性に年齢の事言っちゃ駄目だって。それに、奥さん凄まじく綺麗じゃない。年齢なんて関係ないよ」
「本当にいい子ね、勇希君。うちの馬鹿が何か迷惑かけたら何時でも言ってくれていいのよ?」
「いえ、凱さんにはいつもお世話になっていますから。むしろ結婚していた事に驚きです」
「勇希、いくら何でもそりゃないだろ……」
「だって奥さんの話なんて聞いた事無かったし。」
「………だろう、が」
「え?」
「惚れてる女の事を男がペラペラ喋るもんじゃねぇだろって違うそんな事を言いたいんじゃなくてだな、とりあえずこいつが俺の女房だそれでいいだろ結奈その小娘はしばらく謹慎させておけ後でギルド本部と調整するからじゃあ勇希またな治療ありがとよ悪いがやる事が出来た失礼するっ」
真っ赤になって裏手に引っ込んでしまった。中学生か。
「あの人、あれで意外と純なの」
「……ゴチソウサマデス」
迷惑かけてごめんなさい、後で改めてご両親にも謝りに行くわ、と結奈さんはさっきの子供を軽々と持ち上げてギルドを後にした。俺もみんなに騒がせた事を改めてお詫びして、家に帰り父さんと母さんに凱さんの奥さんと会った話をした。
「そうか、ようやく結奈さんもこっちに帰ってくる事が出来たか」
「あらあら良かったわねぇ、4年も単身赴任なんて寂しかったでしょうに」
クラン・戦乙女の本部は別の国にあるらしく、4年前にトラブルがあって結奈さんがクラン長に就任したそうなんだけど、その頃にちょうど凱さんもこっちでギルド長にならないかと声掛けをされて、互いの仕事の為に離れ離れに暮らす事を余儀なくされていたそうだ。
「凱君が勇希に結奈さんの事話さなかったの、何でだと思う?」
「俺が聞かなかったからじゃなくて?」
「ふふふ、違うのよ。ちょっと酔わせて聞きだしたら『結奈の事を考えたら、名前を呼んだら、寂しくなる。何もかも放り出してあいつを抱き締めに行きたくなるから、話せない』んですって♪若いって良いわねぇ♪」
うん、純だ。こっちが恥ずかしくなる位純な人だ。
人は見かけによらないんだなぁ……(ちなみに凱さんと結奈さん、見た目的には野獣と男装の麗人だ)
「うん、決めた」
「勇希?どうした」
「どうしたの、勇希?」
「Dランクのランクアップ試験、受けるよ。頑張ってみる。」
俺のランクがある程度高ければ、今回のような事ももう起こらないと思う。そう続けると、両親は苦笑しつつ抱きしめてくれた。
ちなみに後日受けたランクアップ試験は何と凱さんとの立ち合いで、一撃入れたらランクアップ許可というものだった。どうにか頑張ってランクアップ出来た。ちょっと手を抜かれたんじゃないかと思う。
ちなみにそんな俺の立ち回りを見ていた他の冒険者達から、異様に自分達と一緒に冒険しないかと誘われた。一也と組む予定だと謝ってお断りしたけど、それなりに出来ると思って貰えた、かな?それなら嬉しい。
あとあの子供は、再教育とやらで別の国に即座に送られたらしい。ランクアップ試験前に凄く嫌そうな顔で謝りにきていた。もう出逢わない事を切に願う。




