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7歳 故郷の音色、故郷の行事

作中で使用している沖縄民謡「てぃんさぐぬ花」に関しては、著作権消滅(作詞作曲)の確認をとり、更になろう運営に問い合わせ、使用に問題がない事を確認してあります。

なお、今回は作中に沖縄でしか通用しないような言葉が多数あるので、後書きで一通り説明しております。ご了承ください。

ちなみに作者は三線弾けません。ですがうちの伯父は弾けます。時々酔うと弾いてくれます。

風邪で倒れた後から、両親が何だか俺を子ども扱いするようになった。

一緒に家事をして、一緒に畑仕事をして、時々同じ寝室で寝て、週に1回家族で出かける。そんな子供がいる家庭の日常を過ごしている。

記憶が統合した後から今まで人と一緒に眠った事が無かったもんだから(前世含む)信頼出来る人の温もりに包まれて眠るのは、面映ゆいけど何だかほっとする。でも俺も中身は41歳だから毎日はご遠慮願う。無理。恥ずかしい。

あと、倒れた事が伝わって、学校の課題まで減らされた。先生に抗議すると「医者の不養生を地で行った人間が何を言うか。自分の体調管理と身体づくりが出来ずして人を救えると思うな、未熟者が」と説教された。10歳になるまでは通学を週3日に減らし、身体づくりをきっちりやれ、医師は最後まで決して倒れてはならない職業だという事を理解しろとまで言われてしまった。情けない。でも正論なのでぐうの音も出ない。

こんなにのんびりしていていいんだろうか、と思いつつ、一週間のうち(ちなみに暦も日本と同じ。最近この世界は本当に「箱庭」なんだなと思えてきた)3日は学校、1日は街の中で出来るギルド依頼をこなし(ほぼ雑用。主に畑仕事とか簡単な診察)1日は鍛錬に集中し、残り2日は両親と一緒に行動している。

最近ようやくギルドランクがFにあがった。雑用しかしていないけど、地道にこつこつ依頼をこなし続けたのが功を奏したようだ。お祝いもして貰った。

(ちなみにギルドランクは上からSSS・SS・S・A・B・C・D・E・F・G。Eランクまでは依頼の実績でランクアップ出来るけど、Dランクから実技試験があって、Cランクから筆記試験と実技がある。ちなみにSSSランクは世界全体で10人しかいない。

うちの両親?SSSランクでしたが何か?ちなみにその10人の大半をうちの身内が占めてましたすげぇ肩身が狭いけど俺には無理ですごめんなさい)

うちの両親は、10歳になる前に既にSランクだったらしい。でも俺自身は到底そんな高みには昇れないと思う。まだ会った事ないけど、両親の兄弟の子供達は既に現役の冒険者として世界中をじぃちゃんばあちゃんず達と廻っているらしい。ちなみに転生者ではない。凄い従兄弟達もいたもんだと思う。


「よいしょっ、と」

「おいおい、一人でそんなに抱えんじゃねぇよ」

「あ、一也」


色々考えつつ、買い出しをして帰る途中。一也に荷物を積んだ台車をかっさらわれた。

きゃぅきゃぅん、と、一也の足元をちょろちょろと幸が駆けまわる。


「幸、あまりちょろちょろすんなよ、踏んづけちまうぞ」

「きゃぅーん」

「大丈夫だよ幸、こんな事言ってるけど一也は踏んだりしないって」


俺が両手でがらがら押していた台車を、一也は片手で軽々引っ張る。俺よりレベルは低い筈だから、基礎体力の差だよな、これは……うん、先生の言う通り身体を鍛えなきゃ。


「お盆の買い出しか?」

「うん、畑で育ててない果物とか、ある程度買っておかないと仏壇の飾り付けが出来ないしね。あ、よかったらたーんむ持ってく?」

「お、サンキュ。じゃあ代わりに豚肉代わりのオーク肉持って行ってやるよ、昨日親父が狩った奴。中身もあるから」

「うわ、ありがとう。どうしようか悩んでたんだよね」


一也は荷物を運んでくれただけではなく、更に家の仏壇(こちらの世界での両親のご先祖のご位牌が置かれている)の飾り付けまで手伝ってくれた。


「ありがとう、本当助かる」

「気にすんなって。そもそもお前の頭よりデカいだろ、この西瓜。どうやって仏壇まで持ち上げるつもりだったんだよ」

「気合で。本当は育てたものをお供えしようと思ったんだけど……」

「コカトリスが全部つついて喰っちまったんだったっけか。災難だったな」

「久々に動物に対して凄まじく殺意が沸いたよ」

「お前には悪いけど、久々にから揚げやチキン、煮込みまで喰えて俺は嬉しかった」

「いやそれ位コカトリス狩ってきてくれたらいくらでも作るから。鳥害被害喜ばないで」


けらけらと笑う一也をぺちぺち叩く。本当にショックだったのに。


「悪い悪い、おまけにこれもつけてやるから」

「って、ヒラウコーにウチカビ!?どうしたの一体」

「作って貰った」

「作って貰ったぁ!?」

「おう、隣国に錬金術師の知り合いがいてな。出来るか聞いてみたら出来るって言うんで作って貰った。俺の家の分は確保してあるから、ほれ」

「い、いいの?高かったんじゃ」

「気にすんなって」


恐縮しつつヒラウコーとウチカビを受け取る。錬金術なら作れるのか……ちょっと勉強してみようかな。

お礼を言って、大目にたーんむを渡して(ついでにたーんむのから揚げも作ってあったので重箱につめて渡した。大喜びされた)一也を見送る。


「さぁて、二人が帰ってくるまでに下ごしらえしなきゃ」


気合を入れてキッチンにたった。




「本格的なお盆になったわねぇ」

「久々にここまで整えたな」

「お盆はこうでなくちゃね」


仏壇に重箱と果物、グーサンウージを左右に並べる。久々にガンシナーも編んだ。

チトゥ用ウージもちゃんと用意してあるし、ソーローメーシやウークイカーサもある。ウークイカーサやウージ、ソーローメーシはこの日の為に手ずから育てた。なかなかのものが出来たと思う。もちろんミンヌクだってちゃんと用意してある。


「お重の中身もきちんと揃ったわねぇ」

「リヴァイアサンに頼んでかまぼこ用の魚も、新鮮なものを用意して貰ったからな」


……魚捕りを海の王者に依頼しないでください。切実に。ごめんなさいまだ見ぬリヴァイアサン様、うちの両親が失礼を致しました。

気を取り直してお重の中身を確認する。1段目にはおもちだけ15個。2段目には赤かまぼことカステラかまぼこ、オークの三枚肉、たーんむのから揚げにごぼうの煮付け、結び昆布に豆腐の厚揚げ、こんにゃくの炒り煮、沖縄天ぷら(白身魚)。うん、大丈夫こんなもんだろう。


「クファジューシーもいい御味ねぇ」

「しょうがの風味がたまらん。母さんより料理上手になったな、勇希」

「そんな事ないよ。母さんの料理の方が美味しいし、俺もそっちの方が好きだよ」

「本当にいい子なんだからうちの子はっ」


抱き締められ頭を撫でられる。


「そんな勇希にお土産よ」

「え?」

「少し本物とは違うが、まぁ、いいだろう」


両手を伸ばしたより少し大きな包みを渡された。


「うわ、ぁ」

「三味線を作っている方に、頼んでみたんだが…どうだ?」

「い、いいの?いいの、本当に?俺が貰って?」

「ええ、もちろんよ」


包みの中にあったのは、三線だった。

下手の横好きで、とてもじゃないが聴かせられるものじゃなかったけど、それでも音色が好きでよく弾いていた。


「久々に勇希の歌を聴かせてくれるかしら?」

「で、でも、俺、下手で」

「いいじゃないか。さぁ」


二人に促され、久々に…音を奏で、歌った。


てぃんさぐぬはなや (鳳仙花の花は)

ちみさちにすみてぃ (爪先を染めて)

うやぬゆしぐぅとぅや(親の教えは)

ちむにすみりぃ   (心を染める)


てぃんぬむりぶしや (天上に群れる星は)

ゆみばゆまりしぃが (数えようと思えば数え切れるけれども)

うやぬゆしぐぅとぅや(親の教えは)

ゆみやならぬぅ   (数えきれない程にある)


ゆるはらすふにや  (夜の海を行く船は)

にぬふぁぶし みぁてぃ(北極星を目標にする)

わんなちぇるうやや (私を生んでくれた親は)

わんどぅみぁてぃ  (私の目標だ)


「久々だったから、ちょっと変になっちゃった」


顔をあげると、涙ぐんだ二人がぎゅうっと俺を抱き締めてくれた。

三線はうちなーの命の音、故郷の音色。父さんも母さんも歌は判るけど三線は弾けなかったから、懐かしかったんだろう。


「また聞かせてくれるかしら?」

「練習してからね」

「十分だと思うんだがなぁ」


その日から、俺の日課に演奏が増えた。

下手くそな練習を聴いてくれる幸の傍で、音を奏で歌を紡ぐと……何だろう、心が凪いでくる。


「……なぁ、幸?もしかして、父さん達が三線くれたのって、俺にこんな時間をくれる為だったのかな」

「きゃん!」

「そうだな、きっとそうだ」


心配を、かけてしまっていたんだろうか。きっと渡すかどうか悩ませたんだろう、三線の入った袋は少し黄ばんでいた。悩ませてしまったんだろう。


「三線は、……俺の前世で、唯一父親から遺された形見だったんだ」

「きゃぅっ!?」

「本当にかすかな記憶なんだけど……まだ父親と母親が揃っていた時、酔うとよく父親が取り出して歌っていた。」


たったひとつの、幸せな記憶。

それがあるから、俺は実父を心から憎む事が出来なかった。


「他の楽器は試そうとも思わなかったけど、三線は……何でだろうな、手放そうと思えなかった。傍にあるならとりあえずって感じで練習しただけだから、下手くそだけどさ」


最初から憎まれていた訳じゃない。最初から疎まれていた訳じゃない。

確かに愛されていた瞬間もあったのだと、唯一教えてくれるもの。


「いつか、胸をはって三線が弾けます!って言えるといいな」

「きゃぅん」

「応援してくれるのか?ありがとう」


あの音色が奏でられたひと時だけは。

俺は、確かに……愛されていた。

ヒラウコー=別名沖縄線香。通常のお線香がだいたい6本くらいくっついた長方形の形をしている。アイス最中のように縦にパキパキ割る事が出来る。ちなみに行事によって何処で割るか決まっている。

上手く割れなくてゴミにしてしまう事がよくある。いっそ割れているものが欲しい。意味が無くなるが。

ウチカビ=あの世で使えるお金。お盆や清明祭(多分県外のお彼岸にあたる感じの行事。お墓参りに行く)でご先祖様への仕送りとして燃やす。燃やす枚数もだいたい決まっている。

一束まるまる送金すると家が買えると言うが、最近「ご先祖様はチャーター機で帰ってくる」といううわさを聞いたので、多めに送金するようにしている。

ウージ=さとうきび。最近はウージ染めなんてものもある。沖縄のアンテナショップで販売中。

グーサンウージ=サトウキビの杖。ご先祖様が来る時用の杖。だいたい1m位に切って売られている。

ガンシナー=藁で編んだ直系15cm位の輪っか。これを頭に乗せてお土産を運ぶと言われている。

チトゥ用ウージ=お土産用サトウキビ。こっちは20cm位に短く切ってある。

ソーローメーシ=ご先祖様用お箸。メドハギという植物。お箸みたいに細長い。

ウークイカーサ=クワズイモの葉っぱ。ご先祖様がお土産を包んで持って帰る時に使う。

クファジューシー=沖縄風炊き込みご飯。お盆に出るものは葉しょうが入り。ちなみに給食にも出る。

ミンヌク=無縁仏や餓鬼へのご飯。遊びにきたの?食べて帰ってね、という意味合いをもつ。あっちこっちで食べて満腹の場合もあるだろうと思うので(お盆や正月で回ると最後はお腹がはちきれそうになる体験より)我が家では伝統的なもの以外にお茶請けのお菓子もミンヌクとして用意している。一応ちゃんと伯母に確認してOKは貰っている。多分この方が持ち帰りやすいと思うの。


お重は独特過ぎるので、もし気になるようでしたら沖縄情報サイト「DEEokinawa」あたりでもぐぐってみてください。きっと違い過ぎて驚きます。むしろ異文化交流が出来ます。(前に「沖縄は日本じゃない、君と話していると異文化交流をしているようだ」と県外の人に言われた経験有)

ちなみに私の伯父伯母達は、今でもお盆用にサトウキビを育ててます。他のものも農家さんに行けばたいてい自分の家用・親戚用・友人用として育てている所が多いです。もちろんスーパーにも大々的に並びます。私は毎年分けて貰ってます。感謝。

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