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5歳 子犬?

5歳の誕生日が過ぎた頃から、俺に畑を任せて両親揃ってちょこちょこ家をあけるようになった。ようやく俺を一人でお留守番させても大丈夫だと思ってくれたようだ。信頼して貰えるのはとても嬉しい。

今日も二人は朝からギルド依頼で外出しているので留守番しつつ畑の世話をしていたら、畑の隅に何か動く泥っぽいものがいた。


「なんでこんな所にこいぬが」


泥っぽいものはちっちゃい子犬だった。全身がどろどろに汚れてぐったりしていている。

慌てて首にかけていたタオルで包んで抱き上げて、お風呂場に全力疾走した。


「ええと、たしか、こいぬは冷やしちゃいけないんだっけ」


昔、まだ3歳だった愛良ちゃんが、ちびっちゃい薄汚れた5匹の子犬を段ボールごと拾ってきた時の事を思い出す。ゆーきにーにーわんこがしにゅぅわんこがしにゅぅぅと大騒ぎで、必死になだめて即座に愛良ちゃんごと軽トラックの助手席に積んで動物病院までかっ飛ばした。

流石に5頭は面倒見られないというにーにーに頼まれ、その中で一番小さい1頭を引き取った。何故かうちのトマトが好きだったので「とまと」と名付けた子犬は、元々身体が弱くあまり長生きさせてやれなかったけど、独り暮らしの寂しさを癒してくれた。


「こわくないから、大丈夫だから」


風呂場の桶にシャワーの温度を調整してぬるま湯を溜めて、丁寧に全身の泥を洗い流す。あ、雄だ。

何度か桶のぬるま湯をかえて綺麗になるまで洗うと、綺麗な白い毛並みだった。流石に泥だらけになったので、子犬の様子を見つつ自分もお風呂に入る。


「すいじゃくはしているけど、おおきなけがはしてないみたいだ、よかった」


闇の異能の鍛錬、頑張って良かった。本当に便利だ。あちこち切り傷擦り傷打ち身があるけど、この程度ならどうにか今の俺でも治せる。目は見えてるっぽいしちょこっと歯も生えているから、生まれてからだいたい3週間位かな。

綺麗に洗ってやり、一緒にお風呂から出て保温の為にタオルでくるんで懐に入れてあっためる。


「おまえのお母さん、どこにいるのかな」


最近周辺で野犬を見かけたなんて話は聞かないし、ここら辺で犬を飼っている家も無い。そもそも犬がいるかどうか判らない。見た事ない。もしかしたら違う国から荷台か何かにうっかり紛れ込んでしまって、そのまま落っことされて彷徨っていたのかもしれない。


「とりあえず、父さんと母さんがかえってきたら、まよい犬のはりがみと、しばらくおまえを家においていいかどうかきかないと」


歯が生えてきているなら、ミルクじゃなくても大丈夫だろう。

懐に子犬をいれたままキッチンに立ち、子犬用離乳食を作り始める。買いに行けば売っているのかもしれないけど、そもそも手元に金が無い。二人が帰ってくるまでお腹が空いたままなのも可哀想だ。


「きゅぅん」

「はいはい、ちょっとまってろよー」


どうにか鳴く程度の元気が出てきた子犬をあやしつつ、昔家で作っていたとまと用ご飯(最初はペットフードをあげようと買いに行ったけど、あまりの値段の高さに驚いて自炊がてら獣医さんに聞いて作っていた。あんな高いもの買い続けるなんてほんと無理)を思い出しつつ、夕飯用の材料から少しづつ取り分けて材料にする。


「あったかくて、やわらかい、うまいいものたべさせてやるからなー」

「きゃぅん」


ミンチにしてあったドラゴン肉を少し。

ふかしてあったさつま芋もちょっと。

ついでに刻んであった白菜もごりごりとすり鉢ですり潰しペースト状にする。

肉と白菜を小鍋にかけて、少しの水で伸ばしてとろとろにして、小皿に入れてさます。さっと鍋を洗い、今度はさつま芋も同じようにとろとろにして小皿に入れてさます。


「ごはんだぞー」


懐から顔と両前足を出した子犬の鼻先に、指先に乗せた白菜と肉のとろとろを近付けると、きゃぅんきゃぅん、と美味しそうに食べた。

二種類の離乳食をゆっくり様子を見つつ食べさせて、ぬるま湯を同じ要領で飲ませてやったら、満腹で眠くなったのかそのまま懐の中で眠ってしまった。

手を洗い小皿や鍋を洗って、そのまま夕飯の支度をしていると二人が帰ってきた。


「ただいま、勇希。何も無かったか?」

「ただいま、勇希、今日はお土産があるわよ」

「おかえり、父さん、母さん」


二人がお風呂に入っている間に出来上がった夕飯を食卓に並べる。今日はドラゴンのオムバーグ(オムレツ&ドラゴン肉のハンバーグ)と、オニオンスープに生野菜サラダだ。最初はドラゴン肉って聞いてびっくりしてたんだけど、流石に何度も何度も食べるといい加減慣れてきた。しかも超高級牛肉位美味しい。

一也に言ったら「そもそもそんなに頻繁にドラゴン肉が喰えるのはお前の家と、そのおこぼれにあずかっている俺の家位だから、余所で言うなよ。嫌味っぽく聞こえるから」って言われた。うちの両親は相当腕利きの冒険者なんだそうだ。でもそんな両親とパーティを組んでいる一也の両親も十分腕利きなんだから、おこぼれは言い過ぎだと思う。


「で、一也。懐のそれは何だ」


お土産に欲しかったすぶい(※後書きに説明有)の苗を貰い夕飯の席につき、やっぱり気付いていた父さんが声をかけてきた。


「こいぬが、はたけのちかくにいたんだ。しばらくうちであずかっていい?まよいいぬならかいぬしがいるだろうし」

「……ちょっと見せてくれる?」

「うん」


母さんに子犬をタオルごと渡すと。


「お父さん、この子犬、どうみても神獣フェンリルの幼体に見えるんですけれど」

「な」


慌てて子犬を見る父さん。


「間違いない、神獣フェンリルの幼体だ」

「何でこんな所にいるのかしら」

「そういえば、10日前、欲にかられた馬鹿な他国の冒険者が、神獣の密猟をおこない冒険者ギルドに囚われたと聞いたが、捕獲してダンジョン外に持ち出された幼体が行方不明だと聞いた。」

「まぁ、何て事。神獣達は魔物がダンジョンから地に溢れないよう、護ってくれる護り神ですのに」

「多分その時に捕獲され、ダンジョンから切り離されしまった個体だろう。可哀想に、こうなってしまってはもう戻る事も出来ない」

「あの、とうさん、かあさん……その子、こいぬじゃないの?」

「ああ、すまんな勇希。そうだ、この子はただの子犬ではない」


父さんが動物図鑑を持ってきて説明してくれた。

神獣フェンリル、ダンジョンの中でしか生きられないダンジョンの護り神。その毛並みは真っ白に輝き、成長すると身丈2mにもなる狼。神の意志に添い、ダンジョン内から魔物が民の生きる場に出ないよう、100年の生涯全てをダンジョン内で狩りをして過ごす。

冒険者ギルドは討伐や捕獲を禁じているが、あまりにも見事な毛並みの為密猟が絶えず、幼体に至っては観賞用として捕獲され取引される事もあるという。


「フェンリルは、ダンジョンから切り離されるとフェンリルとして生きる事は出来ず、ダンジョンに出入りは出来るが帰る事は出来ない。成長する事も出来ず、ずっとそのままの大きさで通常の寿命より遥かに早く亡くなってしまう。この個体も、多分10年ともたないだろう」

「そんな……」

「お父さん、夕飯が済んだら、この事を冒険者ギルドに報告してきます」

「ああ、わしも行こう」


その後、ギルドとの話し合いにより、子犬はうちで飼う事になった。

二度と家族にあう事も出来ず(会えても互いに家族だと認識出来ないらしい)成長する事も出来ないけど、せめて短いながらも幸せに育って欲しいと願いをこめて、ユキと名付けた。漢字で書くと幸だ。


「ゆき、きょうからおまえはうちのかぞくだ。なかよくしような」

「きゃぅ」


幸は、ずっと俺の傍にいてくれた。お別れの日まで……ずっと。

すぶい=正式名称・沖縄冬瓜(とうがん)、シブイとも言われる。沖縄ではインスタントカレー商品にもなっている冬野菜の定番中の定番。最近何時の間にか大阪産(もん)の認定をうけ、大阪のものと思われがちだが、大阪は冬瓜生産量ランキング10位である。

(H20年農林水産省統計より、1位=愛知県、2位=沖縄県。ちなみに愛知で栽培されているのは沖縄冬瓜だけではなく別品種も混ざっているので、沖縄冬瓜だけなら沖縄がダントツ1位の筈だ農林水産省様そのあたり細かく統計とってくださいと声を大にしていいたい、まぁ沖縄で他の冬瓜品種は育たないんだが……暑過ぎて(笑))

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