4歳 初めての買い出し、新しい友達
4歳の誕生日を迎えた。
朝ごはんを食べて、畑の水やりをして、休憩して、畑の雑草を抜いて、昼ご飯を食べて、鍛錬か異能制御訓練をして、おやつを食べて、本を読んで、寝る。
毎日この繰り返しで、気が付けば1年が過ぎていた。今年は、去年ギルド依頼の所為で参加出来なかったじいちゃんばあちゃんずも誕生祝いにきてくれて、すごく賑やかだった。
それにしてもじいちゃんばあちゃんず、たった一人の孫息子が可愛いのは判るけど溺愛し過ぎるのはやめて欲しい。この間なんて父さん母さんと教育方針でもめて、ギルド鍛錬場の地形が変わるレベルの大喧嘩をしていた。怖かった。むしろ転生者でもないのに何であんな強いんだ器物損壊ダメゼッタイ。
あんな凄まじい人種には生涯かけてもなれないと思うけど、俺もここ一年異能の訓練や鈍っていた体術の訓練を身体の成長を妨げない程度にやっていたおかげで、だいぶ強くなってきたと思う。まだ4歳だけど。ちなみにステータスは何か怖いから見ていない。
異能は凄まじく便利だ。水も地も闇も凄く使い勝手がいい。
水は畑の水撒きに最適だし、地は畑の雑草抜き(土をいじくってぺいっと雑草を吐き出させる感じで抜く。後は手作業で抜いた草を集めるだけ)とか耕すのとかにうってつけで、闇は父さん母さん、あとご近所さんの健康診断やちょっとした不調の治療に大活躍している。まだまだ重い病気は治せないけど、もっと訓練して父さんや母さんがどんな病気になっても治せるようになるつもりだ。努力あるのみ。
6歳になって学校に入って、飛び級試験が受けられるようになったら、医学を勉強しつつ農業を頑張って、医者兼農家になれたらいいと思う。
(転生者で元医学部教授の先生(光と闇の異能持ち)がいるそうで、なんとここの文官学校には医学部がある。(入るのに光か闇の異能必須)俺ですら名前を知っている超有名なお医者様だった。探したらノーベル賞ものの先生がゴロゴロいそうで怖いこの世界)
「やっぱり、ひとりでぶらぶらするのっていいよなぁ」
今日は初めてのお使いだ。
誕生日プレゼントで「一人で外出」をねだってようやく一人歩きが実現する程度には、うちの両親は過保護だ。なお、じいちゃんばあちゃんずには本とか服とか鞄とか靴とか、日頃使えそうなものを頼んだ。そうじゃないとナニ持ってくるか判らないんだよあの人達。
他に何か欲しいものはないかと聞かれたので、家の畑の一角に俺用のスペースを貰った。
今日はそこに植える苗を選びに行く。久しぶりに自分の好きなように土いじりが出来るんで、すごく楽しみで昨日はよく眠れなかった。
「うわぁ、おっきい」
凄まじくおっきい苗専用の問屋にようやくついた。木造のかやぶき倉庫の中一面に苗がびっちり並べられている。着物を着ている人や洋装をしている人が入り乱れて、あっちこっちうろうろしている。さて、俺も苗を選ぶか。
これから植えるならやっぱりトマトかな。慣れているし、そろそろたーんむ(水田で栽培出来る芋、漢字で書くと田芋。南西諸島付近でしか栽培されておらず、沖縄の正月料理に欠かせない)の収穫もひと段落するし。久々にもぎたてのトマトが食べたい。
「えっと……とまと、とまと」
転生神様が日本をモデルにして創りあげたという言葉通り、倭の国はほとんど日本の文化が通用する。野菜の名前もほとんど変わらないし、米も調味料もあるし、知っている野菜はほぼ全部ある。
何て言うか、時代劇のセットで実際に生活している感じっていうのがちょうどぴったりくるだろうか。警察は岡っ引きだし(ちゃんと十手を使っている)消防は火消しだし(まといを見た時には感動した)服は呉服屋だし(洋装も和装もある)郵便は飛脚だし(風の異能持ちの人達がよく飛んでいる)。
もしかして転生神様は単に江戸時代が好きなだけなんじゃないだろうか。そのうち忍者とかお武家様とか出てくるんじゃないかとわくわくしている。
「あ、あった」
たくさんあるトマトの苗を見つつ、いい苗を選ぶ。
米作りでもよく言われるけれど、農業は「いい苗であれば栽培の半分は成功」だ。
トマトのいい苗選びのポイントは、茎の隙間が短くて太くて、ちょっと指で揺すった位じゃびくともしない位しっかりしている事(苗を育てる時に手間暇かかってる証拠)、葉っぱが大きく分厚く、濃い緑色な事(光合成がしっかり出来てる)、苗の鉢が大きい事(根がしっかりはってる)。
この3つの条件が揃っていて、土が良く水加減や肥料の分量を間違えなければ、日照時間にもよるけど結構いいトマトが出来る。
トマト栽培を始めた頃は、尻腐れ病でトマトの半分を廃棄する羽目になったり、変形させて売り物にならなかったり、上手くいったと思ったら温度差で実が割れて売り物にならなかったり、ほんと色々あったなぁ。今ならいい経験だったと思えるけど、当時はハウスで泣いたっけ。
「ぼっちゃん、その歳で苗の目利きが出来るって事は…転生者か?」
「?はい」
持ってきた台車に籠を乗せて、その中にトマトの苗を入れていると、ぬぅって上から影が俺の上に落ちてきた。顔をあげると、だいたい2m位あるんじゃないかって位のおっきい青年が俺を見下ろしていた。
「えっと……?」
「ああ、悪い、小さい子供が躊躇なく迷いもせずいい苗ばかり持って行くもんでな、ちょっと興味があって声をかけてみた。
俺は、この苗問屋を仕切っている當間一也ってもんだ」
「とうま、かずやさん」
「おう」
おっきい背丈に、ちょっと、いや、正直苗を置いて逃げそうになる位びくついたけど、名札の苗字を見てびっくりした。
この苗字って、もしかして……?
「おれ、きんじょうゆうまっていいます」
「金城……?おいまさか、金銀の金に城で、金城か?」
「ええ、とうまさん、もしかしてうちなーですか?」
「ああ、お前もか!?」
「はい!」
當間は金城と同じで沖縄特有の苗字だから、もしかしたらと思ったらビンゴだった。普通なら怖い相手なのに、こんな異世界で同じ島の仲間に会えたんで俺のテンションは振り切れた。いつもの俺じゃ有り得ない速さで意気投合して、座り込んで話をした。
當間さんは17で事故にあって亡くなった転生者で、現在20歳らしい。
「あ、じゃあ、おないどしだ」
「マジか!うわ、転生者で同い年の奴に初めて会った!」
転生者の同い年は、當間さんが知っているうちで俺達二人だけらしい。
しかも同じうちなーんちゅ。めちゃくちゃ喜ばれた。
苗問屋の従業員に當間さんが声をかけて(この苗問屋は元々父親のお店で、最近継いだんだって)苗を持ってくれて一緒に家まで帰る。
「おや、もしかして一也君かい?」
「金城のおやっさん!?じゃ、まさかこの子が人を怖がるっていう息子の……何処がだ?」
「しつれいな!ふだんはちゃんとひとがこわい!」
「ちゃんと人が怖いってなんだよそれ」
「あらあら、まぁまぁ。すっかり仲良しね」
父さんと母さんは、當間さんの事を知っていた。俺がもうちょっと大きくなってもうちょっとたくさんの人に慣れて、どでかい當間さんを怖がらない位になったら引き合わせる予定だったらしい。
俺達が偶然とはいえ出逢って仲良くなった事に父さんも母さんも凄く喜んでくれて、當間さんのご家族とも交流が始まった。何とご両親も沖縄からの転生者で、うちの両親と一緒にパーティを組んでいる兼業冒険者だった。(うちは農業、當間さん家は卸売業)
ちなみにご両親は精神年齢60代で、一家三人揃って事故で亡くなり、みんな揃ってこっちに転生してきたんだそうだ。俺が人を怖がっていた所為で、今まで家に来るのは控えていたと聞いた。凄く申し訳ない。
當間さんの話を聞くと、なんと俺が通っていた通信制高校の全日制に通っていた事が判明して、高校の話で超盛り上がって……何時の間にか、勇希、一也と呼び合う仲になっていた。たくさん話して、たくさん笑って、俺がもう少し大きくなったら一緒にパーティを組もうって一也は言ってくれた。凄く嬉しかった。
楽しい食事会が終わって、呑んだくれている大人達と一也を置いて自分の部屋に帰る。窓から見える星空は、日本と同じだ。……本当に何処まで似せて創ったんだろう、転生神様。
「にーにー、ねーねー。……おれ、あれからたぶんはじめて、ふたりいがいのともだちができたよ」
今でも時々夢に出てくる、彼女の叫び声が脳内に響く。
『そんな不気味な身体で私を抱いたの!?近付かないで気持ち悪い!二度と連絡して来ないで!!』
学は無いけど、農業が軌道に乗りつつあったしそれなりに財産もあったから、生涯金銭的な苦労はさせないと思っていた。遅すぎる初恋の相手だった。
愛していた人に完全に拒絶されて、俺は人と関わるのが極端に怖くなった。
そんな俺に、10年ぶりに新しい友達が出来た。
「おれに、あたらしいともだちができたってしったら、ふたりともよろこんでくれる?」
きっと、よくやった、って……頭を撫でてくれるんじゃないかな。
そんな気がした。




