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15歳 この温もりを手放せない

ようやくくっつきました。

ようやく15歳になった。倭の国では、15歳が成人だ。


「成人おめでとう、勇希」

「ありがと、一也」


初めての酒は、一也と二人で呑むと決めていた。

一也が予約してくれた個室つき居酒屋で、二人、ゆるりと酒を酌み交わす。


「一也もようやく成人か……俺も歳をとる筈だ」

「精神年齢は同い年じゃないか」

「はは、まぁそうなんだが」


俺と肉体年齢が16歳違う一也は、今年31歳になった。

肉体年齢だけなら、一也は父さん達との方が近い。(あの二人は今年35歳になる)


「一也」

「ん?」

「俺、一也以外とパーティ組む気ないから。一也が引退したらその時点でパーティ解散するよ」

「んなΣ」

「今でも「医師業の時間を増やして欲しい」ってギルドから催促されるし、先生ももっとこっちに来る日数増やせないかって言ってきているし。むしろ喜ばれるんじゃない?

だから、「歳喰った自分がいる所為で勇希達が新しいパーティ組むのを邪魔しているんじゃないか」とかそんな馬鹿な事考えないように」

「何でも御見通しか?相棒」

「当然だろ、相棒」


グラスをカツンとあわせる。

一也がいるから俺も冒険者やれているんだ、って、いい加減判って欲しい。


「ありがとう、勇希」

「こっちこそ」


静かに、ゆるりと、夜がふけていった。

ああ、全く。本当に、俺は恵まれている。




思ったよりも遅くなって、風呂に入らないで眠ったのが悪かったのか。それともここ最近の疲れが出たのか。

翌日、完全に発熱していた。見事に風邪だな、これは。


「愛良ちゃん、ごめん、いいかな」


どうにか起き上がり、隣の愛良ちゃんの部屋のドアを叩く。

父さんと母さんは、去年のグラード国事変(あれはもう事変と呼んでいいと思う)以来、またあちこち飛び回る生活になった。今家には愛良ちゃんしかいないんだから仕方ない、うん、仕方ない。


「ふぁい、おはよぉゆうきにぃに……!?どうしたの!?」

「ごめん、本当に申し訳ないけど、その、今日ダンジョン行けそうにないって一也と美香さんに伝えてくれる?」

「う、うん、それはいいけど」

「ありがとう。あ、愛良ちゃんの朝ごはん、遅くなるけどごめん。今からつく」

「ご飯なんていいから!寝てなきゃ駄目!」


そのままベッドに押しこまれた。ベッドの傍でくぅんくぅんと鳴く幸を撫でる。


「ごめんな幸、大丈夫、大丈夫だから」


何度も何度も撫でているうちに、いつの間にか意識が飛んだ。




あまりにも寒くて、目が覚めた。幸がベッドの下でうずくまり眠っている。

愛良ちゃんが傍で、俺の額にあてるつもりだろう、手ぬぐいを濡らしてしぼっていた。


「勇希にーにー、起きた?」

「……ん、ごめん、愛良ちゃん。一也達は?」

「さっきまで来てたよ。昨日無理させて申し訳ないって謝ってた」

「そんなの、気にしなくて、いいのに……」

「先生も診察に来てくれたよ。お薬出てるから、後で飲んでね」

「ん……ありがとう」


寒い。歯が、軽くかちかちと音をたてる程に、寒い。


「勇希にーにー、寒いの?」


愛良ちゃんが毛布を1枚、上からかけてくれる。それでも寒さがおさまらない。

大丈夫だって、気にしなくていいって、言わなくちゃいけない。

言わなくちゃ、いけないのに。


『だいじょーぶじゃないのにだいじょーぶって言わないで!家族なのになんでえんりょするの、ゆーきにーにーのばか!!!』


ああ言ってくれた、愛良ちゃん、なら。


「ごめん、愛良ちゃん、……その」


言って、いいのだろうか。

こんな事を。

望んでいいのだろうか、俺なんかが。


「その」


でも。

……言って、しまいたいと思った。


「ごめん、ちょっと……寒い」

「勇希にーにー、いいんだよ。こんなに熱が高いんだから、寒くて当然だよ。寒いって言うだけで、そんな申し訳なさそうな顔しなくていいんだよ。今、追加でお布団持ってくるね」


違う。違うんだ、愛良ちゃん。

行こうとした、愛良ちゃんの袖をつかむ。


「勇希にーにー?どうしたの?」

「寒い、ごめん、愛良ちゃん」

「うん、今お布団を」

「そうじゃ、なくて。その……ごめん、何でも」

「……勇希にーにーの、お馬鹿さん」


するり、と。

愛良ちゃんがベッドの中に入ってきてくれて、俺を抱き締めてくれた。


「ごめん、愛良ちゃん、ごめん」

「いいんだよ、勇希にーにー。いいんだよ」


こんな情けない事を、しかも未婚の女の子にナニやってんだ自分、と本気で思う。

でも……人の温もりが、欲しかった。


「死ぬ前、まだ、あっちで……あっちで、愛されていた子供の頃。凄く高い熱を出したんだ。

寒くて、寒くて、どうしようもなくて、寒い、って言っちゃった俺に、父親と母親が二人で俺を包んで一緒に寝てくれた」


かすかな「愛されていた」頃の思い出。

にーにー経由で事情を知っている愛良ちゃんが、息を呑む。


「あったかかったんだ、とても」

「勇希にーにー……」

「ごめん、愛良ちゃん、ごめん、ほんと、ごめん、少しでいいから、ちょっとでいいから、このままで……」


愛良ちゃんが、俺を抱きしめる腕に少し力をこめる。


「勇希にーにーは、いつも、たくさんたくさん我慢しようとするね。私達の事はすぐに甘やかすのに、自分が辛い時はいつも大丈夫、大丈夫って言って、本当に大丈夫にしちゃう。

ねぇ、いいんだよ、勇希にーにー。いくらでも甘えていいんだよ。少しじゃなくていいんだよ。」

「あいら、ちゃん」

「少しは、寒いのおさまった?」

「ん……あったかい」


あったかい。

あったかいよ、愛良ちゃん。

縋るように、愛良ちゃんの背に手を回す。


「いいのかな?……俺、その」

「ん、もちろん」

「このまま、ねて、いい?」

「いいよ」

「あったかくて、いい?」

「ん。これ位、いくらでもいいんだよ」


嬉しい。いいんだ。嬉しい。


「あいらちゃん」

「なぁに、勇希にーにー」

「ありがとう」

「ん」


呟くと、涙が零れてきた。


「あったかすぎて、なけてきた……あいらちゃん、ごめん、こんな、なさけなくて、ごめん、ありがとう、……ありがとう」

「いいよ、いいんだよ、いいんだよ、勇希にーにー。ぎゅってする位で、そんなにありがとうって言わなくて、いいんだよ」


温かくて、柔らかくて、優しくて。幸せで。

愛良ちゃんと一緒にいられたら、俺、幸せだろうなぁ。

そんな事を考えたのを最後に、意識が飛んだ。


ああ、どうしよう。

どうしたらいいんだろう。

もう、手放せない。こんな優しいものを知ってしまったら、もう。


結局それから三日ほど熱がさがらなくて、愛良ちゃんはずっと添い寝してくれた。もちろんみんなにバレた。

腹をくくって責任を、とか、偉そうなことを考えたけど。

ただ、この温もりを絶対に手放したくないと、気付いただけだった。




熱がさがった後、ちょっと高めのレストランの個室を予約した。

お礼もかねてご馳走した後、全部話した。

この気持ちが恋愛感情かどうか判らない事。

愛良ちゃんと一緒にいられたら、幸せだろうなと思っている事。

愛良ちゃんが大事で、この命に代えても護りたいと思っている事。

愛良ちゃん以外の女性と結婚する気は生涯ない事。

愛良ちゃんが他の誰かと結婚するのを見たくない事。

そして、たとえ結婚しなくても、愛良ちゃんの事を護ると決めている事。


「こんな考えの俺でいいなら、……傍にいて欲しい」


月給三ヶ月分の、ピンクダイヤモンドが桜の形になっているプラチナの指輪を渡した。


「勇希にーにー」

「ん?」

「私が自分の命より大事で、生涯私以外の人と結婚する気が無くて、もし結婚しなくてもずっと私を護ってくれて、他の誰かに渡すのが嫌で、更に私と一緒にいられたら幸せだって思ってくれてるんでしょ?」

「ああ」

「それを、普通は「愛してる」って言うんじゃないかなぁ」


そうか。

俺、愛良ちゃんを、愛してるのか。


「一生傍にいるから、一生私を護ってね、勇希にーにー。その代わり、私は一生勇希にーにーの傍にいて、一生勇希にーにーを護るから」

「…ん。大事にするよ」


その日。

俺達は、婚約した。


正直、俺は人の愛し方を、ちゃんと判っていないんだろう。

でも、愛良ちゃんは「これからゆっくり判っていけばいいよ」って言ってくれる。

甘えているのは判ってる。依存しているのも判ってる。

それでも、もう。


彼女無しでは、生きられない。

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