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パーティ加入(仮)


 さて、昨日に引き続き今日も露天でお菓子売りである。


 今日は愛しのルーナたんがお目覚めの予定である。

 ルーナたんに記憶がないことを知った勇者一行は、保護がてら最初のダンジョンに連れて行くのだ。

 もちろん、ルーナたんのジョブが白魔道士だからであることは言うまでもない。

 つまり、勇者達はルーナたんの武器防具を揃えるためにも一度はこのカティアをうろつくはずである。

 私がこの露天で張っていれば、生ルーナたんを拝めるという、完っ璧な計画なのである!


「昨日は美味しかったよ!今日は別のを頼もうかなぁ」

「お姉ちゃん、昨日のポムの飴、妹の分もちょうだいっ」

「え?レザンはこれだけしかないの?大人買いしようかと思ったのに……」

 ……問題は、もう既に売り切れかけていることだろうか……。

 宿で作り直している間にルーナたんが旅立っていたら泣くに泣けない。

 どうしたものか……。




「っうわぁっ!すごく美味しそうなパイ!」

 昨日の倍ほど作ってきたのに、と打ちひしがれる私の耳に、清流のような清らかな声が響き渡った。

「?!」

「美味しそう!ね、ソルさん」


 隣の男に、無垢な笑顔を向ける銀髪の美少女。

 いや、ここは敢えてプラチナ色、と言い表すべきだろう。

 光沢のある銀色なんだが、艶々していて錆とは関係ないプラチナを思い起こさせる。

 キラキラした目は新緑の色。

 滑らかなお肌は透き通るように白く、胸元までの髪を風に緩く遊ばせている。


 ふ、ふをををををぉぉぉっっ!

 ルーナたんが可愛すぎて辛い!


 お人形さんみたいな整った顔立ちに、純真無垢な笑顔。

 私みたいに汚れきった大人には眩しすぎて辛い!

 っていうかソル君の顔が既に緩んでいる。

 君はそんな、即落ちキャラじゃなかったよね?

 使命のこともあるから最後まで思いは告げようとしなかった硬派な男じゃなかったっけ?!


「女性は本当に甘い物が好きなんですね」

 そういうソル君の声の方が甘ったるい。

「……え、ええと、お入り用でござるか……?」

「喋った?!」

 はいぃぃ?!

「喋った!ソルさん、こんな可愛いぬいぐるみみたいな人が喋ったわよ!」


 たぶんこの時、ソル君と私の思いは一つだったと思う。

 ――可愛いのはお前だよ、と……。




「ありがとうでござる~……」

 結局、ルーナたんはポワールのパイを一切れご購入。

 散々迷ったのだが、レザンの方はさっきのお客が根こそぎ購入していったし、ポムも残り一個だった。

 ポワールだけ残り三個だったから遠慮したんだろうな。

 ……なんて良い子なの、ルーナたんっ!

 後から合流した男二人と町の出口を目指して歩いて行く姿を目にしながら、私も店じまいを始めた。


「店を貸していただいて感謝でござる」

「あらぁ、いいのよ!今日もこんなにパイを分けてもらって、かえって悪かったわねぇ」

「喜んでもらえて何よりでござる」

「もう行くのかい?一人で大丈夫かい?」

「心配ご無用でござる!世話になったでござる」


 店じまいといっても、片端からアイテムボックスに入れていくだけなので楽なものだ。

 整理整頓?

 きっとアイテムボックス君が頑張ってくれている設定だ!

 私はおばちゃんに頭を下げて、さり気なく勇者達の跡を追った。

 最初のダンジョン。

 氷魔法を習得していない勇者達が勝てるのは、あの手しかないのだから。




 プリン姿で勇者達の跡を追い、最初のダンジョンでラビーの姿に戻った。

 ここからはダッシュで行くのみ!

 前衛をシーフのジャン、後衛を剣士のディーノさんがつとめているのだが、そのディーノさんの後ろ姿が最初の角に消えようとしている。

 今だっ!


「待つでござるっ!待つでござるよぅっ!」

 短い足を懸命に動かして勇者達の跡を追う。と、物陰から青色の狼が!

「っ?!」

「っ危ない!」

 ズドンッと狼が両断された。うぉう、ディーノさんすごい……。

 唖然としてディーノさんを見つめると、ディーノさんは僅かに顰めた顔を私に向けてきた。

 その顔も素敵……。


「ここは危ない。何しにきたんだ、ラビウサ?」

「――まっ」

「ま?」

 ディーノさんの後ろからひょこっとジャンが顔を出した。

「幻のクリムゾンポムの実を探しに来たでござるっ!」

 いや、あるか分からないけどね?だって幻だもん。っていうか創作だもん。


「は?んなもんこのダンジョンにあるのか?ガセじゃねぇ?」

「うっさいでござる。素人は余計な口を聞くなでござる」

「可愛いのに態度が悪い?!」

 ジャンが予想外にショックを受けているようだが、無視だ無視。

「幻のクリムゾンポムの実を探しているのでござるが、残念ながらラビーは弱いのでござる。だから一緒に連れて行って欲しいのでござる」


 我ながら完璧なおねだりである。

 様々なBFシリーズでこのラビウサ族は無茶なお願いを可愛い顔でしれっと押しつけてきた伝統がある。

 これでついて行けるはずである!


「戦えないなら無理。帰りなさい」

 それなのに!

 私の完璧なおねだりを、よりによって操作キャラクターであったソル君がばっさり拒否した!

 裏切りである!

「そっ、そんなぁ……ラビーなら戦えないけど知識面でお手伝いできるのにぃ。ケチでござるぅ」

 わざとらしくおいおい泣いてみた。

 ルーナたんが折れてくれた。


「ソルさん、こんなに行きたがっているんだから連れて行ってあげては駄目?私がこの子を守るから」

 なんと!

 私はルーナたんを守りに来たというのにまさかの男気!

 美人さんなだけじゃなく勇気まで持ってるなんてルーナたん最強!

「……ラビウサ一人ぐらい守れる」

 ディーノさんが私の頭をポンポン優しく撫でてくれた。


「ありがとうでござる!お二人のためにも頑張るでござる!」

 やっぱりルーナたんとディーノさんは違う。

 見習うがいい、若者よ。



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