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デザート販売


 部屋に入ってまずすることはデザート作成だ。

 座る所がベッドしかないので、ベッドに座ってアイテムボックスから果物を取り出す。

 ポムの実はリンゴっぽく、レザンは葡萄みたいに房の多い紫色の果物で、ポワールは洋なしみたいな形をしている。


 どれも瑞々しく、果物の自然な甘い香りがしてくる。

 ……このまま食べても美味しそうだ。

 とはいっても、プリンの体で街道にいたモンスターを躍り食いしてきたので、空腹感はそれほどない。

 なのでここはアビリティ確認に重点を置こうと思う。


「えぇと?」

 試しにポムの実を手に取ってリンゴ飴を思い浮かべる。

「うぎゃぁぁぁっ」

 ……できた。

 それはいいのだが、まだ熱々の飴部分がべちょっと手にくっついて凄まじいことになった。


「よっ、容器は必須でござるっ」

 もしくは突き刺す棒など。まさに盲点だった。

「こ、これは無謀でござった……」

 私は熱々のできたてリンゴ飴をポイッとアイテムボックスに入れた。

 アイテムボックスの仕組みとか真剣に考えたことはないが、もし中でベトベトのリンゴ飴に革のワンピースやらお金やらが付着したらどうしよう?


 ……私は思考を閉じた。

 世の中には考えちゃいけないこともある。

 これも、たぶんそうだ。


「うむ、ではアップルパイのような物はできるでござろうか?」

 私はアイテムボックスの中から木の板を慎重に取りだした。

 うん、特にべたついた甘い粘液は付いていない。

「むむっ?」

 手元から一瞬消えたように見えたポムの実は、そのままころん、と板の上に転がった。

「ふむ……材料不足、ということでござろうか?」


 リンゴ飴の飴部分は、きっとアレだ。

 デザートプリンセスの出す糖弾的な何かだ。

 ということは、まず足りないのは小麦粉。

 そしてバター。

 牛乳もいると思う。


「……まずは買い物でござるな……」

 木の板の上に乗ったお菓子など、誰も買ってくれないような気がするから、皿なども必須だ。

 こうして私は再び大通りに戻り、必要な物を買いあさったのだ。

 遠目に、薬屋や武器屋、防具屋に出入りする勇者達を見ながら。




「あいつらは馬鹿でござろうか……?」

 再び部屋に戻ってきた私は、そう呟かざるを得なかった。

 まぁ、確かに彼らがこれから行く先の情報を知らないのはしょうがない。

 が、市場の片隅に目立たないようにして置いてある宝箱に気づかないとは何事か。

 ラビーでも気づいたのに。


「確かあれにはオークスタッフが入っていたはず。

 あれで火と氷の魔法アビリティが覚えられるのに、どうして気づかないんでござるかねぇ……」

 ちなみにこの町の武器屋には”杖”しか売っていなかったはず。

 この次に行くダンジョンで必須になる氷の魔法は、オークスタッフでしか覚えられないのだが。


「やっぱり、BF6を何十回もプレイした拙者レベルでないと分からないんでござるかねぇ?」

 当時の友人から、『ちょっとおかしいよ、それ……』と言われたほど何回もクリアした私だからこそ気づくことかもしれない。

 まぁ確かに道中の宝箱の位置やら中身までほとんど覚えているのはちょっと愛情深すぎるかもしれないが、その辺のゲーマーに聞いてみればそんな体験の一つや二つ、あるはずである。

 晴人君だってBF13は私が飽きるほど何回もプレイしていたし。


「いやいや、しかしあの宝箱に気づかないのはやはりゲーマーとして致命的でござる」

 民家にひっそりしまわれているレベルではないのだ。

 開発者だか妖精さんだかのご厚意で設置してあるサービス宝箱なのだ。

 そりゃまぁうっかり商品に埋没しそうにはなっていたが、ゲーマーなら反射的に気づく茶と緑の、宝箱特有の色をしているのに。

「全く、これだから素人は……」

 私はぶつくさ言いながらお皿の上に、できたてホヤホヤのポムの実パイを乗せた。

「……やっぱりまずは、試食でござるよね~」

 できたてのポムの実パイ、まことに美味でございました。




 さて、まずはこれで路銀を稼がねばならない。

 私は話をつけていたおばちゃんの店の一角を借りて営業を始めた。

 時刻はちょうどおやつ時。

 商品は子供心をくすぐる艶々したリンゴ飴に、働く女性心を捕えて放さない果物のパイ。


「お姉ちゃんそれちょうだいっ!」

「私はそれとこれを二つずつっ!」

「わたしはあれを一つ!」

 ……できたての、甘く香るパイの匂いは凶器だと私も思う。

 まさか手をかざして一瞬でできたと思えない、素晴らしいできばえ。


 表面は細く切れ込みが入り、その隙間から焼けて半透明になったポムの実が覗く。

 パイの表面は、あれから買い足した卵のおかげでつやつやだ。

 レザンやポワールのパイも、それぞれ隙間から慎ましく顔を覗かせている。

 それぞれ微妙に違う香りが混ざって、嗅いだだけで幸せになるような素敵な甘い香りが漂う。


「毎度でござるっ」

 あっという間に売り切れた。

 リンゴ飴は2ビル、パイは一切れ5ビルだったのだが、合計320ビルの稼ぎになった。

「おやまぁ、私も食べたかったのに、すぐに売り切れちまったねぇ!」

 店舗を貸してくれたおばちゃんが呆れ半分に声をかけてくれた。


「うむ、拙者もびっくりでござる。……店舗の賃料はおいくらでござろうか?」

「そんなの別にいらないんだけどねぇ……。

 でも、あのパイを分けてくれたら嬉しかったんだけどねぇ。

 もうなくなっちまったもんねぇ……」

 肝っ玉母ちゃん風のがっしりしたおばちゃんがそういう風にしょんぼり言うので、私は慌てて言った。


「も、もう一度作ってくるでござる!待っていてもらっても良いでござるか?」

「ホントかい?!嬉しいよ!全種類頼んだからね!」

 うん、逞しいおばちゃんは大好きだ。

 結局、もう一度売ることになって本日の稼ぎは640ビル。

 なかなか好調ではなかろうか?




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