シーフの実力
それぞれ簡単に自己紹介を終えた後、私たちはダンジョンの奥に向かって足を進めた。
このダンジョンの正式名は”炎熱の聖域”。
なのにここ地上1階は涼しい。
というか、寒い。
私は知っている!
これは開発者だか神様だかのサービスなのだ!
「ディーノ殿、そっちでござるか?」
ディーノさんが迷わぬ足取りで進んでいく先は、確かに地下1階に降りる階段への最短ルートだ。
簡単に言うと、洞窟内を大きな道が一本走っていて、その先に地下への階段がある感じ。
だが、そこかしこにある小道に入らないと宝箱は手に入らないのだ!
ついでにここでモンスターを倒してドロップされる、とある小石を集めていないとこの先詰んでしまう。
「こ、こっちにクリムゾンポムの実の気配がするでござるよっ」
仕方なしに、ルーナたんの手を振りほどいて、すぐ近くにある小道に走り込んだ。
後もう少しで宝箱、という所でジャンに追いつかれた。
「っうおいっ!危ねぇだろうがっ」
襟首をジャンに掴まれた瞬間、つま先を青い狼の牙が掠っていった。
「ッギリギリセーフでござるぅぅ」
「いやアウトだろ」
ジャンのくせに冷静とは生意気である。
ジャンは私の襟首を掴んだまま、ショートダガーを振るって狼を一気に3匹倒してみせた。
おぉ~、ジャンってシーフだけあって序盤は戦闘では盗むしか使えないイメージだったけど、なかなか使える男のようだ。
「お?宝箱だ。やるな、ウサギ」
ジャンがにやっと悪い顔で笑ってウィンクしてきた。
なるほど、世の熟女方はこの男のこういう所を好んでいらっしゃるわけですな。
「ラビー先生と呼ぶでござる。先生付きならラビーの名前を呼ぶことを許可するでござる」
なんせ私の命を救った功労者だ。
女好きだろうとたらしだろうと差別はしない。
私は大人な対応ができる女なのだ。
「俺だけ扱いひどくねぇ?」
ぶつぶつ言いながらジャンが宝箱をパカッと開けた。
「アイスソード、か?」
「で、ござるね」
うんうん、私は知っていたから何の不思議もないのだよ!
「ラビーちゃんっ、ジャンさん大丈夫っ?」
小走りにやって来るルーナたんの後ろから悠々歩いてくる二人の男。
いや、ディーノさんが走るなんて相当な事態だからいいとしても、ソル君よ、ちょっとは心配して欲しい所だ。
全く、見た目通りに冷たい男だなぁ。
「大丈夫でござる。ジャンが意外に強くてびっくりしたでござる」
「ジャンは強いですよ?ディーノさんと最近は互角ですからね」
「なんと?!」
私が唖然としてジャンを見上げると、ジャンは自慢そうにふふふん、と笑っていた。
ちょっとムカついたものの、私は本気で首を傾げた。
剣士のディーノさんに並ぶほど強いシーフ?
それってゲームバランスおかしくない?
シーフは敏捷さが売りなのに、敏捷な上に攻撃力もあるなんて。
ディーノさんの出番取るなと言いたい。
ディーノさんは動きこそ遅いものの、すんごく強いのだ。
そんなディーノさんを差し置いてジャンが活躍するなんて、そんなのクリア後で全然構わない。
「つくづく、余計な男でござるね……」
「舌打ちすんなよ?!尊敬しろよ?!」
私は涙ぐむジャンから意識を逸らした。
「で、これが宝箱に入っていたでござるよ。ディーノさんの武器でござろう?」
ジャンが手に持つ武器を指しながらそう聞くと、ディーノさんは寡黙に頷いてアイスソードを手に取った。
ビュッと振るうと、剣から氷の結晶が舞い散る。
この階のモンスターは氷軽減の敵が多いからあまり役に立たないが、地下では大活躍する剣だ。
魔法剣・氷のアビリティも覚えられる。
「ディーノさん、最短距離じゃなくて寄り道しましょう?こういう宝箱が他にもあるかもしれないんすから」
どうやら立ち直ったらしいジャンがディーノさんにそう話しかけた。
「しかし……」
「一刻も早くルヴナンを倒したいことは分かるっす。でも、無理をして大きな怪我でも負ったら、そっちの方が余計な時間を食うんすよ」
ルヴナンが封じられている石像の壊れるスピードは分からない。
でも、ディーノさんやソル君にとって、なるべく石像を傷つけたくない気持ちもあるんだ。
だから、気持ちが逸って無理をしてしまう。
まぁでも、今の状況で洞窟の最深部に行ってしまったら、大怪我以上に誰か死ぬと思う。
「ディーノ殿、貴殿はルーナたんを連れているのでござる。安全第一に行くことをお薦めするでござる」
そもそも身寄りのないルーナたんを、保護がてらこの旅に巻き込んだのは彼らなのだから、彼女の安全を確保する義務はあると思うのだ。
「……うむ。すまなかったな、ジャン。ルーナ殿も」
潔くディーノさんは頭を下げた。
謝るべき時にはすっと潔く謝るディーノさんは本当にカッコいい!
「ラビーちゃんもだよっ」
ぐいっと脇に手を入れられ、ルーナたんに抱き上げられた。
ルーナたん、腕を伸ばしたまま私を持ち上げるのはかなりきついのでは……?
「いきなり危ない所に行っちゃダメっ!
私が守るって行ったでしょ?私の側にいなきゃ駄目だよっ!」
ルーナたんがめっと、怒った顔をした。
未だかつてこれほど可愛いめっという顔を見たことがあろうか、いやない。
叱られているのに甘酸っぱくこみあげるこの気持ち。
「分かったでござるぅ」
「ホントに分かった?!絶対だよっ」
「絶対でござるぅ」
可愛い!
ルーナたんが可愛くて可愛い!
「もう、心配したんだからねっ」
こてん、とルーナたんの額が優しく私の額に当てられた。
ぎゅっと抱きしめられる。
「ごめんでござるぅ。お詫びにこれあげるでござるっ」
ポイッと、ルーナたんのお口にポムの実の飴を投げ入れる。
リンゴ飴じゃなくて、ポムの実の果汁で作った、ルーナたんの小さいお口でも3個は食べられそうな大きさの飴。
ぎゅっとポムの実の甘さが凝縮していて、ほんわり香る果物の匂いが心地よい一品。
「……も、もうっ、怒れないじゃないっ」
ルーナたんに、さらにぎゅっと抱きしめられて私はにまにま微笑んだ。
あと、ルーナたんって着やせするんだということも分かったのだった。




