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躾と拳

お一方に評価していただきました!

ありがとうございました!!


 さて、休憩を取っていたこの14階から、円盤形のエレベーターを使って15階に上がる。

 問題は、たった5階だけのこれからの階だ。

 最上階の20階はセト様がいるからね。

 出るんだよ、あいつが。


 ……えぇと、お化けでもエラクレスでもなくてね、ちょっと倒すのが面倒な、しかも全体雷攻撃というエグい魔法攻撃を仕掛けてくる、サンダーバードという鳥のモンスターがね……。


「諸君!これから先は今までとは違って全力で戦うでござるよ!少しでも早く、少しでも全力で倒して走り抜けるでござるよ!」


 ディーノさんにはウォーターソードを装備させ、ソル君には休憩で回復したMpでウォータラー連打、Mp尽きたら容赦なくエーテル、ルーナたんには魔法防御のベールか回復のケアーかの二択。

 ジャンはぶんどるで。

 あれほど怒りまくった私だが、この時点でジャンがぶんどるを覚えてくれていたのはありがたい。

 場合によっては、盗むを捨てて攻撃してもらわなければならないところだった。

 ”五月雨斬り”を覚えるのはもう少し先だからね。


「宝箱はどうするんだい?」


 ソル君が聞いてきた。

 会計担当としては、お金に代わりうる宝箱の中身を無視するのは見逃せないのだろう。


「――むふふっ、よくぞ聞いてくれたでござる!」

「……聞かなければ良かったよ……」


 私はソル君のぼやきをスルーした。


「最上階の手前にある小部屋の宝箱を開封することで、一気にモンスターの出現率が下がるんでござるよ!なので、その宝箱を入手してから探しに戻るでござる!」


 その宝箱とは、避雷マントが入っているそれに他ならない。

 そう、よりによって、雷防御の装備を手に入れた途端、サンダーバードの出現率は大幅に下がるのだ!

 ……この罠に何度苦しめられてきたことか……!


 ちまちま巨石を押して仕掛けを解こうとしているのに襲いかかってくる非情な光る鳥の群れ。

 いや、一度に現われるのは二羽だけなんだけどね。

 でもちょっと動けば遭遇する、そのエンカウント率の高さ!

 しかも全体雷魔法攻撃をしてくるから、ちょっと回復を怠ると全員が瀕死。

 そうなった時に大活躍するソル君の”アイテム2回”も、天空のローブを取り逃がしていればもはやゲームオーバーの字が躍るのみ。

 なんて鬼畜なセト様!


 そして私が危惧を感じていることがもう一つ。

 ……私、ちゃんと勇者達についていけるだろうか……?

 いや、もしはぐれた場合だけど、戦闘モードであるデザートプリンセスの時でも、唯一の弱点が雷なんだよねぇ。

 サンダーバードに糖弾ぶっ放すじゃん?

 空飛んでるから避けられるじゃん?

 ちまちまHp削られるじゃん?

 ヤバいよ、詰むよ!


 ……あれ?

 でも水の魔法は使えるから、魔法攻撃で倒せばいいのか!

 なぁ~んだ、楽勝じゃんっ!


「おいラビー、行くぞ?」


 はっ、気づくと勇者達がエレベーター代わりの円盤に乗り込もうとしていた!


「ま、待つでござるよ~っ!」


 いや、いざとなればまだどうにか自分で対処できることは分かったけどさ、やっぱり最近の雑魚敵も強くなってきてるから、できれば一人では戦いたくないんだよ~!




 15階を駆け抜けるのにエンカウントしたサンダーバードは実に20羽を越えた。

 この時点でソル君のMpは尽き、エーテルを飲み干しながらの耐久レースが始まった。


「ま、まだかっ?!」


 節約家であるソル君の性格が、ここに来て牙を剥いた。

 悪夢の16階。

 ボコボコ根っこが這う遺跡を、17階への階段目指して一直線に突き進む。

 悲劇は、階段を目前にした最後の一戦で起こった。


「さっさとエーテル飲むでござるよっ!!」

「くっ、でも次の階段で休めばっ!……2000ビルっ!!」


 ただで得たエーテル――宝箱から取得したから当然である――を金銭換算して惜しみ、止めの一発が遅れたためにくらう”電撃(全体雷魔法攻撃)”。


「ソ、ソルの阿呆~!!」


 悲痛なジャンの悲鳴が響き渡った。

 必死でケアーをかけまくるルーナたんも半泣きである。


「あとちょっと!!もうちょっとでござるから踏ん張るでござるよ~!!」


 ディーノさんが温存していた魔法剣で一匹を屠り、ジャンがぶんどるで残りを沈めた。


「走れっ!走るでござる~!!」


 唯一のセーフポイントである階段に駆け込み、私たちはぐったり倒れ込んだのだった。 

 ……ソル君の馬鹿。




 反省もいいが、まずは落ち着くことが重要だと見た私は黙っておやつの準備に勤しんだ。

 さっき食べたばっかりではあるが、サンダーバード40羽以上を倒してきた体には休息が必要だと思う。

 甘いもの、というより滋養のあるもの的な感じの。 


 なのでラヴァティーで買った赤ワインみたいな果実酒にハーブを漬け込んだ、薬用酒〈糖入りポーション入り)を温めて提供しようと思う。

 それぞれの専用マグカップに注いで、勇者達に渡す。

 渡す順番はこれまで、ディーノさん、ルーナたん、ソル君、ジャンだったのだが、今日はソル君が最後だ。


「さ、これでも飲むでござるよ」


 さささっとみんなに渡した。

 おおぅ、空気が重い。


「……ソル」


 やはりというか、こういう時に口を開くのはディーノさんだった。


「はい」


 ソル君は叱られるのを覚悟した顔でディーノさんを見上げていた。


「歯を食いしばれ」


 は?


「っ」


 ぐっと口元に力を入れるソル君。


 ――ガゴォォッッッ!


 はぁぁぁ?

 ソ、ソル君が吹っ飛んだ!!

 ギリギリ階段ゾーンの、でも階段を何段もゴロゴロ転がって落ちていった、もうすぐで16階という際どい場所にソル君が転がっている。

 たらりと滴る血まで見えた。

 デ、ディーノさん、体罰禁止!!


「ぼ、暴力は良くないでござるよぅぅぅ!!」 


 思わず私は抗議した。

 ディーノさんの拳が重すぎてソル君瀕死だよ!


「――っひっさびさだなぁ、ディーノさんの鉄拳」


 そしてジャンは軽いな?!


「お前の行動が仲間の生死を決める。……気をつけろ」


 重々しく告げるディーノさん。

 切れた口の端から血を覗かせながら吹っ飛ばされた階下に座り直し、頭を下げてソル君はただ、


「はい」


とだけ答えた。

 ……ガクブルである。

 私はルーナたんと身を寄せ合って、この野生のヒグマかっていう親子を見守ったのだった。




読んでくださってありがとうございます!!


……ほら、ディーノさんは背中で語る男ですから。だからほら、語るのも拳で、ね?

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