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お仕置きと買収


 天空のローブ。

 それは雷と水属性を軽減してくれるだけではない。

 なんとソル君が”アイテム2回”を覚えてくれる、すんばらしいローブなのだっっっ!


「それって役に立つのかな?

 アイテムを2回使わなければならないような危険な敵からは、まず逃げないかい?」

 ソル君がごく真っ当な反応を示した。


「っく~、そんな冷静な感想はつまらないでござるよっ!

 ウロボロスの尻尾を使って戦闘不能から回復した後にすぐポーションを使えば、生存率が跳ね上がるでござろうにっ!」

 ウロボロスの尻尾は、戦いにおいて瀕死になった味方を回復するアイテムだ。

 要は蛇の尻尾なのだが、まるで滋養強壮剤みたいな感じの瓶に入っている液剤だ。

 飲むのではなく振りかける。

 瀕死だと飲めないからね。


 だが私は実際に勇者達が使っているのは見たことがない。

 強いし私がいるから、そんな危ない戦いをしていないというのが大きいと思う。

 すごいぞ私!


「戦闘不能になるような危険なモンスターに――」

「男には戦わなきゃならない時があるんでござるよっ!」

 そもそも精霊王との戦いや、封印の四獣、ラスボス、裏ボスとの戦いがそうだ。

 裏ボスと戦う時に、ウロボロスの尻尾からのウルトラポーション(全体全回復)のタッグなんて相当使えると思う。

 封印モンスターがかましてくる状態異常を回復するのにもものすごく有用だしね!

 進化してアイテム3回にならないことが実に口惜しい。


「確かにな」

 ディーノさんが頷いてくれた。

 さすが男の中の男。

 まさに漢というのが相応しいディーノさん。

 分かってくれてとても嬉しい。


「なぁ、そろそろ次に行こうぜ~」

 ジャンが叫んだ。

 待てない子供か、全く。

 今、私たちがいるフロアは12階。

 恐ろしいことに、これまでの宝箱を全て回収している。

 (ラビー)がいるから?

 違う。

 私が巨石の仕掛けを解除して先に進もうとするのに、ジャンがとっとと進んで勝手に宝箱を回収して来るのだ。

 どこにも通路が通じていない隠し部屋にある宝箱に関してだけ、私は助言したけれど。


「あ、そうそうアビリティといや、センセイ?」

 ふっと思い出したようにジャンが聞いてきた。

「なんでござる?」

「あのさぁ、そろそろぶんどる使ってもいいか?」


 ――は?

 ――こいつは今、なんと言った?!

「お、覚えたんでござるか?ぶんどる?」

「あぁ、ちょっと前に――」

 私は激怒した。怒髪天だった。


「なんでさっさと申告しないでござるよ?!

 ぶんどる覚えたならさっさと次は”良いものを盗む”で盗みまくるでござるよ!」

「え~?

 でもぶんどる使いたい――」

 新しいアビリティが気になる様子のジャン。

 そんなの関係ない私。


「”良いものだけ(・・)盗む”ってアビリティを覚えさせたいから、ぶんどる覚えたらすぐに申告しろって言ったでござるよね?!」

 胸ぐらを掴みたい気分だったが、背が届かないので胸を思いっきり張って両手を腰に当て、怒れる女教師みたいなポーズを取ってみた。 


「いや、だから申告したじゃねぇか……わりとすぐ」

 ジャンは、大人の遊びができそうな女性ならキュンとくるであろう、母性本能をくすぐりかねない拗ねた顔で言い訳をした。

 論外である。


「わりとが入る時点ですぐじゃないよね。

 しょうがない、ジャンは5回、おやつ抜きだね」

 プルプルと怒りに震えている私に代わり、なんとソル君がジャンに罰則を言い渡していた。

 ……”良いものだけ盗む”を覚える時期がちょっとだけ遠ざかったのが、よっぽどお気に召さなかったらしい。

 さすがは勇者班の会計担当。

 いや、むしろ勇者本人なんだけどね!


「はぁ?!

 ソル、お前いつからそんなに横暴になったんだよ?!」

 ソル君が横暴なのはたぶん最初からだと思う。

 が、まぁそんなことはどうでもいい。


「うむ。ジャンには結局これが一番効くでござるからね。

 5回。まぁ妥当な線でござろうな」

「ウサギがいるから、ジャンも扱いやすくなっていいよ」

 はははうふふ~と笑う私たちは、当然ジャンの泣き言は全スルーしたのだった。




 さて、20階にあるボス部屋の直前でようやく、エラクレスが装備していた避雷マントが宝箱から一着だけ手に入る。

 天空のローブも雷を軽減してはくれるものの、その軽減率は低い。避雷マントの方が軽減率は高いのだ。

 無効にはならないけれど。


 そして!

 何より大きいのが、避雷マントはルーナたんも装備できるという点である。

 天空のローブはソル君専用装備だからね。

 サイズ的にそもそも男性用の大きさだし、デザインも吸血鬼のマントが薄い青色になった感じでルーナたんには似合わなさそう。

 じゃあソル君に似合うかと言われると……真っ黒な方がソル君向けのような気がする。

 リアル吸血鬼。

 ルーナたんとの真実の愛に目覚めて……も、改心はしない感じの。

 避雷マント、ゲームをプレイしていた時も思ったけど、なぜもっと早くに手に入れられなかったのか。

 この聖域の低層階で手に入るならもっと役に立っただろうにと思うと無念である。


「センセイ~、次のミバドゥの町には美味いチーズの店があるんだけどな~」

 ジャンを外して、セーフポイントで休憩を取る私たち。

 避雷マントはまだゲットしていない。

 だってまだ14階だから。

 頑張って魔法全体化でMpを節約していたソル君が、ついにガス欠を起こしたのだ。


 彼は今、心底不本意そうに桜色のマカロンを頬張っている。

 このマカロンは、ラヴァティーの苺っぽい果実酒を使って作った、ルーナたんがキャッキャと喜ぶピンク色をしている。

 中身はホワイトチョコレート。

 ピンクと白という組み合わせが何となく、デザートプリンセスの私を思い起こさせる逸品だ。

 私は、マカロンはポロポロ崩れるものよりもしっとり濃厚な方が好きなので、何度か作り直してついに極めてみた!


「クリームチーズとか、甘さ控えめで美味いらしいけどな~」

「くっ」

 ジャンは姑息な手に出ている。

 私をデザートの原料で釣ろうとしているのだ!


「負けるなウサギ」

 ソル君から心のこもっていない、適当な声援を頂いた。

「……うまいな。

 ほのかに果実の風味がする」

 背中で語れる侍は、マイペースにマカロンを味わっていた。


「ディーノさんずりぃっっ!」

「ねぇラビーちゃん、ちょっとだけなら分けてあげたら……?」 

 ルーナたんは通常運転で優しい。

「ルーナ、ダメだよ。

 ジャンはもうちょっと躾けないといい大人になれないからね」

 ソル君は通常運転で上から目線だった。

 どんな幼少時代だったんだろう、彼らは?


「チーズケーキの美味い店も連れてってやるから!」

 ジャンの情報源はどこにあるんだ……。

「しょうがないでござるねぇ……じゃあ一個だけ」

 そう言って私はポイッとジャンにマカロンを投げた。

 放物線を描いた丸いお菓子がパクッとジャンの口の中に消えていった。

 うかうかしていたらソル君に奪われるとでも思っているような素早い動きだった。


「……ラビー?

 甘やかすなと言ったはずだけどね?」

 そう言いながらこちらを振り向くソル君から逃れるべく、私はルーナたんにへばりついたのだった。

 別にチーズケーキがものすごく食べたいってわけじゃない。

 研究したいだけなのだ!




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