4 親切なシャチ
目が覚めると、僕は洞窟の出入り口に引っかかってゆらゆらしていた。
顔を上げると、そこには巨大なシャチが――。
「う、うわぁー!!」
「待て!本当に何もしない! 分かった! 俺は少し離れる。あんたはもっと内側に戻れ! それなら安心だろ?」
言われて足をぐねぐね必死に動かす。確かにあれだけの巨体では、この洞窟の入り口は潜れないだろう。
あなたを信用していません、と宣言しているようで、申し訳なかったが本能的に耐えられなかった。
せめてものお詫びにもならないが、奥に引っ込みすぎず顔が見える位置取りにする。
「ご、ごめんなさい。あなたは親切に話してくれているのに。……本当にごめんなさい」
謝るのでどうか食べないでください。
「いや、俺みたいなのに気軽に近づく方が心配になるよ。しかし、あんたは何者だ? あいつとは全然別人のお嬢さんなのに、微かにヴルスラっぽい気配はあるんだよな」
この洞窟に住んでいるのはヴルスラさんというらしい。
「僕、ヴルスラさんには似てないのでしょうか」
「蛸って共通点があるが、それ以外は正反対ってぐらい似てないが?あいつはキャラ作ってんのか? てぐらい魔女らしい蛸だろ。あんたは妖精さんみたいな蛸」
シャチは表情が分からないが、身振り手振りで感情を表現してくれているようで、胸びれを上下に振った。やれやれ、といったところだろうか。
話してみると最初の怒鳴り声からうけた印象と違った。そこまで怖いひと(?)ではないかもしれない。
「シャチさん。僕、自分がどういう状態かまるで分からないんです。もしかしたら、他人の体を奪ってしまったかもしれないんです」
思い切って打ち明けた。僕一人の問題ではないかもしれないのだ。躊躇ってはいられなかった。
ただの人間の学生だったことから、今まで自分に起こった出来事を全て話した。
シャチさんはふむふむと頷いたり、「えっ!?」と驚いてその巨体をぶんっ、と半回転させたりしていた。
そして、全てを話し終えた僕に向かって、胸びれをきゅっ、と胸に添わせるようにして、
「……オスだったのに、メスになっちまったんだな……大変……だったな」
と言った。
お労しいものを見る視線だった。
正直、色々なことが起こりすぎて、性別の件は気にしている余裕はなかった。というか、こんなにも別人だからこそ、僕は他人の体を奪った可能性を感じたわけで……。
「結論から言うと、お前は別の存在に生まれ変わったんだよ。誰のことも犠牲にしていないとは言い難いが、そいつの自業自得だから全く気にしなくていいぞ。むしろよくやった!」
シャチさんが胸びれをぐっ、と前に突き出した。グッドサインだろうか?
それより僕にとっては聞き流せない言葉があった。僕は慌てて聞き返した。
「誰が!? 誰が犠牲になったんですか!?」
シャチさんはなんでもない風に答えた。
「ヴルスラだよ。あいつがお前の魂を喰おうとして、返り討ちにあったんだよ」




