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2 海中洞窟

 僕が揺蕩っていたのは洞窟だった。海水に満たされた、海中洞窟。


 僕の家のリビングくらいだろうか。八畳ほどで、高さも一般的な日本家屋と同じくらいだ。


 洞窟の壁をくり抜いて作った棚に、栓のされた硝子瓶がいくつも並んでいて、色取り取りの液体が収められていた。


 薄暗いが、不思議な淡い光源が幾つか浮いていて、ほのかに明るい。


 そこまで辺りの様子を見ていて、はた、と何故息が苦しくないのか不思議に思った。


 まず、始めに思い至らないとは呑気すぎると、我ながら呆れたけれど疑問に思わないほどに、当然のように呼吸はできているのだった。


 自分の手を見てみる。なんだかいつもより小さくて、丸っこい。腕も、いくらなんでも細すぎる。


 え? と身体を見下ろすと、下半身にあったのは。


 乳白色の、いくつもの触手だった。


 瞬間、ゾッとして飛び上がった! すると、触手の推進力は凄まじく、天井の岩肌に頭が激突する。


「痛いっ!」


 反射で声をあげたけれど、実際は痛みはなかった。ぽよんっとたわむ感覚があって、衝撃が分散されたようだった。


「え?……え?」


 混乱して、ふよふよと泳ぎ回る。そう、泳げるのだった。白い触手は自由自在に動かせて、お互いに絡まることもない。


 恐々、観察してみると、触手は根本から先に向かって少しずつ細くなっていて、たくさんの吸盤がついている。


 イカだ、と思っていや、蛸だ、と思い直す。


 色味こそ、白くてイカのようだけれど、自分は蛸だ、という自覚が何故か湧いてきたのだ。


 それも、ただの蛸ではない。僕は、一度あの教室で死んで、蛸の化け物に生まれ変わったんだ。

 だって、恐る恐る触ると上半身は人間のようだったから。


 血の気が全身から引いて、目眩がした。


 発見されていなかっただけで、地球の海にはこういう生物がいるのだろうか。そうであってほしい。


 それなら、姿形は変わってしまったけれど、家に帰ることができるかもしれない。


 でも、もし。


 まるで違う世界にいるのだとしたら?


 もう二度と、会えないのではないだろうか。


 母さんにも、貴昭にも――。





 どれくらい茫然としていたのだろうか。


 ふと、壁に鏡がかかっているのに気付いて、近づいてみる。

 

 そこに写っていたのは僕ではなかった。


 乳白色の少女だった。


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