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9-1 運命と、発祥と、企みと


 朝の薬草採取を終えて宿に戻ると、

 女将が朝食を用意してくれていた。


 女将が向かいの席に腰を下ろす。


「以前なら、この時間は仕込みの真っ最中で話す余裕もなかったね。」


 今は従業員が代わりに仕込みをしていて、

 女将はそれを眺めながらタイチに言う。


「こうしてね、泊まってくれた客一人一人に話が出来る日がまた来るなんてね」


「主人が生きてた頃は仕込みは主人の仕事だったから」


「あたしはこうして、お席回りしてたんだけどね」


「主人が流行り病で亡くなってからは仕込みに追われて、とんとご無沙汰になっちまって」


 女将はしみじみと言う。


「ほんと、タイチには感謝してるよ」


「僕というより、焼きヘンネのマヨソースでしょ?」


「確かにそうなんだけどね」


 女将は少し笑って続ける。


「焼きヘンネにマヨソースを使う発想なんて、あたしじゃ一生かかっても出てきやしない」


 そう言って、女将はやっぱりしみじみとした顔をして、


「ほんとにアンタが来てくれたのは運命だったね」


(運命なんて大袈裟な)


 しばらくして、娘が階段を下りてきた。


「おはよ……」


「ようやく起きてきたかい、なんか食べるかい?」


「いらない、なんか、食欲ない」


 そのまま席について眠そうにしている。


 タイチがふと思いつく。


「女将さん、昨日の残りのスープ温めてもらえますか」


 女将が眉を上げる。


「昨日のスープかい?余り物のスープなんて脂ギトギトで飲めたもんじゃないよ?」


「お水を足してもらって、」


「そこにミソペーストを」


「ミソペーストかい?あるにはあるけど…」


 女将は半信半疑のまま厨房へ入っていった。


 しばらくして出てきたのは、淡い色の汁椀だった。


 娘は一口飲んで、特に何も言わずそのまま会話に参加する。


 そうして、しばらくして。


「なんか、ちょっと食べようかな」


 娘が言った。


「パンある?」


「あるよ」


 娘はパンを受け取り、ちぎりながらスープに浸して食べる。


 それを見ていた女将が、少し考えるような顔をした。


「……今度から宿泊の朝食に出してみようかな」


――


 食事を終えて街の広場に向かうと、

 黒フードの小柄な人物の指示でステージを組んでいるところだった。


 黒フードの人物はタイチに気づき、駆け寄ってくる。


 王女だった。


 どうやら身分を隠すために黒マントを羽織っていたらしい。


「え、王女様!?」


「そんなのどっからどう見ても王女様じゃない」


 すると、王女は、


「タイチさんは騙せる、娘さんは騙せない」


 と何かブツブツ言っている。


 しばらくしてバルキリーがやってくる。


「あ、王女にゃ」


 みんなが次々と集まり、王女に挨拶していく。


「みんなすぐに王女さまってわかるんだな」


「そりゃそうでしょ」


「そうなの?」


「大体、あんたは王女さまがこの街にいること知ってる側なのよ」


「それですぐに結びつけれなきゃ」


(確かに)


――


「明日か明後日には組み上がりますわ」


「で、出来たら何をやるんですかぁ?」


「オレは何も喋ることないぞ」


「ワシは台本があるなら喋れんことは無いがの」


「喋れと言われても……何も……喋れない」


「皆様にはステージに上がっていただくだけでよいですわ」


「それだけでいいのか」


「進行や説明は全てわたくしの付人が行います」


 付人が一歩前に出る。


「私が執り行いますので、皆様はそれに合わせていただければ問題ありません」


 みんな納得する。


 するとロリ猫が、


「じゃあ今日の晩ご飯は何にするにゃ?」


「わたくし、焼きヘンネのマヨソース発祥の店に行きたいですわ」


 王女が一番に発言する。


「決定にゃ!あとで焼きヘンネのマヨソース発祥の店に集合にゃ!」


「……」


「焼きヘンネのマヨソース発祥の店って……うちの宿!?」


――


 王都、軍部の一室。


 数人の男たちが声を潜めて話している。


「国家事業とやらの財源は、国庫からの捻出だ」


「王家が主体とは言え、出所は変わらん」


「それで、われわれの予算の増額は見送りか」


「ああ、兵の増員も見送りになった」


「しかし、王城の衛兵は倍近く増やされているが」


「あれはあくまでも衛兵だ。軍の増強とは別勘定だ」


「王家はそう思っておらんのだろうが」


「西側は不安定でまだ落ち着いていない」


「北も同様だ」


「この状況で、兵力を削られていってはかなわん」


 しばらくの沈黙。


「……王女殿下は、あれは影武者の方だろう?」


「本物は今どちらに?」


「東の街だ。しばらく戻らん」


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