9-2 焼きヘンネと、聖地巡礼
広場では、まだみんなでたむろっている。
王女は図面を見ながらステージ組み上げを指示している。
それを見るメンバー。
「急にこんだけ行って大丈夫か先に確認してくる!」
そう言って娘は先に広場を出た。
――
娘が慌てて宿へ戻る。
「大変大変!」
「なんだいこの子は騒々しいね」
「今晩、みんなが焼きヘンネ食べに来るって!」
「そうかい」
振り向きもせずに返事する。
「あと、王女さまも!」
「そうかい…」
一拍置いて女将が振り返る。
「えええええ?」
「なんでだい、こんな宿に」
「焼きヘンネ食べに」
「焼きヘンネなんか今じゃどこだってやってるじゃないか」
「なんか知らないけどここがいいんだって」
女将はしばらく固まってから、自分の服を見下ろした。
「ど、どうしよう、」
「服、服は、」
「昔、領主様が来た時に着た服がある」
「けど、」
「サイズが」
慌てる女将に、
「お忍びだからそのままでいいんじゃない」
「…そのままっていっても」
「あたし達も全然いつも通りの服だし」
「え、あんた王女さまと会った事あるのかい」
「会った事と言うか」
「この街まで一緒に来たわよ」
「ええ?」
「なんなら、さっきまで一緒に居たわよ」
「なんでそんな大事な事言わないんだ」
「え、だって、お忍びだったし」
「あんた失礼な事してないだろうね」
娘は少し考える。
「してない…と思う…」
「ああ、この子にもっと礼儀作法を教えとくんだった」
「大丈夫、他にもっと失礼な人たちが居るから」
「多分…大丈夫…」
――
バルキリーとタイチが宿にやってくる。
剣士がぐるりと見回した。
「前と変わったな」
「前も来た事あるんですか」
タイチが尋ねる。
「この街で風呂のある宿がここと今の宿だけだったからな」
「ここは食堂が狭かったので今の宿に決めたんだが…」
改装された食堂を見て、
「今度からはここの宿でもいいな」
――
しばらくして、扉が開く。
冒険者の格好をした小柄な人物が入ってくる。
「来たわよ」
「あれが王女さまかい」
女将が一歩前に出て、スカートの裾を持ち上げる。
「い、いらっしゃいませ、王女――」
王女が静かに手を上げた。
「今はどこにでも居る冒険者ですわ」
「で、では、なんとお呼びすれば」
「そうですわね」
王女は少し考えてから、
「姫冒険者とでも呼んで貰いましょうか」
(ちっともどこにでも居る冒険者じゃない)
「ひ、姫冒険者さまはなんで、」
「敬語も結構ですわ、普段通りに」
「でも、」
「周りがざわついてますわ、気づかれないようにご協力をお願いしますわ」
女将が深呼吸する。
「で、姫冒険者さんはなんでうちに来たんだい?」
(すごい、さすがプロだ)
「焼きヘンネのマヨソース掛けが目的ですわ」
「でもそれなら、ここじゃなくても、もう少し格式高い店でも食べれるだろ?」
「ここが元祖だから来たかったんですわ」
「そんなに他の店と違いはないと思うけど」
「違いますわ、ここは発祥の地、」
「いわば、歴史の始まった場所ですわ」
「れ、歴史?」
ふと、あゆちゃんのことを思い出す。
聖地巡礼と称しては、好きなバンドのライブ会場や出身地まで足を運んでいた。
「聖地巡礼…」
「それですわ!ここは聖地なんですわ」
「そんな、聖地なんて滅相もない…」
そんなやりとりの最中、剣姫が到着して、
宴が始まった。
――
食事が終わる頃、王女がおもむろに口を開いた。
「わたくし、今晩はここに泊まりますわ」
「今のわたくしは一介の冒険者ですわ」
付人の顔色が変わる。
「王女殿下、それは」
「問題ありませんわ」
「しかし警備の問題が」
「バルキリーのお姉様方と剣姫さまが居れば万全ですわ」
付人はしばらく考えてから、
「……わかりました」
付人は女将に向き直り、
「今からでも大丈夫でしょうか」
「今は使ってない部屋があるよ」
そう言って女将は二階を指差す。
「布団もあるにはあるけど」
「うちは布団にはこだわってて評判も良いんだけど」
「流石に王女様の身分のレベルじゃないからねぇ」
王女が付人を見る。
「寝具は別邸から運ばせます」
「じゃあお願いしますわ」
こうして、その夜の宿が決まった。




