9-3 王女の夜と、それぞれの夜
食事が終わり、二階の広間でくつろぐ。
以前この宿に泊まっていた時は部屋に直行していたので、
広間をこうして使うのは新鮮だった。
しばらくして女将が上がってきた。
「下の客が全部入り終わったから、あんた達も入りな」
すると娘が
「今日は王女さまが来てるから、お湯張り直してもらえる?」
と女将に言う。
「あー、今うちはお湯が湧いてるから掛け流しだよ」
「え?」
「今まで違うかったじゃない」
「それがさ」
女将が続ける。
「向こうに建屋を増築しただろ」
「最初は裏に建てる予定で工事してて、」
「そしたら杭打ちの時にお湯が湧いてきちゃってさ」
「そのお湯を引き込んでんだよ」
「じゃあ、あっちに増築したのって」
「そう、そこに建てれないってなって、あの場所に建てたんだよ」
「裏は新しく風呂だけの建屋の工事してるとこさ」
「ええー?」
そして、女たちが先に風呂へ入る。
男の番になり、
タイチが入っていると、付人連中も入ってきた。
疲弊した様子で湯に浸かっている付人に声をかける。
「お付きの仕事も大変ですね」
「いやいや、君の方こそバルキリーと一緒で大変だろう」
「確かに大変ですね」
「でも、僕は身寄りがないので」
「すごく構ってくれるのでありがたいです」
「そういうところが君の良いところなんだろうな」
「そうなんですか?」
「そりゃそうさバルキリーなんて一癖も二癖もある連中が、」
「君をずっとそばに置いてるとか」
「王女殿下にしても君をそばに置いておきたいと思ってるんじゃ無いかな」
「そうなんですか」
「王女殿下の信頼を得るなんてなかなかだよ」
とは言え、他の人との絡みを見たことがないので
いまいちピンとこない。
――
風呂から上がり自分の部屋に戻ると、
すでに布団の上でロリ猫が寝ていた。
「なんでここに居るの」
「王女に剣聖を取られたにゃ」
「だからウチはここで寝ることにしたにゃ」
聞けば、くじ引きで剣士は王女と同じ部屋になったらしい。
せっかく運んできた王女の寝具は誰が使うのかと聞くと、
「誰も選ばなかったので付人二人に押し付ける事になったにゃ」
(振り回されてるなぁ…)
――
翌朝。
まだ寝ているロリ猫を横目に起き出して、下に降りる。
朝食を取っていると、付人二人が降りてきた。
「全然寝れませんでした」
「え、そうなんですか」
「王女殿下の寝具ですよ、寝れませんよ」
「しかも男二人ですからね」
(あー)
そこへ王女が起きてきた。
「寝れませんでしたわ」
「え、そうなんですか」
「くじで喜んで選んで失敗でしたわ」
「あ、やっぱり自分の布団じゃないからとか」
「いえ、違いますわ」
「剣士さんのイビキがうるさかったとかですか?」
「いえ、推しと同衾する事がこんなにも寝れないとは…」
王女はため息をつきながら遠くを見つめる。
(ドウキン?)
「タイチさんは早起きですのね」
「あ、僕は薬草採取があるので」
「わたくしも薬草採取に行ってみようかしら」
「え、王女さまが薬草採取するんですか?」
「王女殿下それはさすがに」
あわてて付人が止める。
「あなた達はついてこないの?」
「もちろんついていきますとも」
「なら問題ないですわ」
「しかし、」
そこに剣姫が起きてくる。
「剣姫さんも早いですね」
「ん…剣を振りに行くから…ね」
「え、もしかして」
「ん…森に行く」
王女がその言葉を聞き、
「剣姫さまもおられるなら問題ないですわ」
「しかし」
付人はまだ渋る。
「忘れてませんか」
「まだすごい人がいることを」
(誰だろう、剣士さんはまだ起きてこないだろうし)
「タイチさんですわ」
「え」
「僕がですか?」
「わが騎士団をたった一人で打ち負かすという」
「とんでもないことをやらかしておいて?」
「あ、」
結局、付人たちは言い負かされて、
王女が薬草採取についてくることになった。
ギルドに一緒に行くと、
受付嬢がギョッとする。
先ほどと同じやり取りをして、
剣姫がいることが分かると渋々了承した。
そして地図を出して、指を差し、
「こっちが上ですからね!」
と再三の注意を受けた。
(これ、ずっと言われるんだろうか…)




