8-10 庶民の味と、こすぷれと
翌日、馬車はまた走り出す
「しかし昨日のメス豚は美味かったな」
剣士がしみじみと言う。
「ステーキもだが、トゥンジルも最高だったな」
「店主が言ってましたわ」
王女が続ける。
「トゥンジルはミソを使うから」
「オス豚の方が合うかもしれないと」
「確かに、ミソは香りが強いからのう」
「多少癖のある肉の方が、馴染むかもしれん」
「オス豚を使えば、安く提供できますわね」
「街中の料理店や屋台でも、扱いやすくなりますわ」
「それに」
王女が続ける。
「ショーユもミソも、以前は王都の本店でしか手に入りませんでしたが」
「支店ができたおかげで、手に入りやすいしのう」
エルフが頷く。
「メス豚のステーキはご馳走として」
「トゥンジルは庶民の味として」
「これは流行りますわ」
王女が目を輝かせる。
馬車はそのまま街道を進んでいく。
剣士がふと口を開いた。
「王印返してすぐ戻る予定だったのに」
「今回は割と長く居たな」
「王都の方がいいのに」
娘が呟く。
「確かに、あの街にこだわるのはなんでなの?」
タイチが聞く。
「あの街は旧王都じゃからな」
エルフが答える。
「王城の拡張に伴って、今の王都に遷都したんじゃが」
「昔ながらの職人や店は、今もあちらに多く残っておる」
「王都よりも質の高いものが手に入りやすい」
「魔術師ギルドもあちらの方が格調高い」
「冒険者にとっては、今でも住みやすい街なんじゃ」
(それで、街も高い城壁に囲まれてたんだ)
「これから王都でのお仕事も増えますから」
王女が言う。
「王都に居る時間も、増えると思いますわ」
そして、傍では
ロリ猫が王女の付き人と何やら真剣に話している。
聞こえてくる単語から、
お金の話のようだ。
(また報酬の上乗せとかそんな交渉かな?)
そう思いながら、
聞き耳を立てるのはやめておいた。
――
街に到着すると、
門では髭の衛兵が迎えてくれた
「おお、戻ってきたのか」
「戻ってきたにゃ」
そしてタイチを見て
「坊主も元気そうで何よりだ」
「おかげさまで、元気です」
「おかげさまはこっちのセリフだ」
大きな声で笑う
門をくぐり、
一行は一旦ここで解散となり
それぞれの宿へ向かうことになった。
「私たちはいつもの宿に向かいますぅ」
聖女が言う。
ロリ猫が
「明日の朝にギルドで集合にゃ」
(また朝の約束を…)
「あ、僕朝から薬草採取行くので昼頃で」
「王女殿下もそれでいいですか?」
「かまいませんわ」
「じゃあそれで決まりにゃ」
ロリ猫が手を振る。
バルキリーたちは、別の宿へと歩いていく。
王女と付き人は、別邸へ。
タイチと娘は、娘の実家の宿へ向かった。
――
「ただいまー」
娘が扉を開ける。
「いらっしゃいませー」
見知らぬ従業員が対応する
「!?」
「おや、おかえり」
女将が顔を出す。
「また戻ってきて、学校は大丈夫なのかい」
「学科は全部、終わってるから問題なしよ」
そして、
「タイチもおかえり」
「……ただいまです」
少し照れくさそうに言う。
そして、ふと宿の中を見渡す。
「あれ?」
娘も同じように周囲を見回す。
「広くなってる……?」
以前よりも、明らかに食堂が広くなっている。
そして、新しい壁紙
新しい廊下。
「ああ、改築したんだよ」
「焼きヘンネのマヨソースだけを食べにくる客も多くてね」
「え、一階の部屋はどこに?」
女将は食堂の窓から外を指差す
井戸を挟んだ向かい側にもう一つ建物がある
「増築したんだよ」
「この一階を全部ぶち抜いて、食堂と受付だけにして」
「客の部屋は全部隣の建屋にしたんだ」
「ここの二階のあんたの部屋はそのままだよ」
「しかし、」
「何が流行るもんかわからないもんだね」
「半年先まで宿泊の予約で一杯だよ」
女将が嬉しそうに言う。
「じゃあ、あの人たちも」
従業員に目をやると
「雇ったんだよ、さすがに一人じゃ手が回らなくてね」
「あんたの後輩だね」
笑いながらタイチに言う
(だから従業員になった覚えは無いんですけど)
――
翌朝、一人ギルドへ向かう。
魔法籠があるので受付嬢に薬草採取行くとだけ告げる
薬草採取の面々と会うのも久しぶりだ
森の入り口付近で子供たちや老人と少し話して、
地図の上下を確認して森に入る
森の中で剣姫が一人で剣を振っていた
邪魔しないように話しかけずに奥に入る
魔法籠はほどなくいっぱいになったので引き上げる
帰りもまだ剣姫が剣を振っていたので
「お先に戻りますね」
と声をかけると
「…着替えてから、行くと皆に伝えておいてくれ」
と言うので、手を上げて了承し、森を出た
宿に戻ると、娘も起きていたのでギルドに向かう
途中でバルキリー達と出会ったので、一緒に行く。
ふと見るとロリ猫が新しいブーツを履いていた。
「あれ、そのブーツ」
「昨日、いいのがあって買っちゃったにゃ」
(買っちゃったにゃ、って)
ギルドに入ると
受付嬢とギルドマスターが顔を出した。
「おかえりなさい」
「おう」
剣士が軽く手を上げる。
そこへ、王女が現れる。
冒険者風の出立ちだった。
剣士とロリ猫を足して二で割ったような服装。
付き人も、同じく冒険者風の格好をしている。
「な、なんなんですかその格好」
「冒険者のこすぷれですわ」
王女が胸を張る。
(学習能力高いな……)
ギルドマスターが王女に頭を下げる。
「本日はようこそ当ギルドへ」
事前に王女来訪は通達済みだったらしく、
驚くこともなく丁重に対応している
「あとは剣姫か」
「あ、剣姫さん森で剣を振ってましたよ、着替えてから来るそうです」
「そうか」
剣士はニヤリとする
ギルドに薬草を納品していると、
剣姫が合流したので、
二階に通される。
担当のギルド職員と付人を交えて、
王印が無事返却されたこと、
黒装束のこと、
王都の事業のアンバサダーとして活動していること、
が報告された。
そして最後に、
「もっと担当の職員さんの予算を増やしてください」
とタイチが提案した。




