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8-4 売れた絵札と、メッセージと


朝。


いつものように薬草採取の準備をしていると、


「うーんうーん……タイチもう許してにゃ……」


ロリ猫の寝言が寝室から聞こえてきた。


笑いをこらえながら、静かに部屋を出る。


――


ギルドに着いて、薬草採取の列に並ぶ。


前後にいつものおっさん達がいた。


「おはようございます」


「おう名人、今日も来たか」


一人が胸元をちらりと見せる。


タイチの絵札があった。


「へへっ、買っちまった」


「なんだ、名人の絵札があるなら教えてくれよ」


別の一人が不満そうに言う。


「これで俺も名人に近づけるかな」


(買う人、居たんだ…)


順番が来て、受付へ進む。


「おはようございます、今日もお願いします」


そのまま、馬車の待ち合いスペースに行こうとすると、


「あ、その前に」


薬草担当の職員が引き止める。


「魔術師ギルドからお預かりしているものがありまして」


「魔術師ギルド?」


「はい、こちらです」


差し出されたのは、見慣れない籠だった。


いつもの籠より少しコンパクトで、表面に印が二重に刻まれている。


「魔法印が二重に刻まれた魔法籠です」


「一つで二つ分の容量があります」


「なんで僕に?」


「タイチさんは永世薬草採り名人ですから」


「魔術師ギルドも優遇しておきたいんでしょう」


「そういうもんなんですか」


後ろからおっさん達の声が飛んでくる。


「二重印か、やっぱ名人は扱いが違うな」


馬車に乗り込み、採取地へ向かう。


――


採取地に着き、


いつもより時間がかかると予想して


「今日は先に帰っておいてください」


御者に声をかける。


「そうか、わかった」


馬車が戻っていく。


黙々と採取を始めた。


やっぱり単純作業は好きだ。


気づくと籠には入らなくなっていた。


(え、もういっぱいなの?)


入りきらない分はアイテムボックスに収納する。


アイテムボックスが緑一面に埋まった頃、


「昼だぞー!昼飯だぞー!」


聞き慣れた声が飛んできた。


屋台の馬車が止まる。


「おう兄ちゃん、久しぶりだな」


「どうも」


「今日の日替わりはハムとチーズの名人パンだ」


「じゃあスープ付きで」


しばらくすると、おっさん達も集まってきた。


「俺も名人と同じの」「俺も」「俺もだ」


各々が屋台の前に並ぶ。


昼食を取りながら、一人が言う。


「絵札のおかげかな、

 なんかいつもより採取が早い気がするんだよな」


「俺もだよ」


(多分気のせいです)


「しかしさすがに今日は倍の容量だからな」


「まだ居てくれて安心したよ」


「半分くらいは採れたのか?」


「いえ、終わってしまいました」


「…」


「なんだよ名人、遠すぎんだろ」


そして昼飯も終え、


「今日も乗せてもらえますか」


「好きなとこに乗ってけ」


荷台に乗り込む。


屋台の馬車がゆっくりと王都へ向かい始めた。


――


ギルドに薬草を納品し、魔法籠を返却する。


特に寄り道というわけでもないが


宿への道を少し回り道して、資料店の通りへ向かって歩く


しばらく歩いていると、


見覚えのある建物が見えてきた。


鳳凰印の本店だった。


(……)


自然と歩くペースが上がる。


視線だけをそちらへ向けながら、


足は止めない。


(あの時は、えらい目にあったな)


足早に通り過ぎる。


そして資料店の前に差し掛かる。


なんと書いてあるのかは相変わらず読めないが


前来た時より看板が派手になっている気がする


入り口には人だかりができていて、混雑気味だった。


(……やめとこうかな)


そのまま通り過ぎて、宿へ戻る。


――


その頃、鳳凰印本店の奥。


薄暗い部屋に、二人の人影があった。


「――今月の売り上げは以上になります」


「そうか、で今月は現れたか?」


「今月も特にありませんでした」


「支店の方にも現れてないか?」


「特にそういった報告は上がってきておりません」


店員が答える。


「そうか」


「マヨソースのレシピを盗もうとする輩は後をたちませんが」


「そうか」


短い沈黙。


棚に並ぶ瓶の一つを、静かに手に取る。


ラベルをそっと見る。


「メッセージを受け取る者は、まだ現れないか」


誰も答えない。


部屋に静寂が戻った。


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