8-3 盛られた話と、秘密の話
朝、薬草採取に行ってきたタイチは、
いつものように昼前には戻り、納品する。
ギルドから出てきたところで、
声をかけられた。
「あ、タイチ先生!」
ケセモッサの道場生だった。
前に組手で当たった相手だ。
「あ、どうも」
タイチが頭を下げる。
道場生が駆け寄ってくる。
「先生!昨日、やらかしたんだって?」
「え、なんでそれを」
「さっきおチビが来て、師範に話してたよ」
「なんか騎士団を再起不能に――」
道場生がそこで一旦止まり、周囲を見回す。
「おっと、これは秘密の話なんだった」
口に手を当てる。
タイチは首をかしげた。
「秘密……?」
「俺、これから道場行くところだったから、一緒に行こうぜ」
「師範も会いたがってるし」
「あ、いいですよ」
二人並んで歩き出す。
道場までの道。
「何で騎士…あいつらとやることになったんだ?」
「いや、剣士さんが言い出したというか」
「お嬢が?」
「元々剣士さんがその人たちと手合わせするって話で」
「そこに連れていかれただけなんだけど」
そのうち道場が見えてくる。
中から声が響いていた。
「――それでにゃ!騎士団が一斉にかかってきたんだにゃ!」
「ほう」
「全部、吹っ飛ばされたんだにゃ!」
道場生が中を覗く。
「あ、まだ喋ってる」
タイチも入り口から中を覗く。
道場の真ん中で、ロリ猫が両手を広げて喋っていた。
師範が腕を組んで聞いている。
「タイチ殿が、騎士団全員を相手に……」
「そうにゃ!騎士団、痺れを切らして一斉にかかっていったんだにゃ」
「これも秘密の話にゃ」
「不安そうにタイチはこっちを見つめてきたにゃ」
「そこでウチは言ってやったんだにゃ」
ロリ猫が胸を張る。
「『タイチ、やっておやりにゃさい』ってにゃ!」
「タイチは出来る子にゃ!大丈夫にゃ!と」
「ウチの一言でビビってたタイチも目を覚ましたにゃ」
「で、それを全部吹っ飛ばしたんだにゃ!」
「向かってくる騎士たちを千切っては投げ――」
師範が深くうなずく。
「なるほどのう」
タイチと道場生は、入り口で顔を見合わせた。
「猫さん、」
タイチはガラリと引き戸を開ける
「にゃ、タイチ?にゃんでここに!?」
「いくつか、聞きたいことがあります」
「にゃ、なんのことかにゃ」
「誰が不安そうに見つめてたんですか?」
「そ、そんな気がしたにゃ」
「誰がビビってたんですか?」
「そ、そんな雰囲気だったにゃ」
「誰が目を覚ましたんですか?」
「そ、そんな風に見えたにゃ」
「誰が千切っては投げなんですか?」
「ち、千切ってはなかったかにゃ」
「猫さん、ちょっとそこへお座りなさい」
冷淡にタイチは言う
「す、座ってるにゃ」
ロリ猫を説教する。
「なんだ、おチビが大袈裟に言ってただけか」
「ちょっと盛りすぎてるなーって思ったんだよ」
道場生が呆れる
「さすがに騎士団全員は盛りすぎじゃったな」
師範が笑いながら言う
「全員は本当にゃ」
皆がタイチを見つめる
「そ、それは、本当の事です…」
「「「!!!」」」
そして、剣士に突然無茶振りされた話をする
「なるほど、お嬢がのう」
「いきなり無茶振りされちゃって」
「いやいやお嬢は相当お主のこと気に入ってるようじゃのう」
「そうなんですか?」
「お嬢が他人に先駆けを任せるなんて無いからのう」
そう言われるとまんざら悪い気はしない
「でも、無茶振りですよね」
「まあ、無茶振りじゃな」
そうして経緯を話す
「なんか、気のせいかお嬢が途中からめんどくさくなったように聞こえる」
「心配するな気のせいじゃねえ、俺もそう聞こえた」
聞いていた道場生が口々に言う
「お嬢はそういうとこあるからのう…」
申し訳なさそうに師範が言った
「――で猫さん」
「秘密の話ってなんなんですか?」
「昨日帰り際に騎士団の団長に言われたにゃ」
「なんて言われたんです?」
「今日の手合わせは非公式、是非とも秘密に、にゃ」
「なるほど、その秘密をここでペラペラ喋っていると」
「言う前に秘密の話って言ってるから大丈夫にゃ」
「猫さん、」
「なんにゃ」
「ちょっとそこにお座りなさい」
「す、座ってるにゃ」
こうして再びロリ猫への説教が始まった。




