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1-7B 札の意味と、最初の異世界語


宿に戻ると、

店先では女将が焼きヘンネを並べていた。


「あ、焼きヘンネだ」


「お、知ってるのかい? この地方の名物なんだよ」


(名物だったんだ)


「今忙しいから、夕食はちょっと待っておくれよ」


女将は、焼きヘンネを持ったまま親指で奥を指す。


「今日は風呂は沸かしてあるから、先に入っておいで」


(風呂!!)


「突き当たりを右ね」


「札がかかってるとこだよ」


忙しそうだ。

それ以上の説明はない。


「ありがとうございます」


言われた通り、奥へ向かう。


突き当たり。

右。


確かに、湯気の匂いがする。


入口の前には、

木札が一枚、ぶら下がっていた。


……文字が書いてある。


(……読めない)


一瞬、戸惑ったが、


でも、札がかかってるとこだよと言われたので、


戸を開けた。


簡単な脱衣所だった。


先客だろうか、

冒険者風の装備が棚にまとめられていた。


(よし)


服を脱ぐ。


もう一枚奥の扉に手をかける。


開けた。


洗い場に人影がある。


身体を洗っている。


さっきの装備の持ち主だろうか。


(挨拶する方がいいのかな)


そう思いながら、

何気なく視線を向ける。


短く切りそろえた髪。


しなやかな身体のライン。


(……あれ)


一瞬、認識が遅れる。


(――違う)


明らかに、女の人。


目が合う。


反射的に、視線を逸らそうとする。


「きゃーーーーー!!」


鋭い悲鳴が響いた。


思考が止まる。


「ちがっ――!!」


言葉より先に身体が動いた。


慌てて廊下に飛び出す。


直後、どたどたと足音。


「どうしたの!」


女将の声。


事情を察したのか、

こちらを見てため息をついた。


「ああ……」


「ごめんね。悪気はなかったんだろうけど」


女将は、入口の札を指差した。


「この札がかかってる時はね」


「女」


札をひっくり返す。


反対側。


「男」


(……)


札を見る。


女将の言葉と、

そこに書かれている形。


(……あ、これ)


(男、女、か……)


繋がる。


「文字、読めないんだろ?」


こくりと頷く。


背中に、どっと汗が出る。


さっきの女性冒険者が、

風呂を終えてこちらを睨んでいた。


視線が痛い。


「……すみませんでした」


深く頭を下げる。


女将は腕を組んで言った。


「覚えときな」


「これが男」


「これが女」


「これ、命より大事な時もあるからね」


――こうして。


僕がこの世界で最初に覚えた異世界語は、



だった。

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