1-8 お手伝いと、静かな疑惑
「ーーーーーーーー!!」
変な鳥の声で目が覚めた。
(……朝か)
昨日は、あの後、ご飯も食べずにそのまま部屋に戻って寝てしまった。
天井を見上げたまま、しばらく動かない。
(思い出すと恥ずかしくて死にそう)
しばらく布団の中で身悶えして、
体を起こす。
(……切り替えよう)
そのままギルドに向かって、
薬草採取の依頼を受けた。
昼頃には、
いつもの場所で薬草採取を終えて、僕は街へ戻ってきた。
(……今日も早く終わったな)
特に急いだつもりはない。
いつも通り、見つけて、摘んで、籠に入れただけだ。
それでも、気がつくと終わっている。
(まぁ……向いてるんだろうな)
それくらいの認識だった。
ギルドで換金を済ませて、宿へ戻る。
扉を開けると、女将が今日もヘンネを大量に焼きながら、
こちらを見て、少し目を細めた。
「おや、今日も早いねぇ」
「まぁ……はい」
「そんなペースで大丈夫なのかい?」
「ギリギリです」
そう答えると、女将は小さく笑った。
「はは、正直だねぇ」
少し考えるように顎に手を当ててから、ぽんと手を打つ。
「じゃあ、ちょいと手伝ってもらおうかね。
小銭くらいにはなるだろうし」
「やります」
即答だった。
正直、助かる。
女将は満足そうに頷くと、店の奥を指さした。
「じゃあ裏で皿洗いでも頼むよ」
「はい」
僕はそのまま裏へ回った。
(……こういうの、嫌いじゃない)
単純作業は、落ち着く。
水の音と、皿の触れる音。
それだけが、静かに続いていた。
――
ギルドの二階。
受付嬢が、ギルドマスターのもとを訪れる。
「……今週分の報告書です」
受付嬢が書類の束を差し出す。
ギルドマスターは椅子に深く腰掛けたまま、それを受け取り、ぱらぱらと目を通した。
紙のめくれる音だけが、しばらく続く。
「……特に問題はねぇな」
受付嬢は黙ったまま、ギルドマスターを見つめる。
ギルドマスターが顔を上げる。
「……なんだ」
「いえ……一つ、気になる点があります」
「言ってみろ」
受付嬢は一度だけ視線を落としてから、口を開いた。
「この新しく入ったタイチって冒険者なんですが……」
ギルドマスターは、タイチの報告書を開いた。
「優秀じゃねーか。
薬草はポーション作りに欠かせない素材だ。
いくらあっても困らねぇ」
「……早すぎるんです」
「ん?」
ギルドマスターが、顔を上げる。
「ペースが、早すぎるんです」
「どういうことだ?」
「本来、薬草採取は二日から三日かけて行うクエストです。
それを彼は、一日で終わらせて帰ってきています」
「そういうこともあるんじゃねーのか?
腕利きなら、一日で出来ない量じゃねぇ」
受付嬢は、少しだけ間を置いてから言った。
「この何日かは、ずっと半日で帰ってきているんです」
「……半日は、早すぎるな」
ギルドマスターは、低くそう呟いた。
「運がいいだけ、って線は」
「あります」
「だが?」
「……違和感があります」
言い切る。
だが、理由は続けない。
しばらくの沈黙。
「……不正の可能性は」
「現時点では、確認できていません」
「断定はできねぇ、か」
「水晶の判定も、クリアしています」
「嘘も付いてないって事か」
ギルドマスターは書類を閉じ、机に置いた。
数秒、何も言わない。
それから、短く言う。
「……それでも、しばらく様子を見るしかねーな」
「はい」
受付嬢は頷いた。
それ以上、言葉はなかった。




