1-9 森と、剣と
森。
朝の空気は少しひんやりとしていて、
木々の間を抜ける風が、静かに揺れていた。
今日も今日とて、薬草採取に精を出す。
最近は少し奥まで入るようになって、
成果も上がっている。
そう思いながら、その場所に向かっていた時だった。
規則正しい風切り音が聞こえた。
(……なんだ?)
足を止める。
木々の隙間から様子を見る。
そこにいたのは、一人の女だった。
長い髪は無造作にまとめられているが、
その佇まいにはどこか整いすぎた気配があった。
無駄のない立ち姿。
背筋は自然に伸び、
剣を振る所作には一切の乱れがない。
もうちょっと近くで見てみたいと思って、
一歩踏み出していた。
その瞬間、女の動きが止まった。
こちらを見ている。
(……見つかった)
少しだけ気まずくなって、口を開く。
「あ、すみません。
邪魔しちゃいました。
僕、向こう行くんで」
女は、短く答えた。
「いや」
一拍。
「……君を、待っていた」
(……は?)
意味が分からない。
その言葉の意味を考えるよりも早く――
剣が、こちらに向けられる。
振り上げられたその剣が、
目にも止まらぬ速さで――
――世界が、白黒に反転した。
(……なにこれ、スキルが勝手に?)
考えてる場合じゃない。
剣先は、もう目の前まで迫っていた。
(当たる)
(当たる当たる当たる)
身体が、動かない。
動け。
動け動け動け。
間に合わない。
(やば――)
その時。
『え?』
どこからか、声が聞こえた。
次の瞬間、
視界が、途切れた。
――
気がつくと、
柔らかい感触が、頭の下にあった。
(……?)
ゆっくりと目を開ける。
視界に入ったのは、
さっきの女の顔だった。
(……近い)
状況を理解するのに、少し時間がかかる。
(……膝、枕?)
女は、こちらを見下ろしたまま言った。
「……起きた」
短い確認。
僕は、言葉が出なかった。




