7-10 式典と、被弾と
そして式典当日。
会場となる王城の園庭には天幕が張られ、
ステージとなる一段高いところにあるテラスに机と椅子が並べられている。
広場と前庭をパルテールとして開放してあり、
すでに群衆が集まっていた。
――
王女の控え室。
王城の控え室からパルテールを見下ろすと、
圧倒的に女性が多い。
(王女人気はすごいんだな)
付人たちが慌ただしく動き回り、
その一人が剣士と剣姫に移動を促す。
「着替えてくる」
剣士と剣姫が式典用の衣装へ着替えに、
控え室の隣のドレッシングルームに入っていった。
タイチは普段の服の上にウェストコートを羽織らされ、
一応礼服スタイルになっている。
控え室にタイチと王女だけが残る。
「そういえば」
タイチが何気なく口を開く。
「権利関係とかよく分かんなかったですけど」
「どの辺りかしら?」
「どの辺りというか、
絵のモデルでお金をもらえるのはわかります」
「絵のモデルじゃ無いのに
お金をもらえる仕組みです」
王女は少し考え、
一から説明を始めた。
「例えば誰かが新しい商品を考えたとしますわ」
「その商品が売れた時、
考えた人が何も貰えないと」
「誰も新しい物を考えなくなりますわ」
タイチは頷く。
「だから最初に考えた人には権利がありますわ」
「ただし考えただけでは売れませんわ」
「作る人」
「運ぶ人」
「売る人」
「色々な人が必要ですわ」
「なので皆で利益を分けますわ」
「それが今回のお話ですわ」
「そしてアドバイザーは」
「何かを作る人ではなく」
「助言をする人です」
「こうした方が良い」
「こう売った方が良い」
「そういう知識を提供する人ですわね」
「だからその対価として報酬を支払いますわ」
「今回の例だと、
王家が主体となって絵札などの商品を売りますわ」
「なので各々への報酬は
王家から支払われますわ」
「なるほど」
「半分くらい分かりました」
「十分ですわ」
王女は小さく笑った。
そこへバルキリーの面々が戻ってくる。
王女の付人も加わり、
式典会場での配置確認が始まった。
エルフと娘。
聖女と魔法使い。
ロリ猫は会場全体を見渡せる位置。
細かな配置が決まった頃。
控え室の扉が開いた。
まず姿を見せたのは剣姫だった。
騎士を思わせる礼装。
冒険者でありながら
繊細でどことなく気品のある出立ち。
高貴な出自を思わせる佇まいだった。
そしてその後ろから剣士が現れる。
黒を基調としたバチェラースーツ。
腰にはショートソード。
正装と武装が違和感なく同居していた。
二人が並ぶ。
「おおー」
「綺麗じゃの」
「似合ってますぅ」
皆が感想を口にする。
ただ一人を除いて。
娘が固まる。
「え、待って無理」
そう言うと
「なんかおかしいか?」
剣士が近づいてくる。
「ムリムリムリ」
「尊すぎて無理」
娘は思わず後ずさる。
「なんじゃそりゃ」
娘はさらに距離を取った。
――
いよいよ式典が始まる。
会場の扉が開く。
何人かの貴族が入場し、席につく。
次に姿を見せたのは、
剣士にエスコートされた王女だった。
その後ろには剣姫が続く。
ただそこにいるだけで、
群衆問わず視線を奪われ、
息を呑む。
性別の境界線さえ曖昧にする
その圧倒的な存在感に、
誰もが言葉を失っていた。
一方で剣姫は、
王女の半歩後ろに控えながらも、
不思議と視線を引く。
王女を立てながらも、
決して埋もれない存在感があった。
対になる二人。
まず王女の手を取り、
エスコートする剣士を見た観衆の女たちが、
ため息や、
嗚咽を漏らす。
「尊すぎる」
「無理」
「しんどい」
「辛い」
そして剣士は椅子を引き、
王女を座らせる。
後ろの剣姫と目配せし、
静かに後ろへ下がった。
この仕草だけで、
何人かの女性がその場に崩れ落ちた。
「また出たにゃ」
ロリ猫が即座に指示を飛ばす。
エルフと娘が走る。
「あんなの見せられちゃったらそうなるわよねぇ!」
娘は半ば叫びながら
救護スペースへ運んでいく。
その後も王都女子が次々被弾。
(不審者とかの警護より介護の方が多いな)
衛兵が国王の入場を告げる。
護衛の騎士を引き連れて、
国王が入ってくる。
壇上の貴族全員が立ち上がり、
男の貴族たちは
右足を引き上体を軽く倒し頭を下げる。
女の貴族たちは
膝を曲げて腰を下ろし頭を下げる。
(これ正式な挨拶だったんだ)
剣士は男の貴族と同様に、
剣姫は女性の貴族と同様に頭を下げている。
群衆も同様にその場で頭を下げる。
「良きにはからえ」
国王のその一言で、皆着席する。
群衆は頭をあげる。
そして、布告の式典が始まる。
布告の内容は、
枢密院の再編成、
再編成メンバーとして
列席している貴族たちが変わるがわる立ち、
挨拶を述べる。
そして王女の新たな役職、
王宮秘書官長就任の布告。
滞りなく式典は進む。
そして王家の公式事業の説明が行われる。
そのアンバサダーとしてバルキリーの名前も上がる。
変わらずバルキリーたちは
運ばれてきた女子の介護にあたる。
式典の様子を見ながらエルフが、
「王都の絵札文化の発展目的で」
「剣聖と剣姫をチョイスしたのは」
「効果絶大じゃな」
「ぼーっとしてないでこっち手伝って!」
「わ、わかっとるわい」
聖女たちの方は
具合が悪いと自称する男たちが群がり、
もれなく
屈強な王城の魔術師集団のテントに回され、
手厚い介護を受けさせられていた。
(かわいそうに…)
やがて式も滞りなく全ての行程が終わる。




