7-9 権利と、庭園と
みんなが並べられた絵札を見ながら、
「剣姫もあるにゃ!」
「む…」
剣姫は興味なさそうにする
「こっちは娘がいるにゃ」
「え!なんで?」
「学院美人コンテスト優勝って書いてあるにゃ」
「何それ全く知らないんだけど」
王女が咳払いをする。
「では」
空気が少し変わる。
「ここからは権利関係のお話ですわ」
ロリ猫の耳が動いた。
側近たちが別の資料を出す。
「まず肖像利用について」
「肖像?」
「皆様のお姿ですわ」
「勝手には使えませんもの」
側近が続ける。
「今回の絵札事業は王家監修です」
「ですが権利そのものは別です」
「そのため契約を作成します」
途中からよく分からなくなった。
ロリ猫は真面目な顔で聞いている。
王女も当然理解している。
側近たちは説明する側だ。
「肖像権の対価ですが」
知らない単語が出る。
「元絵に一回使用するごとにロイヤリティを支払う契約ですわ」
「もちろん今回の案も対象になりますわ」
王女が言った。
「今回?」
「保存用、観賞用、布教用ですわ」
「それも対象になるんですか?」
「アイデア提供ですもの」
ますます分からない。
「他にもあれば考えておきます」
そう言うと、
王女とロリ猫が同時にこちらを見た。
(なんで?)
――
数日後。
王城の庭園では式典の準備が進められていた。
警護用装備の確認。
移動経路の確認。
来賓の確認。
警備配置の確認。
思っていたよりずっと本格的だった。
「適当って言ってませんでしたっけ」
「適当ですわ」
王女は即答した。
「どこがですか」
「王家基準ですわ」
全然参考にならなかった。
剣士と剣姫は王女の近くに配置されるらしい。
ロリ猫たちは周辺警護。
こちらはその補助だ。
すると、
「タイチお前はこっちだ」
剣士が言う
「え?僕が?なんで?」
「オレと剣姫は万一の時に相手に向かう、」
「お前はその時の王女の警護だ」
「え」
「心配するな、向かってくるやつ投げときゃいい」
(そんな簡単に)
そして地図をわたされる。
庭園の地図を見ながら剣士と歩く。
かなり広い。
「この庭園、広いですね」
何気なく言うと、
「あー、そうかな」
あまり共感してない顔をする
すると、王女が少しだけ懐かしそうな顔をした。
「この程度の広さは剣士様の国に比べたら、」
「大したことありませんわ」
「知ってるのか?」
「以前、ケセモッサでの王族会議へ同行したことがありますの」
「幼い頃の話ですわ」
「お父さまに連れられて行きましたの」
「その時、お庭で迷いましたの」
「迷った?」
王女はゆっくり頷いた。
そして、視線が剣士へ向く。
どうやら相当な思い出らしい。
王女は、静かに一つ一つ思い出すように語りだす
庭。
というより森だった。
木々は高く。
道は入り組み。
人族の城とは全く違う。
幼い子どもが迷うには十分だった。
「気が付いたら来た道すら分からなくなっておりましたわ」
「どっちへ行けばいいのかも分からず途方に暮れていたところ」
「獣人たちがやってきて、私を囲んだのです」
大きな身体。
牙。
爪。
低い声。
幼い王女には恐ろしく見えた。
「わたくし、怖くて泣いてしまいましたの」
その時だった。
「怖がらせるんじゃねーよ」
「お前らの顔が怖ぇから泣いてんだろ」
声が響く。
獣人たちが一斉に振り返る。
そこにいたのは。
今より少し若い剣士だった。
今と同じように無愛想だった。
今と同じように遠慮もなかった。
「ほら」
そう言って王女の前へしゃがむ。
「帰るぞ」
それだけだった。
慰めるわけでもない。
優しく話しかけるわけでもない。
だが不思議と安心した。
「お嬢ちゃん、悪かったな」
「こいつら、顔は怖いけど悪い奴らじゃねーんだ」
今なら分かる。
悪意はなかった。
迷子を見つけて、
なんとか力になろうとしてただけだと。
「泣き止んだか」
剣士がそう言う。
王女は必死に涙を拭いた。
「なら歩け」
そう言って歩き出す。
振り返りもしない。
王女は慌てて追いかけた。
今思えばかなり雑だった。
だが当時の王女には、
その背中がひどく頼もしく見えた。
迷った森。
怖かった獣人たち。
知らない土地。
そんな中で現れた存在。
王女にとっては十分すぎた。
「お父さまのいる場所まで送ってもらいましたの」
王女が微笑む。
「それだけですわ」
王女は剣士を見る。
「覚えていらっしゃいます?」
突然話を振られた剣士が顔を上げる。
少し考える。
「あー……」
さらに考える。
「森の」
王女が少しだけ目を見開く。
「覚えていらしたのですね」
「そりゃ覚えてる」
剣士は肩をすくめる。
「泣いてる子ども拾っただけだ」
「拾った」
王女の側近が微妙な顔をする。
「違うのか」
「違わないですわ」
王女は苦笑した。
「わたくしにとっては大事な思い出ですの」
「そうか」
剣士はそれだけだった。
(昔から雑だったんだな…)




