6-12 月夜と、通話と
夜。
月が二つ出ていた。
「ちょっと出てきます」
「ちゃんと、迷わず帰ってこいよ!」
「遠くには行かないようにします」
――
いそいそと出ていくタイチを見て娘が
「何?あいつこないだも夜に出てったけど」
月を見ながら剣士が言う
「さあな」
「これは、女にゃ」
ロリ猫がニヤニヤしながら言った
「「それは無い!」」
「それは分からんにゃ〜」
――
迷わないよう、あまり離れず
人気のない場所でスマホを取り出す。
タダシからの通知が一件。
[また気づいたら連絡してくれ]
確認して通話ボタンを押した。
――
「お、繋がった」
「聞こえるか?」
「一応」
少しだけノイズが混じる。
「そっちはどうよ?」
「今日は二つ」
「うん、
予想通りだ」
「で?異世界生活の方は?」
「んー順調かな?」
「王女様と会ったりとかあったけど」
「王女!?」
「なんで?」
「なんか、
ちょっとしたことで」
「ちょっとしたことで王女と会えるもんなのか?」
「それでさ」
「王女様が言うには、
絵札で王都を盛り上げたいらしくて」
「王女が!?」
「うん」
「なんか公式でやるらしい」
「公式?」
「王家主体で」
「王家が公式で、その絵札を?」
「そんで、
トレカみたいだなって思って」
「限定版とか、
特装版とか提案したんだけど」
「おお、
定番の搾取だな」
「他になんかある?」
「いや待て待て
話の展開が早い」
「…でも、そうだな、
限定とかまで話しが進んでるなら、
同じ絵札を三枚持つってのを流行らせたら?」
「バッグにバッジをたくさん付けるってのは言った」
「痛バか、でも、それとはまた意味が違うんだよ」
「どう言うこと?」
「カードゲームって実際使うだろ」
「使うな」
「そしたら折れたり汚れたりするだろ?」
「まあ、あるかな」
「対処としてはスリーブに入れたりとか色々あるんだけど」
「そうならないために使う用のカードっての分けるんだよ」
「使う用?みんな使うもんじゃないの?」
「そこがポイント、
コレクターってのは保存用として
同じカードをもう一枚コレクションするんだよ」
「なんで?」
「使わないカードは使わないから汚れないし折れない」
「あ、そう言うことか」
「でも三枚目は?」
「これはトレカと言うか推しのカードとかの話なんだけど」
「自分の好きなキャラって、色んな人に知ってもらいたいんだよ」
「そうなの?」
「そういう思考になるらしい」
「で?」
「それを他の人に布教するためにもう一枚用意する」
「なるほど、よく分からん」
「だろうな」
タダシが少し苦笑する。
「でもまあ、それ提案してみるよ」
「あとさ、試作品も見せてもらった」
「どんくらいあるんだ?」
「知らんけど、種類もいっぱいあった」
「でさ、そん中に
俺の絵札もあった」
「お前の?」
「多分、薬草採り名人としてなんだと思うけど」
少し沈黙した。
「需要あるのか?」
「俺もあると思えない」
「だよな」
――
「あとさ」
「まだあるのか」
「なんか、こっちの獣人たちの道場みたいなとこ連れてかれて」
「先生って呼ばれるようになった」
「何やってんだお前」
「分からん」
「そこの門下生と組み手したら」
「じいちゃんより動きが雑でさ」
「なんか意外と投げれた」
「お前のじいちゃんめちゃくちゃ強かったからな」
「タダシもいっとき通ってたもんな」
「ああ、お前のじいちゃん死んでから行ってない…」
少し間が空く。
「ああ、
そうだ」
「ん?」
「この前の数え方の話なんだけどな」
「おう」
「あれ、
多分分かった」
「そうなのか?」
「まあ、今のところタイチは文字読めないからあんま関係ないと思う」
「そうか」
「今までS字ロジスティクスだと思ってたんだが」
「えすじ……?」
「違った」
「波状構造だった」
「なんだそれ」
「前に言ったことをな」
「間違えたままにしたくなかった」
「ちっとも分からん」
「だろうな」
タダシは少しだけ笑った。
「でも、
少し前に進んだ気がする」
「なら良かった」
――
少しだけノイズが混じる。
「そろそろ、
切れるぞ」
「そうか」
「じゃあ、
またな」
「おう」
「次に話す時まで死ぬなよ」
「おう」
「タダシもな」
「……俺は分からん」
「何だそれ」
「俺はいいけどお前はダメだ」
「じゃあ、
俺も俺はいいけどお前はダメだ」
「……冗談だよ」
少しだけ笑う声が聞こえた。
一際大きいノイズが入る。
通話が切れた。
スマホの画面が暗くなる。
月は二つ。
離れ離れに、
夜空へ浮かんでいた。




