6-11 迷子と、書状と
「王女様、そろそろお時間が……」
付人がそう言うと、
「それでは、
本日はここまでにいたしましょう」
王女が立ち上がる。
「まだ話したいことは山ほどあるのですが……」
ちらりと、
机の試作品を見る。
「続きはまた後日ですわ!」
「え?」
「すぐに次の機会を設けますわ」
「それと……」
「タイチさんには、
今後もグッズ関連の監修をお願いしたいのです」
「監修?」
「はい、グッズのアイディアや既存のものの改良点などを色々監修して頂きたいんですの」
「そうですわね、王城への出入り許可証も
発行しておきましょう」
「何か思いついたら、
いつでもご提案くださいませ!」
(なんか、
大事になってきてない?)
「ではお姉様方、
本日はありがとうございましたですわ!」
王女は満足そうに退室していった。
――
「しかし……」
「そんなに限定って欲しいもんかな」
剣士が腕を組みながら言う。
すると娘が言う。
「例えば、
すごい有名な刀匠の剣があるとするじゃない?」
「しかも限定十振り」
エルフが察したように被せる。
「さらにその中に、
装飾違いの特別版が混ざっておるんじゃ」
聖女がハッとした顔をする。
「さらに春限定とかですぅ!」
「随所に桜の花の装飾が施されて、
春にしか売ってないんですぅ!」
魔法使いも静かに続ける。
「しかも……
剣、槍、短剣、曲刀、
ショートソード……」
「同じ意匠の五点セット……」
ロリ猫が腕を組む。
「しかも、早い者勝ちで、
その時に買わないと、
もう二度と手に入らないかも知れんにゃ」
剣士が低く唸る。
「ぐぬぬぬ……」
「確かに……」
「恐るべし推し文化……」
――
翌日。
薬草採取を終えて、
ギルドから宿に戻る時だった。
(……あれ?)
人混みの向こう。
見覚えのある後ろ姿が見えた。
長い髪。
無駄のない立ち姿。
(剣姫さん?)
思わず追いかける。
人混みの中へ消えていく後ろ姿。
見失わないように、
必死に追う。
しかし。
雑踏の中で見失った。
そして、気づけば、
知らない場所に居た。
「あれ?」
周囲を見回す。
(……ここどこだ?)
しばらく歩く。
でも、
分からない。
見覚えのある場所がない。
「……困ったな」
王都を行き交う人の流れは、
どこか忙しなく、話しかけるタイミングも掴めない。
途方に暮れていた、その時。
「おや?
タイチ先生じゃねえか」
声を掛けられる。
見ると、
この前、組み手した道場の門下生だった。
「こないだの!ってか先生って!?」
「そりゃ、
剣聖殿とのあんな試合を見せられたら
俺らの間じゃもう先生扱いだぜ」
(剣聖って剣士さんのことだよな)
「それよりどうした?」
「そうそう、ちょうど良かった。
宿の場所とか分かる?」
「宿の名前は?」
「えっと……」
「マジかよ覚えてねえのかよ!?」
「……」
「なんか目印とかあるだろ?」
「大きい通り沿いで……」
「そんなのいっぱいあるぞ」
「屋台がいっぱいあって……」
「ここは王都だぞ?」
「馬車がいっぱい走ってて……」
「そりゃ走ってるだろ」
「呼び込みの人が賑やかで……」
「全部そうだな」
「……そうだ!
揚げヘンネの店があった!」
「あのなぁ、
王都に一体どんだけ
揚げヘンネの店があると思ってんだ?」
「……」
完全に迷子だった。
「とりあえず、
師範なら何か分かるかもな」
「ちょうど道場に戻るところだ
ついてこい!」
――
ケセモッサ獣術の道場に連れて来られる。
「おお、タイチ殿か」
師範が嬉しそうに言う。
「迷子らしいです」
「ほう、迷子とな」
「タイチ先生、
宿の名前を覚えてないみたいで」
「それはもう、
迷子以前の問題じゃな」
「いや、迷子とかではなくて
ただ帰り道が分からなくなっちゃって……」
「それを世間では迷子というんじゃが」
そう言われる。
その通りだった。
「とりあえず、
夜の買い出しの時に、
宿が集まってるとこまで案内を付けてやるから」
「ちっと汗を流していかんか?」
――
夕方。
師範から門下生から次々と投げ飛ばして
宿の密集してる地域に案内してもらう
途中で名人パンの男の店を見つけ
宿へ戻る事が出来た
剣士が帰りが遅い事を気にしていたので、
迷ってしまって、帰ってくるのに苦労した話をすると、
剣士が呆れたように
「このアホが」
「だって、宿の名前を覚えてなくて、」
「それもアホだが」
「お前は、ここからギルドまで行って帰って来れるんだろ?」
「なんで、ギルドの場所を聞かなかったんだ?」
と剣士に諭される
全くその通りだった
「大体お前はどこか何か一つ抜けてる」
「これが戦場だったら命が――」
「ちょっとのミスで命を――」
長い説教が始まった。
いつ終わるのか分からない説教の最中、
ドアがノックされる
(助かった)
「はいはいー」
説教から逃げるように扉を開ける。
「王城から、
剣士さん宛の書状が届いております」
そのまま剣士に伝える。
剣士は受け取った書状を開き、
ロリ猫が横から読み上げる。
「数日後、
王女主催の催事が行われます――」
「その際の護衛として、
剣士さまへ依頼を――」
「打ち合わせは後日――」
剣士が顔を上げる。
「護衛?」
「王家の刻印が入ってる正式依頼にゃ」
「めんどくせぇな」
剣士は露骨に嫌そうな顔をした。
さっきの説教の仕返しとばかりに
「剣士さんは人気があって大変ですね」
と言うと
「お前も一緒に連れてくるように書いてあるぞ」
「え?」




