6-10 公式と、グッズと
そう言って、
王女は資料店で見た絵札を取り出した。
「今、巷ではこう言うものが流行っております」
「あー、
知ってる」
「で、
これが?」
「わたくし、
これを新しい王都の文化として
発展させようと思っております」
「王家主体で
冒険者たちの公式グッズを販売したいと
考えておりますの」
「そのために、
是非ともお姉様方の
協力が必要なのです」
「オレ達に
そんなコネはねぇぞ?」
「先も申し上げました通り、
王都でのバルキリー人気は
非常に高いのです」
「バルキリーのお姉様方が
公式アンバサダーとして――」
「この取り組みを盛り上げていただきたいんですの」
そう言って、
付人たちが大量の資料を運び込む。
そこには既に、
試作品らしきグッズまで並んでいた。
「とりあえず、
試しで色々作らせてみましたの」
バルキリーの面々の絵札や剣士のタペストリー。
剣士の絵画集。
陶器に剣士の絵が焼き付けされたもの。
(なんか剣士さんの比率高くない?)
さらには小さなぬいぐるみのようなものまである。
タイチは陶器を手に取り、まじまじと見る。
(これどう言う技術なんだろう……)
「これは?」
タイチが少し大きめの絵札を手に取る。
剣士が大剣を構え、正面を見据えた構図。
「王都で行われた人気投票一位記念ですわ!」
「人気投票なんてあったの?」
剣士をチラリと見ると、
「知らん」
剣士が清々しく即答する。
「こういうのってランダムにレアなの入れたら人気出そう」
「何ですって?詳しく」
タイチの何気ない一言に王女が反応する。
「あ、いえ大した話では無いのですが、」
「絵札を全て袋に入れて、その中に何枚かだけ違うバージョン入れるんです」
「例えばこれなんか剣士さんの背景は、王城になってますけど」
「違うバージョンは、背景に炎のような演出を入れるとか」
「!!」
王女がちらりと付人を見る。
付人がメモを取る。
「そんなの必要にゃ?」
王女がロリ猫に説明する。
「例えば、クッキーありますでしょ」
「その中に一つだけ星形が入っていたら?」
「嬉しいにゃ」
「そう言うことです」
詳しく説明せずとも、
王女が補足してくれる。
タイチは続ける。
「あとは、王都限定版とか」
「!!!!」
また王女が横をチラリと見ると、
付人がメモを取る。
「そんなの必要なく無い?」
王女が娘に説明する。
「例えば東の街に王都の系列のケーキ屋さんがありますでしょ?」
「でも王都には王都にしか無い限定メニューがありますわ」
「あー」
「そう言うことです」
タイチはどんどん出していく。
「季節限定版なんてのも」
「!!!!!!」
王女が横を向くと、
付人はもうメモを取り終えていた。
「そんなの必要なんですかぁ?」
王女が聖女に説明する。
「例えば聖女さまは謝肉祭の時に専用の衣装を纏いますでしょ?」
「いつもの修道服よりテンション上がりません?」
「確かに、あの衣装は可愛いのに一年に一度だけなんですぅ」
「そう言うことです」
「そんなに……多くする……必要は?」
王女が魔法使いに説明する。
「例えば高明な術師の方が書かれた魔導書ありますでしょ?」
「欲しいのは、炎に関する一冊だけなんですが、それが全十巻の一揃いの一冊だとしたら?」
「全部……欲しい……」
「そう言うことですわ」
(ってか王女理解良すぎじゃない?)
「おい、これ見てみろよ」
剣士は、
机のぬいぐるみを持ち上げる。
「ロリ猫だろ!これ!」
それはロリ猫の衣装を付けた猫型のぬいぐるみ。
「ウチはそんなんじゃないにゃ!虎だにゃ!」
「ウチはもっと凛々しくて――」
「良かったな!実物より可愛く作ってもらえて」
「ウチは可愛いと言うよりカッコいい――」
「こういうのは可愛さ重視で誇張、強調するのがより可愛くなるのです」
「ウチは可愛い系とかじゃ――」
「これは……可愛い……我のウサちゃんと……いい勝負……」
「……」
「……そう言われるとこれは実物のウチと寸分違わない気がしてきたにゃ」
満更でもなさそうに言う。
(単純だなぁ)
王女は机へ身を乗り出す。
「いずれは、
公式店舗」
「からの支店展開」
「王都催事」
「――なども考えておりますの!」
どんどん話が大きくなっていく。
「待て待て待て」
剣士が止めに入る。
「オレ達、
そんな大層なもんじゃねぇぞ?」
「何を仰いますの!」
王女が立ち上がる。
「お姉様方は、
既に王都文化ですわ!」
熱量がすごかった。
(なんか、
思ったより本気だな……)
机の試作品を一通り見回し、
「バッジをバッグに付けたりとかはしないんですか?」
タイチがまた何気なく言った。
王女が固まる。
「……バッジ?
なんですのそれ?」
「え?」
「えっとその王女さまが胸につけてるその飾り、えっと、」
「ああ、コサージュですわね」
「その飾りを、こう丸い鉄の板に絵を焼き付けて」
身振り手振りでバッジの説明をする。
「!!」
もう横を見ずとも付人はメモを取る。
「バッグに付けて、
持ち歩いたりとか」
「痛バとか言うんですけど」
数秒沈黙した後。
王女が、
ゆっくり立ち上がる。
「――天才ですわ!!」
「えぇ!?」
室内へ衝撃が走った。
「革新的な提案の数々!」
「して、イタバとは?」
「えっと痛いバッグとかそんな意味の略称なんですが」
もちろんタイチのアイディアではなく、
隣の女子大生のあゆちゃんがバッグにバッジを沢山付けていたのを思い出したからで、
確か理由は、
「好きなら、
いっぱい付けた方が分かりやすい」
だったような。
すると王女が勝手に補完し始める。
「痛い……」
「素晴らしいですわ。
推しと共に痛みを分かち合うということですのね」
「いや、
たぶんそういう意味では……」
「つまり、
離れていても心は一つ」
「そういう意味ですのね!」
「わたくし見えましたわ……!」
王女は、
遠くを見るような目をしていた。
「王都中の冒険者たちが、
推しと共に痛みを分かち合い歩く未来が……!」
(……なんか違うけど、
まあいいか)
「おい見ろよ!
タイチもあるぜ!」
「え!?」
「薬草採り名人タイチって書いてある!」
(ああ……売れ残りそう)




