6-8 組み手と、余興と、参りました
そして、
着替え終わったタイチと相手が
中央に立つ。
「ルールは簡単」
「殴るのは禁止」
「相手を投げるか、
相手に参ったを言わせるかじゃ」
「では、始め」
「タノモー」
「た、たのもう」
礼をする。
タイチは特に構えることもなく、
立っている。
「なんじゃ
あの小僧の立ち方は」
「あいつ、
やる気あるのか?」
「ケセモッサ獣術には
無いスタイルじゃな」
「……隙だらけにしか見えん」
相手がこちらの様子を伺いながら、
ジリジリと詰め寄る。
「おら!
かかってこい!」
タイチは動かない。
「おら!
突っ立ってないで
かかってこいよ!」
タイチは動かない。
業を煮やした相手が、
たまらずつかみかかりに入る。
懐に手が伸びてくる。
かわす。
つかみどころを失った手に、
そっと力を加えてやる。
相手はそのまま
前転しながら転がった。
「タイチやったにゃ!」
「いや、
浅い」
審判が、
「モーイッチョ」
再び中央で向かい合う。
「始め!」
タイチは変わらず、
特に構えることもなく立っている。
今度は相手も慎重だった。
低く姿勢を落とし、
不用意に飛び込んでこない。
「……」
「……」
じりじりと間合いを詰めながら、
手を出すタイミングを測る。
そして、
一気に詰めるが、
先ほどのように、
なんなくその手をかわす。
今度は体を反転させ、
相手の懐へ背中から入り込む。
そして――
相手の体は、
ぽーんと宙に跳ね上がった。
「!!!!」
「勝負あり!」
老獣人は口を開く。
「なんなんじゃ
あの小僧は」
「全く動かず、
いや――」
「最小限の動きだけで
相手を投げ飛ばしおった」
「それだけじゃねぇ」
「あいつ、
手使ってなかったぞ」
転がる相手へ、
タイチが駆け寄る。
「勝者口上を!」
見よう見まねで手を差し出し、
「お、お前が僕より早かったら
勝てなかったと思います。
多分!」
「タイチ、
グダグダにゃ」
ロリ猫が笑う。
そして、
「面白え面白え!」
「タイチぃ!
オレとやろうぜ!」
剣士がずいっと前へ出てくる。
「え、
そんな剣士さんに
勝てるわけ――」
慌てて断る。
「まぁ、
そう言うなよ」
「余興だよ余興!」
周りでは、
「お嬢がやるのか?」
「あの坊主が勝ったのは
まぐれだろ?」
そう言う門下生たちに、
老獣人は言う。
「あの小僧の
まぐれだと思いたいんじゃが」
そうして、
二人が中央で向かい合う。
「始め」
「「タノモー」」
礼をするや否や、
剣士の速攻。
剣士の伸ばした手を見極めるが、
(速い)
かわすのがやっとだ。
反転して、
すぐにつかみかかってくる。
すんでのところでかわす。
また反転して、
つかみかかる。
(速攻が全く途切れない……
これが獣人……)
何度目かの反転。
つかみかかりに来る動きに
若干のブレが見えた。
(今!)
タイチは体を捻り、
懐へ入り込む。
「かかったな!
タイチ!――ってあれ?」
剣士の体が、
ふわりと浮く。
「え、
ちょっ、
マジか」
剣士は自分の勢いで
浮かび上がる体に、
下半身を捻ってブレーキをかける。
そしてそのまま、
タイチの上へ倒れ込んだ。
剣士に覆い被され、
身動きが取れない。
「ま、
参りました」
タイチが剣士の下から
手を上げる。
「勝負あり!」
「勝者口上を!」
起き上がった剣士が、
タイチへ手を伸ばす。
「えっと、
お前が、
その……」
「こっちの誘いに、
引っかかったのに、
引っかからなくて……」
「あれ?
なんで勝てた?」
「こっちも、
グダグダだったにゃ!」
また、
ロリ猫が笑った。
――
「いやぁ……
驚きましたな」
老獣人が、
しみじみと呟く。
「これ以上、
高みは無いと思っておりましたが……」
「まだまだ、
獣術の道は奥深い」
「ケセモッサへ立ち寄った際は
是非本部の道場へも
お立ち寄りください」
「は、はぁ……」
タイチが困ったように頷く。
「タイチ、
そんな特技隠してたのか?」
剣士が不思議そうに聞く。
「すごいにゃ!」
「どこで覚えたにゃ?」
「じいちゃんが
似たような武術やってたので」
「なんで普段使わないんだ?」
「いや、
あれは受け流しなだけで……」
「元々、
護身術ですし」
「護身術なのか……」
剣士が真顔になる。
「オレにも教えてくれ!」
(剣士さんが覚えたら、
護身させてくれ術だなぁ……)




