6-7 道場と、お嬢と
街の外れまで歩くと、
そこには妙な建物があった。
和風のような、
中華風のような、
そんな木造建築。
その入口の左右には、
ギリシャ神話に出てきそうな石像が並んでいる。
どうにも統一感がない。
中からは、
掛け声のような声が聞こえている。
「ここが
ケセモッサ獣術王都支部道場にゃ!」
ロリ猫が胸を張って説明する。
そして入口前の石像を指差した。
「左が武神オシロシ像」
「右が聖母ユチア像にゃ」
「この二人がケセモッサ獣術の創始者にゃ」
オシロシ像は、
武神と言うだけあって、
筋肉質で精悍な顔つきをしている。
一方、
聖母ユチア像は――
両手を前へ突き出し、
それぞれの指を二本ずつ立てていた。
(なんか聖母っぽくない……)
入口は扉ではなく、
横に引く木製の引き戸だった。
剣士が慣れた手つきで開ける。
「タノモー」
すると中から、
「「「「タノモー」」」」
と、
一斉に声が返ってきた。
「イラッシャイマセコンニチワー」
そう言いながら、
一人の老獣人が奥から歩いてくる。
そして剣士を見ると、
「これはお嬢!
それと――」
ちらっとロリ猫を見る。
ロリ猫は即座に剣士の後ろへ隠れた。
「ここの師範は、
ウチの小さい頃の
獣術の先生だったにゃ」
「今でも苦手にゃ」
「あのさ、
その“お嬢”っての
やめてくんねーかな」
「ほっほっほ、
これは失礼した」
「今は剣聖どのでしたな」
「そこのおチビは
相変わらずおチビですな」
「んにゃぁ〜……」
その言葉を聞いた門下生たちが、
「お嬢とおチビが!?」
と、
練習を止めて集まってきた。
「あのさ、
その“お嬢”っての――」
「お嬢!」
「お嬢!」
「あー、
もうお嬢でいいよ……」
剣士が諦めたように言う。
「して、
お嬢とおチビは今日は何用で?」
「あー、
ちょっと身体が鈍ってな」
「ドージョーヤブリして
汗流そうかと」
「ほっほ、
承知しました」
「では、
ドージョーヤブリの準備を」
「ドージョーヤブリってなんなの?」
タイチが小声でエルフへ聞く。
「ケセモッサ獣術の鍛錬の一つじゃな」
「そこの門下生全員と
組手をするんじゃよ」
(エルフってなんでも知ってるなぁ)
そして、老獣人はロリ猫に
「して、
おチビちゃんは何をするのかの?」
「ウチはあっちで
エルフとタイサバキやるつもりにゃ」
「ほっほっほ、
よろしい」
「あちらの場所を使いなされ」
「先生ありがとにゃ」
――
道場の中央が空けられ、
門下生たちが自然と周囲へ集まっていく。
「ほれ、
お主も見ておれ」
老獣人が中央を指した。
剣士が道場中央へ歩いていく。
向かい合った門下生と、
互いに深く礼をする。
「「タノモー」」
審判が
「始め!」
相手の獣人が、
組み付く。
(なんかこれ、
柔道みたいだな)
そう思った瞬間。
獣人の身体が宙を舞った。
「勝負あり!」
「うむ」
剣士は倒れた獣人へ手を差し出し、
引き起こす。
審判が
「勝者口上を!」
「お前の爪が、
使えていたならば――」
「オレの勝ちは
危うかった」
「ははっ!」
獣人の門下生が嬉しそうに笑った。
次の相手が前へ出る。
「タノモー!」
「タノモー」
今度は人間の門下生だった。
低く身体を沈めて組み付いた。
押し合ったように見えた次の瞬間、
相手が転がっていた。
「勝負あり!」
「勝者口上を!」
人間の門下生が苦笑いしながら起き上がる。
剣士は手を貸しながら言う。
「お前の身体が
もう少し組み付けてたなら――」
「オレも勝てなかったかもしれん」
「獣人と違って、
人間は組み付きの精度が大事だからな」
周囲の門下生たちも、
うんうん頷いていた。
一方。
ロリ猫は道場の隅で、
床一面にばら撒かれた反転呪符を避けながら、
エルフへ組み付く練習を繰り返していた。
呪符の隙間を縫うように駆け抜け、
一瞬でエルフの目前まで入り込む。
鼻先まで近づいたところでぴたりと止まる。
そしてまた後ろへ戻り、
同じことを繰り返す。
するとロリ猫が、
こちらに気づく。
満面の笑みで、
走りながらぶんぶんと手を振った。
その瞬間。
足元の呪符を踏み抜き、
ロリ猫の身体が壁へ吹っ飛んでいった。
「あ」
(悪いことしちゃったなぁ)
剣士の方に目を戻すと、
門下生の最後の一人が
宙を舞っているところだった。
「勝者口上を!」
「この先十年鍛錬を怠らなければ
オレはお前に勝てなくなるだろう」
(あれって絶対言わなきゃいけないの?)
そして湧き上がる歓声。
すると老獣人がこちらに歩いてきて言う。
「見学だけも
つまらんじゃろ」
「あんたもちっと
体験してみんか?」
「いや、僕は……」
「まぁそう言わずに」
「最初はそうじゃな――」
老獣人は人間の門下生を見て、
「お主、
もう行けるか?」
「はい!
行けます!」
「よし」
そう言って、
タイチの前へ連れてくる。
「なに、
心配する事はない」
「こやつは入ってまだ間もない」
「強くはない」
その言葉を聞き、
「じゃあ、
ちょっとだけなら」
そうして、
タイチのサイズの道着を渡される。
(こうして見ると
本当に似てるなぁ)
「先生、
なんでタイチを?」
「あの小僧は
タイチと言うのか」
「あやつは面白いな」
「面白い?」
「あやつは
お主の動きを全部捉えておったよ」
「ははっ!
先生も気づいてたか!」
「なんにゃなんにゃ
タイチがやるのか?」
エルフとロリ猫は鍛錬を止め、
剣士たちの横に
ちょこんと座る。
剣士が老獣人に言う。
「タイチに当てた相手、
強くは無いと言ったが……」
「ああ、
弱くもない」




