6-3 待ったと、乱入と、水戸黄門
「打首とする」
その言葉が、
静まり返った大広間へ重く響いた。
一瞬。
誰も言葉を発しなかった。
傍聴席も、
バルキリー達も、
空気ごと固まっていた。
「え……」
娘が小さく声を漏らす。
「ほ、本当に……?」
周囲もざわつき始める。
「いや、
さすがに……」
「本当に打首になるのか?」
「冗談だろ?」
「でも国王陛下の御前だぞ……」
審問官たちは一切表情を変えない。
「国王陛下、これでよろしいか」
国王が一言だけ発した。
「うむ、良きにはからえ」
「これにより、
先ほどの裁定は正式に下された」
「これ以上の異議申し立ては認めん」
傍聴席が再びざわつきはじめる。
「静粛に」
審問官がガベルを叩く。
「静粛に」
「静粛に」
まるで、
全てを押し潰すような声だった。
ガベルハンマーの音が無情に響き渡った、
その時。
「その裁定待ったですわー!!」
傍聴席の後方から、
甲高い声が響いた。
全員の視線が一斉に向く。
そこには、
黒いフードを被った小柄な人物が立っていた。
「なっ……誰だ!」
「ええい!
国王陛下の御前であるぞ!
控えい!」
衛兵たちが、
黒フードの人物へ詰め寄る。
だが。
近づいた衛兵たちは、
次々に動きを止めた。
「……っ!」
「な、
なんで止まっている!」
審問官が怒鳴る。
「衛兵ども!
何をしておる!」
「さっさと不埒な輩を捕らえい!」
しかし、
衛兵たちは動かない。
むしろ、
道を開けるように左右へ下がっていく。
「命令違反は反逆罪だぞ!」
「お前たちも打首になりたいか!」
審問官が怒鳴り散らす。
衛兵の一人が、
引きつった顔で答えた。
「し、
審問官殿……」
「わ、
私どもではどうにもなりませぬ……」
「何を戯けたことを――」
すると。
黒フードの人物が、
審問官たちの方へ駆け寄ってくる。
「ええい!
不審者だ!
ひっとらえい!」
しかし、
衛兵たちは誰一人動かなかった。
「お前たちみんな反逆罪だ!」
すると、
黒フードの人物が立ち止まり、
小さくため息を吐いた。
「わたくしを捕まえるなんて、
それこそ反逆罪で打首ですわ」
「……あ」
「あなた様は……!」
審問官たちの顔色が変わる。
その瞬間。
後方から二人の騎士が駆け寄り、
黒フードの人物の左右へ並ぶ。
そして左の騎士が叫んだ。
「皆、控えい!」
皆がその言葉に静まり返ると、
右の騎士が、
「このお方をどなたと心得る!」
「恐れ多くも、
王位継承第一位の王女殿下、
その人に在らせられる!!」
「皆のもの、控えーい!」
その言葉に、
大広間が揺れる。
「えぇ!?」
「王女殿下!?」
「なんでこんなところに……!」
タイチは呆然としていた。
「……」
「水戸黄門…」
「…って王女さま?」
「何よミトコーモンて」
「いや、なんでもない、なんでもない」
その口上に、
審問官たちは、
慌ててその場へひれ伏した。
「お、
王女殿下……!」
一人が恐る恐る顔を上げる。
「本日は、
どのような御用で……?」
「御用も何も」
王女がフードを外す。
「その裁定待ったと言っているんですわ」
空気が凍った。
「し、
しかし殿下!」
「こやつらの悪行は、
正式な聴取に則ったものでございまして……」
「正式?」
王女が、
横に控えていた騎士から書類の束を受け取る。
「これのことかしら?」
バサリと机へ置かれる書類。
「バルキリーの皆様、
遅れてしまってごめんなさいですわ」
そして。
王女は、
書類を読み上げ始めた。
「枢密院による証言改竄」
「虚偽供述の捏造」
「管理責任の隠蔽」
「責任者保護を目的とした裁定誘導」
「さらに、
聴取記録の改変」
傍聴席がざわつく。
「なっ……」
「改竄だと……?」
「おい、
本当かよ」
審問官の一人が叫ぶ。
「でたらめです!」
「そのような記録、
我々は知りません!」
「知らない?
でも、
あなたの署名がありますわよ?」
王女が書類を掲げる。
審問官の顔色が変わった。
「本来、
責任を問われるべきは神器管理官」
「ですが、
大貴族の嫡男を処分出来なかった」
「だから無実のお姉さ……
バルキリーの皆様へ
責任を押し付けようとした」
(ん?)
「さらに、
都合の悪い記録を揉み消すため、
虚偽証言まで用意した」
「ここまで来ると、
もはや国家反逆に等しいですわ」
空気が完全に変わる。
先ほどまで威圧的だった審問官たちが、
今度は顔を青くしていた。
王女が、
ゆっくりと審問官たちを見渡した。
「よって、
先ほどの裁定は無効ですわ」
王女は一拍置き、
国王へ向き直った。
「国王陛下、
もう暫くわたくしの発言をお許しくださいますか?」
国王がまた一言。
「うむ、良きにはからえ」
王女が、
静かに衛兵たちへ視線を向けた。
「衛兵」
「その者たちをひっとらえなさい」
衛兵たちがその言葉に即座に動く。
「なっ、
待て!」
「こら暴れるな!
神妙にせい!」
「おとなしくせんか!」
「離せ!
貴様ら、
誰に向かって――」
「黙れ!」
「おとなしくお縄につけ!」
次々に審問官たちが拘束されていく。
傍聴席は騒然としていた。
先ほどまでは審問官側だった衛兵たち。
(みんな生き生きしてるなぁ……)




