6-1 調書と、悪意と
王城内。
別邸の中にある、大広間。
普段はここで演奏会や舞踏会が開かれて、
王城への招待客以外は入ることが出来ない。
しかし今日は、
審問のために解放されていた。
――
昨晩のこと。
通話を終えて宿へ戻る途中、
タイチはギルド職員とすれ違った。
こんな時間まで仕事か、
くらいにしか思っていなかった。
しかし。
部屋へ戻ると、
空気が明らかに違っていた。
皆、
深刻そうな顔をしている。
……ロリ猫を除いて。
「どうしたんですか?
さっきギルドの職員とすれ違いましたけど」
「ついに来たんじゃ」
エルフが小さく呟く。
「何がです?」
「王城への出頭命令じゃ」
「……へ?」
「ついに、
判断が下される時が来たんじゃよ」
エルフが神妙な面持ちで言う。
「ようやく明日で解放されるにゃ」
打って変わって、
ロリ猫の顔は晴れやかだった。
――
その結果、
今、こうして王城の中にいる。
王城内は、衛兵の数が多く、
すれ違う者たちも、
誰一人笑っていない。
そして何より、
妙に静かだった。
そのまま、
バルキリー達は被告人の控え室へ通される。
「……いよいよじゃな」
エルフが小さく呟く。
「早く終わらせて帰ろうぜ」
剣士も、
普段より落ち着かない様子だった。
「我も…同意…」
「魔法使いまでテンション低いにゃ」
(全然違いが分からない)
聖女だけは、
なぜか少し嬉しそうだった。
「このお弁当見てください、
とっても豪勢ですぅ」
「お前はもうちょっと緊張しろ」
剣士が即座に返す。
(順応してるなぁ……)
タイチは少しだけ感心した。
だが。
衛兵たちを引き連れて部屋へ入って来た役人達の空気は、
明らかに違っていた。
冷たい。
というより。
感情のない人形のようだ。
娘もそれを察したのか、
少しだけ表情を固くする。
「では、
本日の御前審問についての説明を始める」
「まず、この審問は、
国王陛下の臨席のもと執り行われる」
「国王陛下の御名に懸けて誓え。
汝の言葉に一片の虚飾もなきこと」
「国王陛下の御前において、
我らの裁決は一審にして絶対。
抗弁の余地などないと知れ」
「これより先は御前である。
言葉遣いには細心の注意を払うよう」
(何言ってるのかちっとも分かんない)
心配して、
ロリ猫を見ると、
いつもと違ってちゃんと聞いてる。
「では、
そちらの二人は傍聴席へ」
「え?え?」
「ちょっと引っ張らないで」
衛兵が無理やり二人を連れて行く。
部屋を出る時振り返ると、
ロリ猫は笑顔でこっちに手を振っていた。
(のんきだなぁ)
――
傍聴席へ座らせられた二人。
傍聴席は、
王都人気の高いバルキリーと言うこともあってか満席だった。
「ねえ、
あれってどう言う意味だったの?」
「国王が来るから、
嘘をつくな、
言葉には気をつけろ、
決定には逆らうなって言ったのよ」
「なるほど、
それならそう言えばいいのに」
「しっ、
始まるわよ」
バルキリーたちは整列させられ、
その場で膝をつかされる。
その上の段に審問官が並ぶ。
「静粛に!
国王陛下よりご臨席を賜る!」
一斉に皆が立ち上がり、
頭を下げる。
すると、
審問官のさらに上の段に国王が入ってくる。
国王が座ると、
皆も座る。
先ほどの控え室の注意と同じような口上が述べられ、
審問官が口を開く。
「それでは審問を始める」
机の上へ、
大量の書類が置かれた。
その書類を読み上げていく。
「まず確認だが、
貴様らは王印の存在を事前に知っていたな?」
「知らないにゃ」
「知らん」
「ワシらが知っとったら、
そもそも近づかんわい」
「…知らない…」
「存じておりませんでしたぁ」
役人は淡々と続ける。
「だが、
事前に知っていたとの証言がある」
「にゃ!?」
「さらに、
国宝運搬の際に王印を持たせるよう促したとの証言がある」
「にゃにゃ!?」
「さらに、
証言では、
貴様らが道中の野営地で王印について会話していたとの話も出ている」
「にゃにゃにゃ!?」
ロリ猫が眉をひそめる。
「そして、
同行していた商人が王印の価値の鑑定を依頼されたとの証言もある」
「そして、
酒場で近々大金が入ると豪語していた」
「そして、
王印発見後に隠匿を相談していた」
役人は止まらない。
「加えて、
王印を持ち出した後、
国外へ逃亡する計画を立てていた疑いも――」
(あ、これは言ってたな)
「にゃにゃ!?」
「そして聴取の際には、
あろうことか役人を金銭で買収しようとした」
「待て待て待て、
誰がそんな事言った」
ついに剣士が声を上げる。
「…デタラメばっかり言いやがって」
剣士の声が低くなる。
すると衛兵が、
「陛下の御前であるぞ。
不敬な口の利き方は許されん」
しかし傍聴席からも、
「そんな事するわけないだろ」
「お姉様たちに限ってそんな」
と擁護する声。
反対に、
「あいつらはいつか何かやらかすと思ってた」
「俺たちを裏切りやがって」
との声も飛ぶ。
すると、
また衛兵が叫ぶ。
「静粛に!これ以上騒ぎ立てる者は、不敬罪として即座に退廷させる!」
その一言で空気が凍りついた。




