5-9 警戒と、それぞれの思惑と
翌日。
タイチは、
再び鳳凰印本店へ来ていた。
隣には娘。
「ほんとに聞くの?」
「いや、
ちょっとだけ」
昨日は、
人が多すぎた。
だから今日は、
開店直後を狙って来ている。
――
店内へ入る。
昨日より人は少ない。
とはいえ、
相変わらず忙しそうだった。
店員たちも、
慌ただしく動いている。
「すみません」
タイチが声をかける。
対応に出てきた店員は、
営業用の笑顔を浮かべていた。
「はい、
いかがなさいましたか?」
「あの、
この店のマヨソースを作った人に会えたりします?」
一瞬。
店員の動きが止まった。
「……はい?」
「この店のマヨソースを作った人です」
店員は、
固まった笑顔のまま答える。
「申し訳ありません。
そのような対応は行っておりません」
「他にご用件はございますか?」
「えっと、じゃあ、
ショーユとか、
ミソとか」
「作った人には会えますか?」
娘が横で頭を抱えていた。
「いや、
おんなじ!」
店員は、
笑顔のままだが目は全く笑っていない。
「申し訳ありません。
そちらの対応も行っておりません」
「あー……」
「他にご用件はございますか?」
三度目の笑顔。
だが。
空気は明らかに変わっていた。
「あの、
例えばなんですけど」
「その人って、
今も王都に――」
「おい、お客さま」
低い声。
いつの間にか、
奥から大柄な男が出てきていた。
腕が太い。
どう見ても料理人ではない。
「さっきから、
何を探っていらっしゃってやがる」
「え?」
「どちらのお店の回しもんだ」
空気が変わる。
周囲の店員たちも、
完全に警戒していた。
そこでようやく気づく。
(あ、
情報を盗むと思われてるのか)
「いや、
そんなつもりじゃ」
「じゃあ何だっておっしゃりやがるんだ」
男が一歩前へ出る。
「いや、そういう事じゃなくて」
「お客さま、ちぃとばかし裏でお話しをしましょうや」
娘が慌てて間に入った。
「すみません!
この人ちょっと変なんです!」
「変ってなんだよ」
「もういいでしょ!」
娘がタイチの腕を掴む。
そのまま、
半ば引きずるように店を出た。
――
少し離れた場所まで来て。
娘が大きく息を吐いた。
「何やってんのよもう……」
「いや、
ちょっと聞いただけなのに」
「だから怪しまれたんでしょ!」
娘が呆れた顔をする。
「だから、
裏で話せば分かってもらえたかも知れないのに」
「どう見ても話をする感じじゃなかったでしょ!」
「言葉遣いもおかしかったし」
「というか、
なんでそんなに作った人のこと知りたいの?」
「えーっと……」
異世界転生者かもしれないから。
とは言えない。
「ちょっと、
気になることがあって」
「気になること?」
「作った人に
興味があるというか」
「ふーん」
「分かるだろ?そういう事ってあるだろ?」
娘は納得したような、
していないような顔をした。
「ちっとも分かんない」
――
その頃。
枢密院。
重苦しい空気が漂っていた。
「いい加減決定せねばならん」
「王印持ち出しの責任は、
誰かが取らねばならん」
「記録上、
持ち出したのはバルキリーですが…」
「しかし、
返却確認を怠ったのは……」
途中で言葉が止まる。
誰も続きを言わない。
「神器管理官の責任を問うのか?」
低い声。
空気が冷える。
「管理官は確か…」
「よりにもよって、
大貴族のご子息だ」
「処分など出来るわけがない」
「だからといって、
このままでは済まん」
「記録は残る」
部屋の端で、
一人が疲れたように額を押さえた。
「最悪、
枢密院全員の首が飛びますぞ……」
誰も否定しない。
「責任の所在は必要だ」
沈黙。
そして。
「……バルキリー側へ押し付けるしか無いでしょうな」
誰かが吐き捨てるように言った。
空気がさらに重くなる。
だが。
誰も反論しない。
一人だけが、
小さく呟く。
「現場判断で王印を渡したのはこちらでしょう……」
「バルキリーはそこそこ名の知れた冒険者パーティー」
「王都での人気も高い」
「今さらそんな話をして何になる」
即座に切り捨てられる。
「王都の面子の問題だ」
「いくら人気があっても、たかだか一介の冒険者集団だろう」
「問題は、
いかに我らに及ばないように終わらせるかだ」
「やはり、バルキリーに罪を被ってもらうのが一番ですな…」
「では、その件はそのように進めるという事で、」
「……」
「では次の問題です」
資料が机へ置かれる。
「薬草採り名人の称号者?」
「これが何だ?」
「こんなのがなぜ枢密院に上がってくる?」
別の男が口を開く。
「異常幸運の可能性があるかと…」




