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5-10 絵札と、理想と、現実と


店を出たあと。


娘は、

まだ呆れた顔をしていた。


「絶対、

 他の店のスパイか何かだと思われてたわよ」


「いや、

 そんなつもりじゃなかったんだけど」


「そんなつもりじゃなくてもそう思われてたでしょ」


「確かに、どこの店の回しもんとか言われた」


「普通、

 作った人に会わせてくださいなんて言わないのよ」


「でも、目的はそれなんだよなぁ」


「それにしたってもっと聞き方があるわよ」


「難しいなぁ」


歩きながら、

娘が大きくため息を吐く。


「顔が怖かったもん」


「誰の?」


「奥から出てきた人の」


確かに怖かった。


腕も太かったし。


どう見ても料理人や店員さんといった風貌ではなかった。


(というか、

 なんだったんだあの人)


そんな事を考えていると。


娘が、

ふと足を止めた。


「あ」


「ん?」


「ちょっと寄っていい?」


そこは、


武器・防具屋。


酒場といった、


冒険者向けの店が並んでいる通りの一角。


その中に、

妙に人だかりの出来ている店がある。


入口には、

冒険者の絵や札のようなものが大量に飾られていた。


「ここは?」


「『王都冒険者資料店』よ」


「資料のお店なの?」


「冒険者グッズのお店」


「グッズ?」


近づいていくと、

店前にたくさんの絵が飾ってあるのが見えてきた。


中へ入る。


壁一面に、

絵札のようなものが並んでいた。


有名冒険者。


各地の強者たち。


魔獣討伐記録や、


武器の意匠までも。


そんなものが大量に飾られている。


「うわ……」


タイチは少し圧倒された。


特に目につくのは、

筋骨隆々の戦士たちだった。


斧を振る姿。


大剣を構え魔物と対峙する構図。


上半身裸で筋肉をアピールするポーズ。


とにかく、男くさ……強そうである。


「こういうの人気なのか」


見ていると、

子供の一人が戦士の絵札を手に取り、

母親へねだっていた。


そんな様子を見ながら歩いていると、娘が壁を指差す。


「ほら、お姉さまも」


壁の戦士たちの並びを見ると、

剣士の絵札も並んでいた。


「なんかすごい」


「ちゃんと人気あるんだな」


「地方より、

 王都だとかなり人気あるのよ」


娘が剣士の札を手に取る。


「やっぱ剣士さん人気高いな」


確かに、

剣士だけ妙に数が多かった。


構図違い。


戦闘中。


座っているだけ。


なぜか風で髪がなびいているものまである。


「……なんか多くないか?」


「まぁ、

 そういう人気もあるのよ」


少し横には、


男の冒険者が群がっているスペースがあった。


「こっちにもあるんだ」


「そっちはまぁ男の人向けね」


娘は曖昧に答えた。


確かに、


壁には女冒険者たちの絵札が大量に並んでいる。


「あれ、この人」


「あー、それは剣姫さまね、ソロで冒険者やってる人」


(この人、剣姫だったんだ……)


そして、


「こっちにもバルキリーがあるんだ」


剣士、


ロリ猫、


エルフ、


聖女、


魔法使いと、


見事にバルキリーの五人が並んでいる。


「剣士さまの絵札を胸に入れてお守りがわりにしてる」

「ロリ猫たんかわゆす」

「こないだ魔法使いの絵札と一緒にパンケーキ食って来た」

「エルフちゃんが先生だったら歴史の勉強がんばれそう」

「あー聖女様に治癒魔法かけてもらいてぇ」

「ばっかお前じゃ灰にされるのがオチだ」


などと口々に言っている。


(なんか、

 アイドルみたいだな)


そんな様子にカウンターの店主らしき男が、


「元々は歴史上の英雄や勇者なんかの功績録や冒険譚を扱う店だったんだけどね」


「今はこういう方が需要があるんだよ」


「時代は変わったね」


と微妙な顔で言う。


その後も娘は慣れた様子で店内を見回していく。


その途中。


娘が棚の前で足を止める。


辺りを見回しながら、


娘がカウンターの店主に向かって小声で、


「あの……

 剣士さんの……新しいのってあります?」


店主もまた小声で、


「ああ……ありますよ」


そう言って。


店主は、

店の奥から箱を出してきてカウンターに置いた。


「新しいのはこの辺だね」


娘の目つきが、

少しだけ真剣になる。


娘が箱の中を見る。


何かを手に取り、


「……尊い」


ぼそりと呟いた。


「?」


タイチは横から覗き込んだ。


一瞬だけ、

剣士の絵が見えた。


だが。


娘が慌てて阻止する。


「これはダメ」


「なんで?」


「なんでも」


娘は真顔だった。


タイチは首を傾げる。


(なんなんだ?)


ただ。


改めて周囲を見回して、

少しだけ納得した。


筋肉ムキムキの戦士ばかりの中で、

剣士みたいな、

綺麗なタイプの戦士は珍しいのかもしれない。


「なるほどなぁ……」


「なにが?」


「いや、

 人気あるのも分かる気がする」


娘は、

少しだけ変な顔をした。


「……まぁ、

 間違ってはないわね」


――


宿に戻ると。


今日も聴取だったバルキリー達が、

放心状態で床に散らばっていた。


(こんなの見たらファンが泣く……)

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