5-7 黒装束と、ヘルバルキリー
朝。宿の従業員の声で起きる。
だれも出ないので、代わりに対応する。
ギルド職員が、急用でフロントに来てると言う。
とりあえず、客室のリビングまで招き入れる。
そして寝室に戻り一人ずつ声をかける
しばらく待っていると。
「すまん」
最初にエルフが現れる。
続いて、
聖女と魔法使い。
さらに。
「ふぁぁ……」
「ウチらは夜型だから朝は辛いにゃ」
最後に、
ロリ猫と剣士が眠そうな顔でやってきた。
すると。
「皆さん、ようやくお揃いですね」
ギルド職員が、口を開く
「黒い集団の目撃情報が入りまして、
緊急クエスト対応が決まりました」
「ギルド側から、
枢密院へ聴取一時中断の申し入れをしてあります」
「やっと解放されるにゃ……」
ロリ猫が机に突っ伏した。
「あくまで、一時中断です」
「場所は?」
剣士が短く聞く。
「王都郊外、
薬草採取地近くの森です」
「薬草採取場?」
タイチが思わず聞き返す。
「はい。
初心者冒険者も利用する場所ですね」
「詳細説明はギルドで行いますので移動の準備を」
――
ギルド。
受付前は、
朝から少し慌ただしかった。
「――以上となります」
受付嬢が資料を閉じる。
「本件は、
王都郊外で目撃された黒い集団の調査」
「人数、所属、
目的、すべて不明です」
「情報集約のため、
職員も同行します」
職員が軽く頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「オッケーにゃ」
(絶対ちゃんと聞いてないよね)
――
ギルドを出て、
馬車乗り場へ向かう。
すると。
「あたしも行っていい?」
娘が当然のように言った。
「悪いが今回はダメだ」
剣士が即答する。
「調査クエストは危険度が未知数だからな」
「足手まといを連れていける余裕はねぇ」
エルフも静かに頷く。
「まあ、そういうことじゃな」
娘はむっとした顔をした。
「なんでよ!」
「じゃあなんでタイチはいいのよ!」
みんなタイチを見る。
「……え?」
(みんな口には出さないけど、
それもそうかって思ってそう)
「まあ……確かにタイチは弱…強くは無いな」
剣士がぼそりと言う。
「それ、
全然フォローになってませんよ」
「とにかくダメだ」
剣士は腕を組む。
「危険度が分からねぇ以上、
守りながら戦える保証がねぇ」
「むぅ……」
娘は不満そうに頬を膨らませた。
しかし。
「後ろで大人しくしてるからー」
「どうせ止めても来るつもりにゃ」
ロリ猫が軽い調子で言う。
「うっ」
娘が目を逸らした。
「図星にゃ」
結局、
娘も同行することになった。
――
馬車の中。
「……また増えてたわよ」
娘が言う。
「名人パン」
「げっ」
「名人パン?」
ロリ猫が首を傾げる。
「今や王都中で名人パンよ」
「パンにおかず挟んで食べるやつ」
「にゃ、もしやそれをタイチが?」
「当たり」
「最初は昼飯の屋台のおっちゃんが真似して販売して」
「あっという間にそこらかしこで広まっちゃったのよ」
ロリ猫がじっとタイチを見る。
「タイチ」
「……はい」
「王都の商人を甘く見すぎにゃ」
「え?」
「商人にとって、今まで見た事ない食べ方」
「それだけでもう商品価値にゃ」
「薬草採り名人が食ってた」
「さらに希少価値までついてるにゃ」
「そんなのまで理由になるんだ……」
「なるに決まってるにゃ」
「今頃、
『名人愛用!』とか勝手に書かれてるにゃ」
(うわぁ、ありそう…)
――
馬車が該当地域に差し掛かる
剣士は馬車から降りて警戒する
一緒について降りる
ガサガサ、と音がした。
「……」
空気が一瞬止まる。
次の瞬間。
剣士が地面を蹴った。
黒装束の男が、
勢いよく地面へ叩き倒される。
「みんな気をつけろ!」
気づけば、
みんなもう馬車から降りていた。
後方から来る相手へ向けて
「わははははは!
爆ぜろ!弾けろ!」
魔法使いの爆発が森に轟く。
轟音。
土煙。
「やーん」
聖女が黒装束の男に服を掴まれている。
胸元が引っ張られ、
白い肌が露わになった。
「もう悪い子たちですねぇ」
聖女の周囲に、
強い光が集まり始める。
(まずい)
「聖女さんストップストップ!」
「えっ?」
聖女の意識が、
一瞬こちらへ向く。
途端に。
光が少し弱まった。
黒装束たちは、
その場に崩れ落ちる。
(よかったね灰にならなくて)
さらに。
地面には、
いつの間にか大量の呪符がばら撒かれていた。
黒装束の男たちがその上を踏む。
すると。
向かって来る男たちの身体が、
突然くるりと反転した。
進行方向が強制的に逆転する。
「うおっ!?」
「なっ――」
混乱したところへ。
剣士の大剣が叩き込まれた。
ロリ猫は木の上から、
合っているのか合っていないのか分からない指示を出す。
「右にゃ!
いや左にゃ!
やっぱ真ん中にゃ!」
「これがバルキリーの戦闘……」
職員が呆然と呟く。
「これが本気のバルキリーなの!?」
娘が目を輝かせる。
職員と娘は顔を見合わせ、
「「そりゃヘルって言われるわ」」
(ええ、皆さんそうおっしゃいます)
ロリ猫が木の上から降りてくる
「だいたい合ってたにゃ!」
「予定通りにゃ!」
「まだ一人いる!」
タイチが声を上げる。
「まかせろ!」
「待て!そこは呪符が――」
エルフが言い切るより早く。
剣士が突っ込む。
「うおっ!?」
剣士の身体が、呪符の上で反転し、
ものすごい勢いで、
こっちへ突っ込んでくる。
「タイチ!避けろ!」
(無理です)
――
気がつくと、
聖女の膝の上だった。
柔らかな感触。
頭に温かな光が降り注いでいる。
「大丈夫ですよぅ」
聖女が治癒魔法をかけていた。
「いつまでそうやってんのよ!」
娘がなんだか不機嫌そうに言う。
(理不尽だ)
その横では、
エルフと職員が倒れた黒装束を調べていた。
「やはり同じじゃな」
エルフが、
黒い布を指でつまむ。
「ええ。
前回の者たちと同じ着衣です」
「武器も似てるにゃ」
ロリ猫が、
転がっている短剣を拾い上げる。
「前回と同じ集団で間違いなさそうじゃな」
「はい」
職員が頷いた。
その後、
周囲を一通り調べ、
戻ることになった。
――
帰りの馬車。
「そういえば」
娘がふと口を開く。
「聖女さんは聖属性の光魔法よね」
「はい、分かっちゃいますかぁ」
「エルフさんは魔属性?」
「魔属性の闇魔法じゃな」
「じゃあ魔法使いさんの、
あの爆発する魔法は?」
「…魔法」
「え?」
「…生活魔法」
「え?」
「生活魔法っ!!!」
「え、生活魔法なんですか」
「なんかこう、
黒魔法とか、
なんかそんな感じのかと」
「…」
すると、
魔法使いがエルフの袖を引っ張る。
「こいつの魔法はな、
ただの生活魔法なんじゃ」
「こいつは魔力が多すぎて、
生活魔法程度であの威力なんじゃ」
娘が指先にポッと火を灯す。
「生活魔法ってこれよね」
「そう、それじゃ」
「その魔法をこいつが使うと」
「…あんな…感じになる」
「だからコイツは攻撃魔法とかの
上級魔法は一切使えねーんだ」
「…違う…」
「あん?事実じゃねーか」
「…使えないんじゃない」
「教えてもらえなかったんだー!!!」
魔法使いの悲しい叫びが森にこだました。




