5-3 返却と、温度差と
揚げヘンネを食べ終えたあと、
ロリ猫が満足そうに腹をさする。
「王都の揚げヘンネはやはり美味いにゃ」
「マヨソース前提じゃない?」
「それはそうにゃ」
そんな話をしながら、
人混みの中を歩いていく。
「マヨソースってさ、揚げヘンネ以外には何に使うの?」
「にゃ?」
「マヨソースは揚げヘンネのものにゃ」
「あ、でも揚げ物には使うにゃ」
こんなにマヨソースは流通しているのに、用途が限定的なのはなぜなんだろう
焼きヘンネにマヨソースの組み合わせが今まで無いと言うのが不思議でしょうがない
大通りは、
相変わらず人で溢れている。
馬車が歩く人すれすれで横を抜けていく。
かと思えば荷車が道を塞ぐように並んでいる。
店々からは呼び込みの声があちこちから飛んでくる。
昼を過ぎているのに、
人の流れが全く減らない。
やがて、
大通り沿いに建つ巨大な建物が見えてきた。
「あれが王都のギルドじゃ」
「でっか……」
娘が呆れたように笑う。
「さっきからそれしか言ってないね」
思わず苦笑いする。
一つ一つがデカいのだからそれ以外に言いようがない。
王都のギルドは、
中へ入ると、
自分の街のギルドとは比べ物にならないくらい大きく広い。
まず受付の多さに圧倒される。
クエストごとに受付が分かれているらしく、
それぞれに長い列が出来ている。
依頼書を抱えた冒険者たちが、
受付へ群がっている。
(こんなにたくさん受付があるのか)
並び順で武装した傭兵同士が怒鳴り合っている。
鎧の金属音が、
あちこちから響いていた。
受付嬢たちは、
それを気にした様子もなく慣れた様子で捌いていた。
(昼でもこんなに人が多いのか)
酒場のように騒いでいる場所もある。
笑い声が響いたかと思えば、
別の場所では怒鳴り声が飛ぶ。
空気そのものが騒がしかった。
自分のギルドでこう言う光景を見なかったわけではなく、
ただ、全ての規模が大きく圧倒される。
ロリ猫が一つだけ空いている受付に行き、
受付嬢に話しかける。
受付嬢は一瞬驚き、すぐに平静を取り戻し、
奥の扉に入る
すぐに別の職員が出てくると
「お待たせしました。ではこちらへ」
とそのまま奥へ通されていく。
ロリ猫が小さくため息をつく。
「めんどくさい空気にゃ」
「王印を持っとるんじゃから仕方がない」
エルフはやれやれと言った様子だった。
通された先には、
鎧姿の兵士たちが待機していた。
そのまま、
さらに奥へ案内される。
さっきまでの、
王都ギルドの騒がしさが嘘みたいだった。
話し声も少ない。
足音だけが妙に響く。
「こちらで少々お待ちください」
兵士が扉を開ける。
「あ、君はこちらで待機ね」
「え?」
思わず間抜けな声が漏れる。
「事情確認はバルキリーだけだから」
気づけば、
タイチだけ完全に部外者扱いだった。
「あー……まぁそうなるか」
ロリ猫は軽く手を振る。
「終わるまで適当に王都をぶらついてるといいにゃ」
「迷子になるでないぞ」
エルフも軽く笑う。
「…夕方には戻れる…といいな」
魔法使いも短くそう言った。
聖女は何も言わずについていく。
そういや剣士は?と思いながらキョロキョロしてると
ロリ猫がこっちにこっそり耳打ちする
「ホントは代表のウチだけが行けばいいにゃ」
「!!」
「内緒にゃ」
そのまま、
バルキリーたちは奥へ消えていった。
(この人は…)
重たい扉が閉まる。
振り返り娘に言う
「…というわけで暇になった」
「軽いなぁ」
娘が呆れたように笑う。
――
娘とギルドを出る。
外へ出た瞬間、
さっきまでの静けさが嘘みたいに、
また王都の喧騒が耳へ戻ってきた。
「うわ……」
思わず声が漏れる。
「もう、驚かないと思ったけどやっぱ違うなぁ」
「だから言ったでしょ?
王都はずっとこんな感じだって」
娘は慣れた様子で歩いていく。
屋台からは香ばしい匂いが漂ってくる。
行商人が道に商品を並べ人だかりが出来ている。
その間も馬車が何台も行き交い、
人波がその隙間を縫うように流れていた。
地方とは、
人の密度そのものが違う。
「どこ行く?」
「んー……」
周囲を見回す。
「何か気になるものある?」
娘が問う
気になるものは大量にある。
「武器屋とかいいなぁ」
「えーつまんなそう。服屋とかならいいけど」
今度はこっちが
「え、服屋とかの方がつまらなくない?」
見たことのない食べ物。
変わった道具。
ただ、
文字が読めないので、
何の肉か何の道具かは雰囲気でしか分からない。
「この辺は職人街だね」
娘が説明してくれる。
「あっちは学生街」
「へぇ……」
歩いているだけで、
景色が次々変わる。
同じ王都の中なのに、
場所ごとに空気まで違った。
「王都ってすごいな……」
「まぁ地方の人はだいたいそう言うね」
娘は少し得意げだった。
通りを歩いていると、
突然、
前から大量の荷車がやってくる。
「うおっ」
慌てて端へ避けた。
木箱がぎっしり積まれている。
樽を縄で固定した荷車もある。
布袋を山積みにした馬車まで続いていた。
荷車の列は、
しばらく途切れなかった。
「待ってたら一生通れないよ」
娘はそう言いながら、
ひょいひょいと間をすり抜けて
向こう側に渡っていく
あわてて後に続く。
「毎日こんな感じ?」
「うん。
王都は人と物が集まる場所だから」
「なんか、
都会って感じがするな……」
少しだけ自身の故郷を思い出し呟く。
娘は少し考えてから、
「そうよ、
都会なんだから!」
と笑った。




