5-1 各地の異常と、北の大地の話と
本来なら、
昨日の夜には次の宿場へ着いている予定だった。
だが、車輪の修理に時間を取られ、
野営することになった。
その分、
今日は朝早くから移動していた。
そして昼過ぎ。
ようやく次の宿場へ辿り着く。
「ようやく着いたにゃ……」
ロリ猫がぐったりした様子で馬車から降りる。
「お前、ほとんど寝てただろ」
「寝るのも体力使うにゃ」
「便利な言葉だな」
そんなやり取りをしていると、
「あっ!」
宿場の入口付近で、
こちらに気付いた男が駆け寄ってきた。
ギルド職員の制服。
「よかった、まだ居た!」
「にゃ?」
ロリ猫が首を傾げる。
「早馬を飛ばして来たんですが、
見当たらなかったので、
もう出立した後かと……」
「あー、昨日は車輪が壊れて動けなかったにゃ」
「なるほど……」
職員は少し安堵したように息を吐く。
「それより、どうしたにゃ?」
ロリ猫が聞くと、
職員の表情が少しだけ引き締まった。
「実は、各地のギルド支部へ問い合わせたところ……」
「同じような案件が、
複数確認されていまして」
「同じような案件?」
「各地でも魔獣の増加の報告が上がってるらしくて」
「例年と比べても明らかに」
「……」
空気が少し静かになる。
「さらに、
森や廃墟で“黒い集団”が目撃されています」
「黒い集団?」
タイチが思わず聞き返す。
「同じ組織かは不明です」
「ですが、複数地域で同じ報告が上がっています」
「ただの偶然にしては、
同時期に発生してるんです」
「話が長くなるなら飯食いながらにしようぜ」
――
宿場の食堂で少し遅い昼食を取ることになった。
「それで、各地のギルド支部に問い合わせた結果なんですが」
ギルド職員が資料を広げながら言う。
「ギルド本部は、
上級冒険者向けに緊急クエストを発注する方針を決定しました」
「緊急クエストにゃ?」
「はい。情報収集を目的としたものです」
「各地で状況が違いすぎて、
まず全体像を把握しようと」
「なるほどのう」
「それと、上級冒険者には一人ずつ職員を同行させることになりました」
「情報を素早く本部へ集約するためです」
「へえ」
「この周辺支部では、
皆さんが選定されています」
「うちらにゃ?」
「実績と機動力を考慮して、との事です」
「なんか面倒ごとの匂いしかしねえな」
剣士が嫌そうに言う。
「魔獣の増加も気になりますが……」
職員が少し声を落とす。
「やはり、黒い集団の件も気になります」
「なんなんでしょうね」
聖女が首を傾げる。
「宗教団体とかですか?」
「ありそうにゃ」
ロリ猫が頷く。
「国家転覆を企む革命軍かもしれんぞ」
「ありそう」
「北の大陸の魔族が、
人間への侵攻を企てている可能性もある」
「ありそうにゃ」
「なんでもありそうじゃ分からないんですが……」
タイチが思わず言う。
「それだけ情報が少ないと言う事じゃ」
エルフが肩を竦める。
「北の大陸って、
北の大地とまた違うんですか?」
「ああ、別じゃな」
「北の大陸は、
北の大地をさらに北へ進み、
海を越えた先にある大陸じゃ」
「北の大地は、
ケセモッサの北だにゃ」
「そういやケセモッサって、
国の名前なんですか?」
「ケセモッサは偉大なるケセモッサにゃ」
「……?」
(ちっともわからん)
エルフが苦笑いする。
「ケセモッサは、
ケセモッサという魔獣が住み着いた事から由来すると言われておる」
「魔獣とはなんにゃ魔獣とは」
ロリ猫が不満そうに言う。
「魔獣じゃろ」
「北の大地をほぼ焦土にしたんじゃから」
何やら物騒な話が始まった。
「白虎朱雀大戦ですね」
聖女がぽつりと言う。
「子どもの頃、
早く寝ないと白虎が来るぞう、
朱雀が来るぞうって、
よく言われました」
「なんなんです?白虎朱雀大戦って」
「なんじゃおぬし、
白虎朱雀大戦も知らんのか」
エルフが少し意外そうに言う。
「およそ千年ほど前、
この地に白虎と朱雀が現れ――」
「五百年、
縄張り争いを続けて、
最後には北の大地で決戦したんだにゃ」
ロリ猫が当然のように続ける。
「その結果、
北の大地はほとんど焼き尽くされた」
「そして傷ついた白虎は、
ケセモッサとして、
北の大地近くに獣人たちの王国を作ったんじゃ」
「朱雀はその後、
行方知れずじゃな」
「どっちが勝ったんです?」
「白虎が勝ったに決まってるにゃ」
「勝敗については…記されて…ない」
魔法使いがぼそりと言う。
「ワシも幼かったから記憶にないんじゃ」
(その頃には生まれてたんだ……)
タイチが思わずそんな事を考える。
「そうだ、
北の大地といえば、
そこも何やらきな臭いんだった」
剣士が思い出したように言う。
「旅人さんも、
そんな事を仰ってましたねえ」
聖女が頷く。
「各地の目撃情報と、
同じなんでしょうか」
「それも分からんな」
エルフが腕を組む。
すると、
黙って聞いていた剣士が、
肉を頬張りながら言った。
「何にせよ、
オレの前に出てきたら全部ぶった斬る」
「情報収集出来る程度でお願いします」
ギルド職員が即座に返す。
「細けぇ事気にすんじゃねえよ」
(気にします)




