4-11 道中と、鍋と、足止めと
朝。
宿を後にしようとすると、
店主が奥から顔を出した。
「これ、持っていきな」
差し出されたのは、大きな肉の塊だった。
「うちのだ。道中で食うといい」
「ワシにか?」
「エルフさん先々代の時から来てくれてんだろ?」
「そうじゃが、」
「じゃあ、うちの最古参の常連さんだ」
「じゃが、常連というほど通ってはおらんぞ」
「なーに、俺の息子か孫かがまだ店やってたら来てくれよ!」
「…そうか、ありがたく受け取っておく」
エルフが受け取る。
「おお、気が利くにゃ」
ロリ猫が覗き込む。
肉を見て、ロリ猫が少し考える。
「……にゃ」
少し間を置いて、
「ちょっと待ってにゃ」
そう言って、ロリ猫がどこかへ走っていく。
「どこ行ったのよ……」
しばらくして戻ってくる。
「ただいまにゃ」
「どこ行ってたの」
「内緒にゃ」
ロリ猫がニヤニヤしている。
(……なんか気持ち悪い)
そんなやり取りをしながら、宿を後にする。
――
馬車は王都に向かって街道を進む。
「今日はどこまで行くにゃ?」
ロリ猫が御者に聞く。
「順調なら日が落ちる前に次の宿場だな」
そんなやり取りを聞きながら、揺れに身を任せる。
――
昼頃。
街道の脇で馬車を止める。
「ここで一旦休憩しましょう」
御者の声で降りる。
「何か狩ってくる」
剣士はすぐに森へ入っていく。
「じゃあ私たちは山菜でも」
聖女と魔法使いも森へ入っていく。
しばらくして剣士が戻ってくると、
手には山鳥を提げていた。
「昼飯はこれでいいな」
「いいにゃ」
程なく、聖女たちも、
山菜を抱えて戻ってきた。
「焼くにはちょっと少ないな」
羽をむしりながら、剣士が言う。
「…」
ちょっと考えてから
「魔法使いさん鍋出して」
魔法使いが鍋を出す
それを受け取り、水を張り、火にかける
「ミソペーストちょうだい」
娘がミソを手渡す
水を張った鍋に味噌を溶く。
「にゃにゃミソにそんな使い方が!」
「付けて食べるもんだと思ってた」
そこに山鳥を入れて煮込む。
聖女と魔法使いが取ってきた山菜も一緒に入れる
出汁は分からないが、それでも形にはなる。
「ほう……なかなか面白いのう」
エルフが興味深そうに覗き込む。
しばらくすると、香りが立ってくる。
「匂いは悪くねえ」
剣士が言う。
出来上がったものを皆で囲む。
「いただきますにゃ」
一口。
(……普通に食える)
いや、むしろ美味い。
山鳥の野趣溢れる味を、
ミソが程よくまろやかにしてくれる
「味も悪くねえな」
「身体に…染み渡る…」
「優しいお味で私好きですぅ」
「うむ塩味もちょうどよい」
「なるほど、付けるんじゃなく溶かしてスープにする」
娘が呟くと、
「閃いたわ!」
「名付けてミソスープ!」
「これは売れるわ!」
「あんた、やるわね」
「にゃ」
(完全なオリジナルではないんだけど…)
そんなことを思っていると、
近くを通りがかった旅人が足を止めた。
「すまん、少し分けてもらえないか?」
ロリ猫が応じる。
「いいにゃ」
旅人も輪に加わる。
――
食事をしながら、話になる。
北の方から来たという旅人。
「最近、北はどうなんだ?」
剣士が聞く。
「それが妙な話を聞いてな……」
旅人が答える。
「ケセモッサのさらに奥の方だ」
その名前に、何人かが反応する。
旅人は続ける。
「何かの集団が何か良からぬことをやっているとか」
「そんな話を耳にした」
「ケセモッサの北と言えば、白虎朱雀大戦の跡地じゃな」
「ああ、そこで間違いない」
「あの跡地には長らく誰も住み着いて無かったんだが…」
それ以上は深く語られなかった。
そして、旅人は飯の礼を言い、去っていった。
――
食事を終え、片付ける。
再び馬車に乗り込む。
しばらく進んだところで、
御者が顔をしかめた。
「……ちょっと変だな」
馬車が止まる。
「どうしたにゃ?」
馬車を確認しながら御者が言う。
「車輪にヒビが入ってる」
「今日はここまでだな」
「野宿か」
「すみません、今晩中には直すんで」
――
日が落ちてくる。
「飯は宿で食うつもりだったのになー」
「馬車の故障じゃ仕方ないのう」
「今から狩りは面倒にゃ」
「魔法使い、保存食は何がある」
「干し肉と、干し魚、あとは硬く焼きしめたパン」
「かーっ」
「硬いパン好きじゃねーな」
「何を言ってるにゃ」
「肉があるにゃ」
ロリ猫がタイチの方を見る。
「でも焼くくらいしか出来ないですよ」
「問題ないにゃ」
立ち上がって魔法使いを見る
「魔法使いさんフライパンはある?」
「…ある」
「油はある?」
「…ある」
「塩は?」
「…ある」
そしてロリ猫が懐からショーユを取り出す
「さあ!昨日の!作るにゃ!」
「作るって言ってもほんと焼くだけですよ」
火を起こしフライパンを温める
十分に熱したところで
油を引き
軽く塩を振り、切り分けた肉を入れる
じゅわーという音とともに香ばしい匂いが立ち上がる
「うう、この匂いだけで落ち葉でも食えそうだ」
「ウチは焚き木でも食えるにゃ」
ひっくり返して、裏も満遍なく焼く
「猫さんショーユ!」
「にゃ!」
ロリ猫からショーユを受け取り
肉の上に、一滴ずつ落とす
「はい」
とショーユを返す
「え?それだけにゃ?」
「ええ、これだけ」
「なんか思ってたのと違うにゃ」
フライパンに蓋をして火から下ろす
「出来たにゃ?」
「ちょっと肉を休ませるので待って」
「肉を休ませるなんて変な事するにゃ」
――もういいかな
「出来ましたよ」
「にゃにゃ?見た目は何も変わらないにゃ?」
「ショーユはつけたりしないの?」
「ええ、店主さんも言ってたけど
ショーユは強すぎて味が勝っちゃうので」
「あれくらいでいいと思います」
疑い深く肉を切り口に入れる
「なんにゃ!」
「これは!」
「大袈裟だな」
剣士も口に入れる
「え!!」
みんな口に入れる
「ウソっ」
「驚いたのう」
「何か、風味が増したと言うか…」
「…全然…違う」
「昨日のもすごく美味かったが」
「これはものすごくうまい」
「何でだ」
剣士が怪訝そうに言う
「いやぁ、なんとなくですけど上手くいってよかった」
「お前の"なんとなく"がオレは怖いよ」
焚き火の火が揺れる。
空を見上げると、
月が二つ、並んでいた。




