4-9 支店と、味見と
馬車は、変わらず進み続けていた。
さっきまでの騒ぎが嘘みたいに、またいつもの空気に戻っている。
「いやー、いい運動になったにゃ」
幌の上からロリ猫が軽い調子で言う。
(運動ってレベルか……?)
「むしろ足りねえぐらいだ」
剣士が鼻で笑う
「いや、十分でしょ……」
(この人たちの"足りる"ってどんな状況なんだろう…)
そんなやり取りをしていると、
「おおよそ予定通りですね」
御者が前を見ながら言った。
「この先の街が最初の中継地になります」
視線の先には、街道沿いに広がる小さな街が見えてきていた。
規模こそ大きくはないが、石造りの建物が並び、人の行き来も多い。
荷車が何台も停まり、行商人や旅人が行き交っている。
王都へ向かう者たちにとっての拠点の一つなのだろう。
馬車はそのまま速度を落とし、街の入口へと入っていく。
「来る時は、寄れなかったから楽しみにゃ」
ロリ猫はいつの間にか降りていて、辺りを見回していた。
「馬車は宿まで着けますが、皆さんもここで降りますか?」
御者がそう言う
「まだ、飯まで時間もあるし、ここで降りる」
剣士が馬車を降りる
皆もそれぞれに馬車を降りていく。
僕も後に続いて地面に足をつける。
土の感触と、街のざわめき。
どこにでもありそうで、でも少しだけ違う空気。
雑踏の中、
近くを歩く旅人が、看板を見上げて呟いた。
「前はこの辺りじゃ見なかったのにな」
「なんにせよわざわざ王都まで行かなくていいのは良いことだ」
「違いねえな」
そんな会話が、自然と耳に入ってくる。
「タイチ、こっちにゃ!」
ロリ猫が手を振る。
その先には、見覚えのある印が掲げられている。
鳳凰印。
「……あ」
「支店にゃ」
(さっきの会話はこれか!)
ロリ猫は迷いなく店の中へ入っていく。
「ちょっと、勝手に……」
言いかけたところで、もう他のメンバーも普通に続いていた。
「鳳凰印か。ここにもあるのか」
「王都以外でも増えてきたのう」
「王都に行かなくても手に入るようになるのは便利ですぅ」
「鳳凰印…侮れない…」
結局、流れのままに僕も中へ入る。
店内の棚には瓶や壺が並び、机には秤と銀皿が置いてある
調味料の販売所といった造りだった。
それぞれに札が付いている。
奥の台には、小皿がいくつか置かれていた。
店員が声をかける
「お味の確認もここで出来ますよ」
「試せるようになってるのね」
ロリ猫が棚を覗き込む。
「これ味見するにゃ!」
一つの壺を指差した
店員は瓶から小皿にとり、小さな匙を付けてくれる
匙の先に少しだけそれを付け、そのまま口に運ぶ。
「しょっぱいにゃ」
「変わらぬ味じゃの」
エルフはいつも通りといった感じだ。
僕も同じように少しだけ舐めてみる。
「……あ」
やっぱり。
どこかで知っている味。
でも、はっきりとは思い出せない。
「鳳凰印のミソペーストですよ」
店員が何気なく言った。
「ミソ……?」
「ええ。昔からある味なんですけどね。
最近は支店が増えて、ショーユソースと一緒に
この辺りでもお買い求めいただけるようになりました」
(ミソとショーユ?)
「…でも、さっぱり売れないんですよね」
「なんでにゃ?」
「やはり本店にお買い求めに来られる方は、
マヨソースをお求めになられる方がほとんどで、
あまり知られてないんですよね」
「なるほど遠路はるばる買い付けに来てマヨソース以外には興味がないというわけじゃな」
エルフが軽く頷く。
「鳳凰印と言えばマヨソースのイメージにゃ」
「ショーユソースの方はそれでも売れてるんですが」
「味はともかく私は見かけが」
聖女が苦手そうに言う
「そうなんですよね、皆さんこの見た目で食わず嫌いをなさるんです」
「一度でも試していただけたら、と思って支店にはこのスペースを作ったんですよ」
「でも、これと言って合う食材が分からなくて」
(確かに、味噌汁以外の使い道とか知らないな)
「これを溶いた使い方はしないんですか?」
「「!!」」
ロリネコと娘が反応する
「タイチちょっと待つにゃ」
「え、なに?」
「今、ビジネスチャンスの匂いがしたにゃ」
「今、何かうっかり言いかけてたでしょ」
(うっかりってそんな)
「焼きヘンネのマヨソースの件忘れたにゃ?」
「あんたが、うっかり口走ったせいでこっちは大損したんだから」
「得をしなかっただけで、損はしてないんじゃ…」
「大損にゃ!」
「ええー?」
店員がこのやり取りを聞いてくる
「興味深そうなお話ですね、お聞かせいただいても?」
「待つにゃ!タイチと話をしたければ、マネージャーのウチを通すにゃ」
「そうね、雇用主のあたしも通してもらわないと」
(いつから?)
――
娘が手短に焼きヘンネの話をする
「なるほどそう言うことでしたか」
店員は続ける
「確かに今からだと商人ギルドの審査は難しいでしょうね」
「やっぱり難しいにゃ?」
「そうですね、登録より先に広まってしまいましたから」
「だよね……」
娘が肩を落とす
すると店員がこう提案する
「もし、このミソペーストの良い食べ方があるのなら、それと一緒に申請してみてはいかがでしょう?」
「にゃ!?」
「タイチ!考えるにゃ!」
「いや、食べ方も何も……」
「ストップ!」
「とりあえずミソペーストを小瓶でちょうだい」
娘は言う
そして小声で、
「とりあえず、一旦引き上げましょう」
ロリ猫も
「確かに、作戦会議は必要にゃ」
そう言って小瓶のミソペーストを一つ買い店を後にした
何か引っかかる事があった気がするのだが
結局、いつもの調子に巻き込まれて
別の話に流れて分からなくなる。




