4-8 商機と、悪い顔
王都行きの馬車は、今日も進んでいた。
揺れにもすっかり慣れ、
特にやることもなく、ぼんやりと外を眺めていると――
「しかし、逃した魚は大きかったにゃ〜」
「毎日好きな物を食べる生活がぁ……」
前の席で、相変わらず二人が引きずっていた。
「もう、諦めなよ」
そう言ってなだめると、
「何よ!そう簡単に諦められないわよ!」
「そうにゃ!」
「そう言われても……」
「大体、あんたがさっさと商人ギルドに登録してたら!」
「そうにゃ?」
「だ、だって商人ギルドとか知らなかったし!」
「にゃ?」
一瞬、空気が止まる。
「……あの食べ方、タイチが考えたにゃ?」
「いや、まあ……なんとなく合いそうだなって」
「なんと……!」
「マジか!」
「……タイチ…なかなか…やる」
「タイチさんすごいですぅ」
「まあね!あれはうちの宿の“従業員の”タイチの考えた食べ方よ」
なぜか娘が得意げに言う。
(というか軽い手伝いで従業員になった覚えはないんだけど……)
――
「で、他にはないにゃ?」
ロリ猫が身を乗り出してくる。
「他?」
「そうにゃ。“合いそう”なやつにゃ」
「うまいこといけば、今度は逃さないにゃ……」
明らかに悪い顔をしている。
「いやそんな簡単に――」
「あるはずにゃ。タイチはそういうセンスがあると見たにゃ」
「センスって……」
「なんとなく、でセンスがイイってのが一番タチ悪いのよね……」
娘も腕を組んで頷いている。
(いやそんな大したことしてないと思うんだけどな……)
――
「おい、楽しいおしゃべりもそこまでだ」
剣士が会話を制止する
「にゃ?」
剣士は御者に
「止めろ」
馬車を止めさせる
剣士は剣を手に馬車を降りて
「おうおうおう!出てこいよ!」
「またそんな挑発して、逃げられるにゃ」
「いーや今回はそうでもないぜ」
ゾロゾロと出てきたと思ったら、ずらっと囲まれていた
「ひぃ!あっしは戦闘はからっきしですぜ!」
御者が逃げ腰で言う
「誰も期待してねーから心配すんな」
剣士は肩を回しながら、
「馬車に乗ってんのも、ちょっと飽きてきたところだ」
「あれぐらいなら一人で十分じゃろ」
エルフは降りる気配も見せない
魔法使いも聖女も気に留めてない
ロリ猫は、馬車の幌の上に飛び乗る
娘だけは
「王都のケーキ屋の新作もまだ食べてない」
「小説もまだ読み終わってない」
「素敵な人にも巡り合ってない」
「キスもまだしてない…」
悲壮な顔で一人ブツブツ言っていた。
(死んだら枕元に立つタイプの人だ…)
とりあえず馬車を降りる
「タイチも乗ってていいんだぞ」
「僕は見とくだけです」
「ほっとくと馬車まで斬っちゃうかもだから」
軽く冗談を言う
すると剣士は
「ははははっ!違ぇねえ!」
(冗談のつもりだったのに)
「おいおい!こっちを無視すんじゃねーよ!」
と馬車を囲む集団の一人が声を上げる
「うるせえな、お前らはなんだ?何の用だ」
「俺たちはここいらで悪事を働く盗賊団だ!」
(あ、それ自分で言うんだ)
「さっさと荷物と有り金を出しな!」
「ほう、悪事を働いてるって事は悪者なわけだ」
「悪者なんだから斬られても文句は言わねーよなぁ」
そう言う剣士の顔がもう悪者だった
「やっちまえ!」
盗賊が号令とともに襲いかかる
「右にゃ!」
ロリ猫が幌の上から指示を出す
「そっちから見て左です!」
「後ろにゃ!」
「後ろより左前の方が速い!」
「前にゃ!」
「いや、こっちに一人来てる!」
!!
……
…
――
剣士が縦横無尽に駆け抜けると
盗賊どもはあっという間にロリ猫に縛りつけられていた
「なんにゃ、口ほどにも無い」
――
馬車に戻ると、
娘が
「なんなの?あっという間に…」
「それがバルキリーだよ」
「てかなんであんたあの動き見えんのよ」
ちょっと考えてから
「…慣れかな?」
「慣れたら見えるもんなの??」
「まぁ今回もウチの指示通りで…」
「タイチだったな」
「タイチ…だった…」
「タイチさんでしたね」
「なんにゃなんにゃ!みんなして!」
「ウチの指示を横取りするんじゃないにゃ!」
「とにかくにゃ!」
ロリ猫がタイチに指を突きつける。
「次は逃さないにゃ!」
「え!?」
「王都で一発当てるにゃ!」
(まだ、その話をしてたのか)
「一発当てたらこっちのもんにゃ」
「王都で贅沢三昧かぁ」
娘がうっとりとする
「てか、バルキリーってお金持ってるでしょ!」
「それとこれとは別にゃ」
「お金は――」
ロリ猫が一呼吸置く
「いくらあっても困らないにゃ!!」
皆がロリ猫の熱弁に拍手する
…
「いや、王都の目的それじゃないでしょ……」
馬車は、変わらず進み続けていた。




