4-3 交渉と、礼節と
次の日の朝、ギルドで先日の報告をする。
「どうでしたか?」
「クイーンが居た」
「それで繁殖していたと?」
「まぁ、そう言う事なんだが」
エルフが口を開く。
「腑に落ちん」
「まず街道沿いの林でクイーンが居ることがまずない」
「もっと入り組んだ森や、地下の下水道とかなら分かるが」
「とりあえず駆除はしたが」
受付嬢は少しだけ考え込む。
「……報告は受理します」
「では、今日の依頼ですが――」
(バルキリーともなると向こうから依頼が来るのか)
「依頼者はもうすぐ来ると思います」
――
ギルドの扉が開いた。
入って来たのは、一人の商人だった。
派手なスーツに、指にはいやらしく光る指輪。
年配の男で、腕を組んだままこちらを見ている。
「お前らがバルキリーか?」
「そうにゃ」
「お前らが、ここら一帯で一番強い冒険者パーティーだと聞いて来た」
「それほどでもあるにゃ」
嬉しそうに胸を張る。
商人は依頼内容を話し始める
「荷物の護衛を頼みたい」
「わしの屋敷から隣町までだ」
「オッケーにゃ」
褒められて気をよくしたロリ猫は、
話も聞かず即答する
「…え?」
商人の言葉が止まる
(そりゃ、そうなるよな)
「ただし、中身は教えられん」
「受けるにゃ」
「……え?」
商人の眉がわずかに動く
「いや、まだ条件をだな」
「大丈夫にゃ」
(最後まで話させてあげて…)
「猫さん、一応最後までお話を聞いてみましょう」
商人に、助け舟を出す
商人はふんと小さく息を吐きながら口を開き、
一方的に条件を並べ始める
「荷物は壊れ物が多数ある」
「狙われている可能性がある」
「時間厳守で、遅れは認めん」
「途中で離れることも許さん」
「荷には触れるな。開けるな」
「守るだけでいい」
「やるにゃ」
「……分かっているのか?」
商人の目が細くなる。
「中身も、相手も分からん護衛だぞ」
「大丈夫にゃ」
(いや絶対分かってない)
空気が少し重くなる。
「……すみません」
口を開く。
「ちょっと、いいですか」
商人がこちらを見る。
「なんだ」
(どこから聞けばいいんだ…)
少し整理する
「まず、時間厳守ですが、どの程度まで許容ですか?」
「一刻でも遅れれば無効だ」
「分かりました。では到着希望時刻を教えてもらえますか?」
「到着時刻は明日の夕方まで」
「護衛は荷物だけでいいんですか?」
「……わしも死ぬわけにはいかんがな」
「優先順位はどうしますか?」
「荷だ」
(即答か)
「分かりました」
「荷物は、確認することも出来ないんですか?」
「一切ダメだ、変に触って壊されでもしたら困るからな!」
(触れないのか…)
「荷物が壊れたとかの判断はありますか?」
商人は少し考える。
「……その場で判断する」
(それ一番困るな…)
ぽつぽつと聞いているうちに、
なんとなく護衛内容が見えてくる。
「……そんなもんだ」
商人が腕を組み直す。
「分かったか?」
「たぶん……」
(完全には分かってないけど)
横を見ると、
バルキリーたちは半笑いのまま、目が泳いでいる。
(この人たちダメだ……)
「それなら荷物を守る人間はそちらで用意してください」
「こっちは繊細な作業には向いてません」
「メインは襲撃者の撃退でいいですか?」
「……ああ」
商人が短く頷く。
すると、目を輝かせた剣士が言う
「撃退なら、任せとけ!」
(今まで聞いてなかったくせに…)
「それなら出来ると思います」
「なら交渉成立だ」
するとロリ猫が立ち上がる。
「まとまったなら行くにゃ、時間厳守にゃ!」
(あんたが言うな)
――
一行はそのまま屋敷へ向かい、
屋敷の使用人たちと合流する
大きな荷車を引いた馬車が一台
それと、商人と使用人が乗る馬車が一台
番頭らしき男が商人に代わり説明をする
「ルートは森を迂回しつつ、峠を越える道で行く」
「峠ルートか」
剣士が考えながら言う
「森より峠の方が安全だと判断した」
「街道の平野の方がもっと安全だが?」
そう剣士が返すと
「街道ルートでは明日の夕方に間に合わん、苦渋の決断だ」
「街道は時間的に厳しいんだな、わかった」
(意外とちゃんとしてるんだな)
そうして森を迂回した峠に向かう
森ではないと言っても草木が生い茂っていて死角が多い
中腹まで進んだ頃に丸太が道を塞いでいた
「これは居るにゃ」
「ああ、子供騙しの手口だ」
剣士は剣に手をかける
「どう言うことですか?」
「道に障害物を置いて、それを排除しようと手間取っている隙に襲いかかる手口じゃな」
エルフが教えてくれる
すると、程なく数十人の集団が四方から襲いかかってきた
ロリ猫が
「血がたぎ…」
「ダメです!ここではたぎらせないで!」
ロリ猫は荷を引いた馬車の御者の横にしゅんと座る
後方のエルフと聖女は
なんか黒いのと、聖なる光の、なんか触ると危険なやつを出そうとする
「ストップストップ!もっと向こうで!もっと離れたとこで!」
荷を引いた馬車に盗賊が目をつけると離れていた剣士が
一直線に剣を構えて走りだす
その動線の間には商人を乗せた馬車がある
「優先順位は荷物だったよなあぁぁ!!」
このまま行くと
盗賊もろとも商人の馬車も斬ってしまう
「ダメダメダメー!」
「なんだタイチ止めるな!」
「荷物が優先だけど、だからって商人さんごと斬っちゃダメ!」
「そうか…」
勢いを落とし、商人の馬車を避けて回り込む
魔法使いは主に前方の盗賊たちに爆発魔法を放ち足止めしている
爆発を逃れた盗賊たちが魔法使いの横を抜け、
馬車に近づいてくると
詠唱しながらこちらを向く
(え、それはアカン)
魔法使いの元に走って行って
魔法使いの向きを変える
魔法はあさっての方向で大爆発する
(こんな魔法をこっちに向かって撃とうとしたのか)
盗賊たちは散り散りバラバラに逃げ出した
商人の馬車の御者をしていた番頭が
「こりゃヘルバルキリーって言われるわけだ」
(僕もそう思います)
そして、一行は山間の峠の折り返し地点に差し掛かる
「ここからは下り坂だ」
すると、一匹の狼が目の前に現れる
「ありゃ斥候だ、囲まれてるな」
見渡すと山間の崖に狼が多数居た
「ああいうのは楽だ」
剣士がそう言って崖を駆け上がると
あっという間に狼を撃退した
そのまま一行は進む
日も落ちかけた頃
中腹のひらけた場所に着いた
「今日はここで野宿する」
番頭が使用人たちに号令を飛ばす
(野宿!?初めてだ)
商人一行は簡易的なテントを設営していく
その様子をわくわくしながら見ていると
「バルキリーの皆はここで休まれよ」
と大きめのテントの一つを当てがってくれた
夕食も用意されて、食事をとり、
テントに入る
みんな装備を外し、軽装になってる中
聖女だけなんかスケスケの寝巻きを着てる
(ああ、この人に羞恥心は無いのだろうか)
「さあ、寝る場所決めるにゃ」
「タイチどこにするにゃ」
「聖女さんの横じゃなきゃどこでもいいです」
「なんでですかー」
聖女は不満そうだが、あんなのの横では寝れそうもない
そして、剣士とロリ猫の間で寝る
山道を歩き慣れてないせいか
すぐに寝てしまった
――
剣士がガバッと起き、その動きで目を覚ます
「来た」
(全く分からないが)
「何かに囲まれたにゃ」
ロリ猫も起きる
魔法使いはウサちゃんを抱えたまま微動だにしない
聖女は、、
……寝相が悪かった
エルフも起きて
何かに集中すると
ロリ猫に
「捕まえて来れるか」
と問う
「朝飯前にゃ」
と音もなくテントを飛び出す
「終わったにゃ」
すぐに、帰って来た
「さ、もう一眠りするにゃ」
朝起きると
設営したテントの、横の大木に
数人の黒ずくめの男たちが縄で縛られていた
エルフが番頭に
ギルドに伝令をお願いすると
番頭は鳥の足に何か書簡を付けて空に飛ばした
エルフに聞く
「あれって、こないだの…」
「多分同じ集団じゃろうな」
「こないだは逃してギルマスに怒られたからの」
そして、朝食をとり
出発の準備が出来た
「よし出発する!」
商人が号令をかける
「え、あれ、あのままでいいんですか?」
木に括られたままのを見てエルフに聞く
「連れ歩くわけにも行かんからの」
「ギルドに引き取りに来るように伝令を出した」
(あ、さっきの鳥ってそれか)
そうして護衛任務は無事終了し
隣町に入った
一行が屋敷に到着すると
商人の息子夫婦と
孫娘が出迎えてくれた
積荷の中身は
この孫娘の誕生日プレゼントだった
商人の息子は
「どうも父が無茶を言ったようですみません」
と軽く礼を言い
「大事な孫娘の誕生日プレゼントを遅らせるなんて格好の悪いこと出来るか」
「おじいちゃま、ありがとう」
と商人に抱きつく
そして孫娘がバルキリーを見て
「おじいちゃまこの方達は?」
「お前のプレゼントを守ってくれた人たちだよ」
「わぁ、お姉ちゃんたちありがとう」
スカートの両端をちょんと持ち上げて
礼をする
(わ、可愛いなぁ)
と微笑ましく見ていると、
剣士はその小さなレディに対して
右足を引き上体を軽く倒し返礼する
(え?)
ロリ猫と他のメンバーも膝を曲げて腰を下ろす
(え?え?えー!)
戸惑っていると
剣士が
「オレの真似しとけ」
と言うので
剣士の真似をして右足を引き上体を倒す
「ただの、荒くれ者の集団かと思っていたが、なんと礼儀正しいことか」
「こんな小さな子が精一杯のお礼をしてくれてんだ」
「礼儀を欠いたら、大人がすたるってもんよ」
剣士がそう言うと、商人も
「なるほど、わしも考えてみれば礼儀を欠いておった」
「改めて正式に礼を言う」
「感謝する」
同じように右足を引き上体を傾け謝辞を述べる
「おっちゃんも最初っからそうしてたら邪険にしなかったにゃ」
(おっちゃんて…)
すると商人は大きな声で笑い出し
「はっはっは!確かにその通りだ!」
「報酬は上乗せするから、期待していいぞ!」
ロリ猫がドヤ顔でこっちを見て言う
「計算通りにゃ」
(ホントにー!?)




