1-3 ギルド受付と、読めない文字と、今日の宿
中は思ったより広い。
人が多い。
装備の匂いと、汗と、酒の気配。
木の床を踏む音が、絶えず響いている。
正面に、木製のカウンターがあった。
その端に、小さなサインプレートが置かれている。
何か文字が書いてある。
――読めない。
(……やっぱり、この世界の文字は分からない)
カウンターの向こう側に、受付嬢が一人座っていた。
(ギルド嬢だよな?)
目が合う。
彼女は慣れた様子で、淡々と口を開く。
「冒険者登録ですか?」
(登録……ここからか)
「はい」
即答した。
受付嬢は、紙束を取り出す。
そこにも文字が並んでいるが、当然読めない。
「身分証はありますか?」
(身分証……ない)
「ありません」
「分かりました。では、こちらで確認します」
「お名前は」
「タイチです」
「タイチさんですね」
彼女は手早く何かを進め、次に小さな木札を示した。
そこにも文字。読めない。
けれど、流れ的に「署名」か「承諾」だと察する。
僕は頷いた。
そうすると、ギルド嬢は奥から何やら水晶のようなものを出してきた。
「簡易的ですが、これであなたの冒険者ランクが判別できます。」
(おお、これぞ異世界)
(これで「こんな反応あり得ない!」とか「なんだこの数値は!」とかなって……)
「あの、こちらに手を」
「あ、はい」
手を乗せる。
「こんな反応ありえない」
(やはり!)
歓喜したのも束の間、
「……ここまで低い反応は、なかなか。」
(ですよね。)
受付嬢は小さく息を吐くと、淡々と言った。
「登録はできます。ですが――」
僕を申し訳なさそうに見ながら、
「最低ランクですね」
「……はい」
「最低ランクですと、受けられる依頼は限られていますが」
「とりあえず登録お願いします」
「分かりました。今日はもう遅いので、きちんとした説明は明日にしましょう」
「宿はもうお決まりですか?」
「いえ、今着いたばかりなので何も」
「それでしたら、ギルドおすすめの宿を教えますね」
(……助かる)
正直、今日は情報が多すぎた。
体も、少しだるい。
あの白黒反転の感覚が、まだ胸の奥に残っている。
「宿は、城門を入ってすぐの通りにあります」
受付嬢は地図を一枚、差し出してきた。
線と印だけが頼りだが、ありがたい。
「それと、これ」
小さな札を渡される。
(……これも文字だらけだけど)
「仮の登録証です。無くさないでください」
「……ありがとうございます」
受付嬢は、事務的に頷いた。
「では、タイチさん。また、明日。」
その一言で、今日が終わる実感が湧いた。
僕は札と地図を握りしめ、ギルドを出た。
(今日はもう、疲れた)
まずは宿。
それだけ決めて、街の明かりの中へ歩き出した。




