1-2 城門と銀貨と、最初の一歩
……
…
――
気がつくと、草原に倒れていた。
息を、大きく吸い込む。
(はっ……はっ……)
――生きてる。
空気の有り難みを感じつつ、ステータスを見る。
一本のメーターの青色部分が、さっき見た時よりも減っている。
(……もう一回)
もう一度試す。
『時間操作』
世界が白黒に反転する。
だが、やはり。
体が動かない。
呼吸ができない。
そして、また意識が遠のく。
……
気がつくと、草原に倒れていた。
息が、うまく吸えない。
遅れて、空気が肺に入ってくる。
(はっ……はっ……)
気がついた時には、減っていたメーターの一つが、赤く変わってさらに減っていた。
(……これ、多分、あかん)
魔力なのか、体力なのか、
意味は分からずとも、青はセーフ、赤は危険信号。
絶対そう。
スキルの検証は、一旦中止。
倒れたまま、ステータスウィンドウを眺めていると、端の方に小さな袋のイラストがあるのに気づく。
意識を向けると、目の前に絵だけで構成された一覧が現れた。
金色の丸。
銀色の丸。
黒い長方形。
白っぽい本。
ペンのようなもの。
布のようなもの。
紙切れのようなもの。
(……これは)
(……あれだ)
(アイテムボックスだ)
それぞれ見たことのない文字だが、イラストが描かれている。
金色の丸は金貨。
銀色の丸は銀貨。
黒い長方形を取り出す。
――スマホだ。
電源は入る。
アンテナは、圏外。
(……当然か)
白っぽい本はノートだった。
ペンのようなものはボールペン。
布のようなものはタオル。
紙切れのようなものは、コンビニのレシートだった。
(なぜ?)
この世界の通貨らしきものと、最後に持っていたものが入ってた。
手に持ったまま、アイテムボックスを意識すると、
シュッと手の中から消えた。
異世界っぽいギミックに感動する。
しばらく出したりしまったりを楽しむ。
……ひとしきり楽しんで。
――とりあえず。
スキルのことは、今は考えない。
まずは――この世界で生き延びなきゃ。
(……街に行こう)
城壁の方へ歩き出した。
草原を抜けて、街道に出る。
さっきまで遠くに見えていた城壁は、思ったよりもずっと高かった。
灰色の石で組まれた分厚い壁。
ところどころに見張り台があり、門の前には武装した衛兵が立っている。
(……でっか)
完全に中世ヨーロッパ風だ。
近づくにつれて、視線を感じる。
キョロキョロしすぎていたのか、
通行人が、ちらりちらりとこちらを見る。
城門の前まで来ると、衛兵の一人が一歩前に出た。
「止まれ」
低い声。
近くで見ると、かなり怖い顔をしている。
無精ひげに鋭い目つき。鎧も年季が入っていた。
「通行証は?」
(……通行証?)
一瞬、詰まる。
「……冒険者です」
これからなるのだから、間違ってはいない。
衛兵は僕をじっと見てから、短く頷いた。
「登録前か。なら通行税だ」
「銀貨五枚」
(なるほど)
意識を向ける。
金色の丸。
手の中に、ずしりとした重みが生まれる。
金貨を一枚、差し出した。
衛兵はそれを受け取り、軽く噛んで確かめると、隣の兵に目配せした。
しばらくして、小箱から銀貨が戻ってくる。
――銀貨、七枚。
(あれ?)
「お釣り多くないですか?」
「なんだお前、どこの田舎から出てきたんだ!
計算もできないとは……いいか!
城内ではけっして問題を起こすんじゃないぞ!」
少し怒り気味に言い、
衛兵は小さな木札を一枚、差し出してきた。
「これが通行証だ」
受け取ると、表面には簡単な刻印が彫られている。
「城内にいる間は携帯しろ。無くしたら――」
衛兵は淡々と言った。
「もう一度、通行税を払ってもらう。銀貨五枚だ」
(……無くしたら痛いな)
「分かりました」
「ありがとうございます」
門が、ゆっくりと開く。
街の中へ、一歩踏み出した。
一気に、音が増える。
人の声。
馬のいななき。
荷を運ぶ音。
どこかで金属を打つ響き。
活気がある。
通りには木造や石造りの建物が並び、商人や冒険者らしき人々が行き交っていた。
ケモ耳の人もいる。尻尾が普通に揺れている。
(……ほんとにいるんだな)
不思議と、怖さはなかった。
街を見回すと、
建物の軒先や、道の角に、小さな板に文字と絵が描いてある。
(……読めない)
ステータスも読めなかった。
つまり、この世界の文字そのものが分からない。
胸の奥が、少しだけ冷たくなる。
だが、立ち止まっても仕方ない。
少し歩いていると、後ろから声が聞こえた。
「初めての街だろ」
振り返る。さっきの衛兵だ。
「冒険者なら、まずギルドに行け」
「登録も仕事も、全部そこでやる」
そう言って、通りの奥を指さした。
「この道をまっすぐ行けば、剣と盾の紋章が出てくる」
「迷うなよ」
「……ありがとうございます」
その一言が、なんだか胸に残った。
(怖い顔してるのに優しいな)
歩き出してすぐ、剣と盾の意匠が彫られた建物が目に入る。
分かりやすい紋章。
(……ギルドだよな、これ)
一度深呼吸して、扉を押した。




