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1-1 草原と、出ないステータスと、白黒反転


目を覚ました。


――というより、意識が戻った、という方が正しい気がした。


空が広い。

やたらと広い。


寝転がったまま視線を動かすと、視界いっぱいに青空が広がっていた。

雲が、ゆっくり流れている。

風が吹く。草が揺れる。


(……え?)


体を起こす。

そこは草原だった。


見渡す限り、草、草、草。

少し離れた先に、舗装された道が一本走っている。

その道の先には、城壁で囲まれた大きな街。


(……異世界だ)


疑いようがなかった。


転生。

あの白い部屋。

適当な代理。

黒い渦。


夢ではなかった。


「キシモトタイチ。転生、する?」


その言葉が、遅れて頭の中で響いた。


――


転生。


その言葉を聞いた瞬間、


超が付くほどラノベ好きの親友――タダシの顔が頭に浮かぶ。


脳内のタダシは、ドヤ顔でこう言う。


「異世界転生はな」

「スキルで決まるんだぞ」


そう考えている間に、


目の前に、文字の羅列が浮かび上がった。


剣に関するもの。

魔法に関するもの。

加護に関するもの。

耐性に関するもの。

特殊能力に関するもの。


ずらりと並ぶ選択肢。


正直、何を選べばいいのか分からないまま、


その中で――


時間操作


という文字が、目に飛び込んできた。


(……時間)


「気になる?」


「時間を止めたり、遅らせたりする系だね」


(止められるんだ)


「条件付きだけど」


条件が付いていても……止められるなら、それがいい。


「じゃ、それで」


即答だった。


タダシなら、絶対これだ。


「まあ、タダシなら間違いなくそれ選ぶよね」


「知らんけど」


どうにも不安になるやりとり。


代理は、一瞬だけ間を置いた。


「……じゃ、これでいいね」


「選択、確定」


白い床が歪み、黒い渦が開く。


「いってらっしゃい」


「ちょ、待――」


「魔力無いと困る!」


「お金ないと困る!」


「喋れないと困る!!」


「服がこのままだと困る!!!」


「おけ」


落ちる。


世界が裏返る。


その直前。


「……あ」


「しまった」


(しまった?)


聞き返す前に、意識が遠のいた。


……



――


色々と気になるが、


とりあえず状況確認。

タダシから何百回と聞いた、異世界転生したらまずやるやつ。


――ステータス。


「ステータス」


……何も起きない。


(……違う?)


「ステータス、オープン」


声を張る。


「ステータスオープン!」


反応なし。


小声で。

「……ステータスオープン」


強調してみる。

「ステータス・オープン」


語尾を変える。

「ステータスオープン……?」


イントネーションを変える。

区切る。

早口。

ゆっくり。


思いつく限り、全部。


――何も起きない。


気づけば、街道を歩いていた人間が、ちらちらとこちらを見ていた。


(やばい)


確実に不審者だ。

これ以上ここで続けるのは無理だと判断して、街道から外れ、草むらに移動する。


腰を下ろす。

深く息を吐く。


(……はぁ)


何が違うんだ。

何が足りない。


もう一度口に出そうとして――やめた。

これ以上声を出す気力もない。


諦めかけて、ただ目を閉じた。


異世界の風が、思ったより心地よい。


(……ステータス見れないとか)


そう思ったとたん――


――ピッ


かすかな音とともに、瞼の裏に文字が浮かんだ。


読めない文字。

見たことのない言語。


(……え?)


驚いて目を開ける。

消えた。


もう一度、目を閉じる。

――浮かぶ。


(……なるほど)


(目を閉じてると、見えるのか。)


読めない文字が並び、一番下には何かを問うように文字が点滅している。


何かは分からないが、


試しに、口の中で答えるように。


「……はい」


――ピッ


文字が切り替わった。


(やっぱり何かを聞いてきてたんだな)


「……はい」


――ピッ


さらにもう一度。


「……はい」


――ピロリン。


次の瞬間、頭に直接、短いアナウンスが流れ込んできた。


――ステータスの設定が完了しました。


目を開ける。


「ステータス」


視界に、半透明の何かが重なった。


次の瞬間、それが一気に流れ込んでくる。


文字の羅列が、視界を埋め尽くすように押し寄せた。


「おお!おおお!」


――……


やっぱり読めない。


意味不明な項目とともに、青色のメーターが何本か並んでいる。


(……なにこれ)

(ステータス……だよな?)


何も分からないが試してみないと始まらない。


そのまま、スキルを意識してみる。


『時間操作』


再び、瞼の裏に文字が浮かぶ。


(……まだあるのか)


「……はい」


――ピッ


文字が切り替わる。


「……はい」


――ピッ


文字が切り替わる。


「……はい」


――ピロリン。


三度目の音のあと、短いアナウンスが流れ込んできた。


――スキル設定が完了しました。


(……設定?)


すべて「はい」にしたら出来たみたい。


そうしてもう一度スキルを意識してみる。


『時間操作』


世界が――白黒に、反転した。


音が消える。

風が、止まる。


(……止まった?)


草の揺れも、空気の流れも、すべてが張り付いたみたいに動かない。


(すげ……これ、時間止まってる……!)


胸が高鳴る。


一歩、踏み出そうとして――動かない。


(……あれ?)


足に力を込めたつもりなのに、地面に縫い止められたみたいに身体が反応しない。

腕も上がらない。


重いというより、指一本すら動かせない。


胸の奥が、きしむような違和感。


息を吸おうとして――吸えない。

肺が膨らまない。


(――っ!?)


直感的に分かった。


これは、絶対にやばい。


意識が遠の――


……。

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