3-11 記録と、命と、白黒反転
一人になった
最初は開放感で満たされていたが
何もすることが無い
気を紛らわすと言うわけでもないが
薬草採取に出る
――
バルキリーのクエストに同行していたため
しばらくぶりの薬草採取のクエスト
森を移動しながら薬草を採取する
一人は気楽でいいと思ったが
森の静けさの中
採取していると
何か急に寂しくなった
大きい籠でもすぐにいっぱいになり
ギルドに戻るとギョッとされる
――
次の日、ギルドに行くと
にこやかに微笑む受付嬢の横に
籠が二つ用意されていた
籠を二つ抱えてクエストに出る
二つの籠もさほど時間はかからず、いっぱいになっていた
一度ギルドに戻り、再び森に入る
それでも昼過ぎにはいっぱいになってしまうので
宿の手伝いをする
それを何日か繰り返していると
また記録更新だとかギルドがざわついた
――
何日目かの昼前、
一回目の籠がいっぱいになり戻る途中
カーンカーン
大きな鐘の音と
大声で叫ぶ声が聞こえた
「魔獣だ!すごい数だ!」
「みんな門の中に入れ!」
悲鳴や怒声が飛び交っている
これは、ただ事じゃない
――
急いで森の入り口まで戻る
まだ人が残っている
薬草採取の老人と子どもたちだ
老人はこっちを一目見ると
「おお、兄ちゃん、子どもたちを連れてってくれんか?」
「わしは早くは歩けん、せめて子どもたちだけでも…」
すぐに薬草の入った籠を置き
老人を背負う
「せっかく採った薬草を、」
「そんなのどうでもいいです!」
老人は食い下がる
「だけど、薬草置いて行ったら兄ちゃんの記録がストップしちまう」
「そんなの、人の命より大事なわけないです!」
――
老人をおんぶしながら
子どもたちとともに門へ移動する
街に入ると
すでに魔獣が侵入していた
たくさんの、傷ついた衛兵たちと
あちこちに転がる魔獣の死骸。
街中ではまだ残っている魔獣を衛兵たちが叫びながら撃退している
その一方、門の前では魔獣の侵入を食い止めている
門の外では、なお魔獣の群れが押し寄せていた
後方の衛兵がタイチたちを見つけると
「早く!石壁の建物の中へ!」
と避難を促す
――
石壁の建物がどれか分からず躊躇していると
「タイチ!こっちだよ!」
声がする
宿の女将が奥の建物から手を振っている
「あそこか」
老人を背負ったまま、子どもたちと向かう
建物の中に避難すると
子どもたちの姿を確かめる
一人足りない
まだ遅れて建物の外にいた
その後ろから、熊のような魔獣
大人の背丈の倍くらいある
子どもは怯えて、その場から動けずにいる
急いで子どものところまで行き、抱え上げる
熊のような魔獣が迫る
「坊主!子どもを連れてさっさと行け!」
この街に来た時に道を教えてくれた衛兵だ
魔獣の前に立ち塞がり
時間を稼いでくれる
――
子どもを建物の中に避難させ
振り返ると
衛兵は一人で魔獣を押し返そうとしていた
踏み込み、剣を振る
しかし、戦力差は歴然だった
確かに当たっていた
だが、まるで効いていないかのように
魔獣は腕を振り回した
右に払われ、盾が飛ぶ
左に払われ、剣が飛ぶ
その様子を黙って見ている事しか出来なかった
そして
無防備になった衛兵に魔獣が振りかぶる
その時、剣士の別れ際の一言が頭をよぎる
「――逃げんじゃねーぞ」
その言葉が身体を動かした
間一髪で衛兵をわずかに押し
魔獣の軌道から逸らせることが出来た
魔獣は腕を空振りさせ
タイチの方に目を向けた
近くで見ると、さらに大きい
魔獣がぴくりと動いた
その刹那
世界が反転した
――
振りかぶった魔獣の爪が
頭のすぐ上に迫っている
動けない
息ができない
(タダシに無茶しないって約束したのにな…)
…
『あ』
声がした
そして意識が途切れた
……
…




