3-2 料理の準備と、白いソースと
「ほら、手止まってるよ」
「すみません」
夕方。
宿の厨房では、
串打ちの作業が続いていた。
女将がヘンネの肉を一定の大きさに切り分け、
タイチが一本ずつ丁寧に刺していく。
単純作業。
だが、数が多い。
「明日、ギルドに持ってくんだからね」
「はい」
「冒険者どもは馬鹿みたいに食うからね」
「はい」
「だから、手ぇ抜くんじゃないよ」
「はい」
切り分けられたヘンネが、
タイチの前に次々と積まれていく。
手を動かす。
刺す。
並べる。
また刺す。
段々とペースが上がってくる。
刺す。並べる。また刺す。
刺す。並べる。また刺す。
「何それあんた。気持ち悪いぐらい早いわね」
横で、引き気味に娘が言い、女将に顔を向ける。
「ねえ、それさ」
娘が厨房の瓶を指差す。
「せっかく持って帰ってきたのに、全然使ってくれないじゃん」
「鳳凰印の有名なやつなんだよ?」
瓶の表面には、
火の鳥のような絵が描かれていた。
(これが鳳凰なのかな)
「ふん」
女将は興味なさげに返す。
そして顔をしかめながら続ける。
「ちょっと舐めてみたけどね」
「あたしゃあの酸っぱさはダメだね」
「えー」
「うちには合わない味だよ」
そう言いながら、
また串に手を戻す。
「じゃあ、あんたはどう?」
娘が瓶を手に取る。
「特別に一口、味見させてあげる」
「いらないよ」
「いいからいいから!」
半ば強引に押し付けられる。
仕方なく、指先に少しつける。
ちょん、と。
口に入れる。
(あ、この味)
覚えがある、この味を知っている。
(…マヨネーズだ)
「急に黙ってどうしたのよ?」
娘が首をかしげる。
「これ、生野菜とかに合うと思います」
「生野菜?」
「あと、そうだ、焼きヘンネ」
「あのタレとなら相性良さそうです」
「焼きヘンネねえ」
女将の手が止まる。
しばらく沈黙。
「……ほんとかい」
「多分」
女将は無言で一本取り、
タレに浸して手早く焼き始める。
火加減は完璧。
じゅう、と音が立つ。
タレの焦げるいい匂いが広がった。
焼き上がる。
「……」
白いソースを、
ほんの少しだけつける。
恐る恐る。
口に入れる。
「……!」
一瞬で顔が変わる。
「なんだい!!」
声が裏返る。
「合うじゃないか!」
娘が驚く。
「え?」
「ヘンネのタレと……」
もう一口。
「いいじゃないかこれ!」
「え、ほんとに?」
娘も食べる。
「……え、なにこれ、美味しい」
顔を見合わせる。
「明日のギルド、これでいくよ!」
「え、そんなにないわよ!?」
「じゃあ探してきな!」
「近所のレストラン!」
「分けてもらえるか聞いてきな!」
娘は慌てて走り出す。
「ほら、あんたも一緒に行くんだよ!」
「え、僕もですか!?」
外に追い出される。
――
静かになった厨房。
女将はもう一本焼いた。
白いソースをつける。
食べながら、ぽつりと呟く。
「……こりゃ、手が止まらないね」




