2-12 月と、異世界バトルと
夜空に、二つの月が再び並ぶ。
スマホを取り出して、画面を確認する。
画面に、通知が表示される。
タダシから、メッセージが届いています。
[また気づいたら連絡してくれ]
通話ボタンを押した。
コール音。
一回。
二回。
――繋がった。
「ああ……届いたか」
一拍置いて続ける。
「そっちはどうだ?」
「何も変わんねー
元気元気。そっちは?」
「ああ、こっちも元気だ」
「良かった、そんでさ、昨日さ、オークに遭遇したんだよ」
「オーク!?ってあのオーク?」
「そうそう、あのオーク」
「…で、無事だったのか!?」
「全然無事、俺かやの外だったし」
そしてバルキリー達の話が始まる。
「…で、そのオークに犬みたいな片目の剣士が走っていったかと思ったらさ、
あっという間にまっぷたつ」
この世界に来てからいわゆる異世界バトルとは無縁の日々だった。
なので、
昨日初めて目の当たりにしたバルキリー達の戦いの話にも熱が入る。
「魔法使いが詠唱したら大爆発」
「エルフの体から黒いのが出てきて、
一瞬で絶命させるし」
「いや、そこは弓ちゃうんか」
「持ってたんだけどね。
なんか、使ってなかった」
「そんで胸の大きな聖女もいて」
「胸…」
「ピカーっと光ったら、オークが灰に」
「情報量多すぎて置いてかれ気味だが、すごいのは分かる」
「こっち来て一ヶ月くらいなのにさ、
色々ありすぎて大変なんだよ」
「……一ヶ月? え?」
「あー……見逃してるのかもな」
「なあ、タイチ」
「今度からさ、月が出てたら一応スマホ確認してくれない?」
「おう、おけおけ
この通話が俺の癒しだからな」
「……あ、そうだ」
「また強制発動あったんだ」
「だからそっちの話が先だろ!」
「桶投げられて発動したんだけどさ」
「……は?」
「なんかさ、動いてる気が」
「ちょっと待て、桶ってなんだ」
「風呂入ってたんだよ。
そしたら宿屋の娘が、
俺入ってんのに入ってきちゃってさ」
「待て待て待て、なんだそのシチュエーション」
「ほんと参ったよ。
俺が被害者だっつーの」
「なんで異世界行ったのがお前なんだよ!
俺がかわりた――」
ノイズが走る。
「でもさ」
少しだけ、声の調子が変わる。
「こっち来たのがタダシじゃなくて良かったよ」
「……は?」
「だって、お前がこっち来たら、
母ちゃん残すことになっちゃうもんな」
一瞬、言葉が止まる。
「俺はほら、
じいちゃん死んでからずっと一人だったし」
「……」
「絶対そっち行ってやるからな!」
ノイズが混じる。
「だからその時まで死ぬなよ」
「ああ」
「待ってる」
ノイズ混じりの中、
小さく、そう返した。
――
そこで、途切れた。
――
しばらく、耳に残るノイズだけが続いていた。
空を見上げる。
二つの月は、離ればなれに夜空に浮かんでいた。




