1-11 街と、違和感と
森を抜けて、街に戻る。
門をくぐると、何人かの視線がこちらに向いた。
(……?)
すぐに逸らされる。
(……なんだ?)
理由は分からないまま、ギルドへ向かう。
扉を開けると、受付嬢と目が合った。
その瞬間、表情が少しだけ崩れる。
「……どうしたんですか、それ」
(それ?)
(ああ、怪我のことか)
「ちょっと切れちゃって」
指で頬を示す。
受付嬢は一歩近づいて、じっと見る。
「それ、薬草……ですよね」
「はい」
「……ああ」
少しだけ納得したように頷く。
「傷の時は、普通は潰して塗って、その上から布を当てるんですよ」
「え」
「もちろん、その使い方でも間違いではないんですが……」
少しだけ言葉を選んでから、
「そうしてる人は、見たことないですね」
(ああ……)
そこでやっと理解した。
(だからさっき、みんな……)
街での視線と、笑い。
全部繋がる。
「……なるほど」
薬草を外す。
少しだけ恥ずかしい。
受付嬢はいつもの調子に戻り、手続きを進めた。
薬草を納品する。
いつも通りのやり取り。
特に何も言われない。
ただ、
まだ、視線が残っていた。
――
宿に戻る。
まだ昼過ぎなのに、
中は妙に人が多かった。
(……?)
いつもより、明らかに騒がしい。
行き交う声も、少しだけ浮ついている。
「今日は本番だからねぇ」
女将が、何気なく言った。
(本番?)
「ツングルスクさ」
(……ああ)
名前だけずっと聞いている祭り。
何の祭りなのかは、よく分かっていないけど。
「今日も早いねぇ」
「はい」
「早速だけど、手伝ってもらっていいかい?」
「いいですよ」
女将は奥を指さす。
「このヘンネを、どんどん串に刺していってくれないか」
「分かりました」
(……こういうのは、好きだ)
単純作業。
考えなくていい。
手を動かすだけ。
それだけで、いい。
――
作業を終えて、部屋に戻る。
(……ツングルスク、か)
何かは分からない。
でも、
今日は、いつもと少し違う夜らしい。
――
ギルド内。
奥の一室。
ギルドマスターと受付嬢、
そして、腰に剣を携えた女が立っていた。
「で、どうだった?」
ギルドマスターが腕を組んだまま問う。
女は、短く答える。
「当てるつもりだったけど、当てるつもりじゃなかった。
だから当たらなかったけど、当たってた」
「どういう事だ」
眉をひそめる。
「まさか殺したんじゃないだろうな」
「いえ、それは大丈夫かと」
受付嬢が口を挟む。
「先ほど、もう帰ってきてましたから」
「おいおい、ヒヤッとさせるなよ……」
小さく息を吐く。
「でも、怪我はしてました」
その一言で、空気が少し変わる。
ギルドマスターの視線が、女へ向く。
「剣姫、てめぇ……」
女は、少しだけ首を傾けた。
「当たっちゃった」
――
「つまりだな……」
ギルドマスターが言葉をまとめる。
「殺すつもりの気迫で威圧して、
傷をつけない位置に剣を持っていくつもりだった」
一拍。
「でも、なぜか剣が当たってしまった」
「こういう事だな?」
「何度もそう言っている」
「お前の説明は言葉が足らなすぎるんだよ」
ため息。
受付嬢が、少し前に出る。
「ギルマス、それより……やっぱりあのタイチって子は」
「まだ、分からんな」
即答だった。
「異常幸運の持ち主でしょうか?」
「断言はできん」
腕を組んだまま、視線だけを動かす。
「剣姫。お前はどう思う」
女は、少しだけ考えてから、
短く言った。
「あの子は、面白い」




